デマは真実より6倍速い。感情やニセ情報で形成される世論。

 

「デマは真実より速い」

そんなことがMIT(米マサチューセッツ工科大)の調べでわかった。

MITの研究チームがツイッターで発信された情報を分析したところ、デマは真実より1.7倍リツイートされて、6倍も速く一定数に達していたという。

なぜデマ(ウソ)は真実より速く伝わるのか?

その理由について、毎日新聞の記事(2018年3月9日)にはこう書いてある。

偽情報は目新しく感じられ、接した人が驚きや恐れ、嫌悪感などを抱いて情報の共有を求めがちになるとみられる。研究者は「デマの流布に関する心理解明につながる」と話している。

「デマは真実より1.7倍「RT」 MIT調査」

 

心を大きく動かされる情報は、思わす拡散してしまう。
何かを見て、驚き・恐怖・嫌悪感などを感じたら、その気持ちを知り合いと共有したくなる。
そんなことは、だれにでも心当たりがあると思う。

 

ウソやデマに対して、「真実」は平凡でツマラナイものが多い。
衝撃的ではなく客観的な情報で、あまり感情にうったえてこない。
「衝撃の事実」が毎日いくつもあったら、疲れるけど。

デマが広がる理由には、「そのほうが真実よりおもしろくて、みんなに注目されるから」ということがあるだろう。
でも、そんなことで世論がつくられたら大変だ。

 

このニュースについて、ネットの反応は?

・ソース出せ!みたいな文化はなんでなくなったんだろうな
結構重要だよね
・デマは娯楽であり快楽だからな
・デマで割と真面目に人類滅びるかもな
・自分の望む結果を探してるんだからそりゃね
・ネットが普及したら人類はもっと知能が高まるんだろうなぁと思ったら
まさか退化するとはね
・Twitterはソースを確認やまずは疑ってかかるみたいな文化がない

 

 

驚きや恐怖に正義感が加わると、デマはさらに早く拡散されてしまう。

2016年の熊本地震で、そんなことがあった。

この地震の直後に、こんな画像がツイッターで急激に拡散された。

 

画像はNHKの「クローズアップ現代(2017年2月6日放送)」から。

 

もちろんこれはウソ。

「熊本の動物園からライオンが逃げた」と、デマを流した男は後に逮捕された。
災害時にニセ情報を流したことで警察に捕まったのは、全国でこれが初めて。

 

「クローズアップ現代」では、これにだまされてリツイートした10代の女性の言葉を紹介している。

「もしかしたらということがあるかと思って。近くにいたら危ないから知らせないとと思って(友達に拡散)しました。」

あなたも知らぬ間に… ネットで拡散“デマ情報”

 

衝撃的な情報に善意や正義感がくわわると、すさまじい勢いで拡散されてしまう。
フェイクニュースはいま、世界的な大問題になっている。

 

 

「災害時のデマ情報」といえば、1923年(大正12年)の関東大震災のときにもそんなことがあった。

関東大震災

死者・行方不明者約14万名。震災直後の混乱の中で、亀戸事件・甘粕事件が起き、また、多数の朝鮮人が官憲・自警団によって虐殺された。

デジタル大辞泉の解説

 

このときに殺害された朝鮮人の数は、ハッキリとは分かっていない。
ボクは以前「6000人」と聞いたのだけど、いまでは233人~6661人といろいろ説がある。

くわしいことは産経新聞の記事(2017.9.1)を読んでほしい。

「朝鮮人虐殺」殺害された人数に諸説

 

このときに、「デマ」によって殺された人がたくさんいる。
日本には、こんなニセ情報が広がっていた。

当時はテレビはむろんラジオも日本にはなく、新聞のみが唯一のマスメディアだったが記事の中には、「内朝鮮人が暴徒化した」「井戸に毒を入れ、また放火して回っている」というものもあった。

流言の拡散と検証、収束

デマを流す者に対して警告する警視庁のビラ(ウィキペディア)

 

いまの世界には、ウソ情報があふれている。

2016年にオックスフォード英語辞書は、世界の今年の言葉として「post-truth(ポスト真実)」を選んだ。

「ポスト・トゥルース」とは「脱・真実」ということ。

根拠のある事実よりも、ウソであっても心を動かす感情的な情報のほうが強い影響力をもってしまう。
そんな状況のことを「ポスト・トゥルース」という。

フェイクニュースによって世論が形成されるとしたら、これは大問題だ。

くわしいことはBBCのニュース(2016年11月17日)を見てください。

「ポスト真実」が今年の言葉 英オックスフォード辞書

 

日本をふくめて世界中の国にこの問題がある。
いま大騒ぎになっている「森友問題」でも、そんな面があるだろう。

情報を流す側が、別の場面のいろいろな事実を組み合わせてニュースをつくってそれを見せる。
そして自分が望む方向に世論を誘導する。
デマやフェイクニュースとは言わないけれど、そんな「印象操作」のような情報が多いように思う。

一つ例をあげれば、次の言葉を言った人はだれか?

「いい土地ですから、前に進めてください」

これは籠池氏が言ったことで、安倍首相の夫人である昭江氏の言葉ではない。
ボクのまわりで、これを「昭江氏が言った」と思っていた人がいた。

テレビ番組でもそんなことがあった。
番組を進行するアナウンサーが「「『いい土地ですから前に進めてください』という『ご本人のコメント』が」と言ったとき、出演していたロザン宇治原 さんが 「ご本人のコメントじゃなくて『そう言ったという籠池のコメント』」と訂正していた。

印象操作された情報をそのまま受け取るとこうなる。

 

2017年の新聞週間の標語は「新聞で見分けるフェイク 知るファクト」だった。

それで毎日新聞は社説(10月15日)で、ファクト(事実)を知ることの大切さを訴えていた。

偽情報が紛れ込むことによって、社会で基本的な事実認識が共有しづらくなることだ。デマを信じる人と議論し、合意を求めても、理解を得るのは難しい。

きょうから新聞週間 フェイクは民主制を壊す

毎日新聞はフェイクニュースをこう非難する。

フェイクニュースは民主主義社会をむしばむ病原体だ。決して野放しにしてはならない。

 

「フェイク(ウソ)」を分からせるには、事実をしめすことが有効。

先ほど、関東大震災のときに朝鮮人が殺害されたことを書いた。

このとき横浜市でこんなことがあったのをご存知だろうか。

「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマを信じた1000人もの群衆が警察署に押しよせた。
というのは、この警察署が300人ほどの朝鮮人をかくまっていたから。

「朝鮮人を出せ」とせまる人たちに、大川という警察署長がこう言ったという。

「朝鮮人を諸君には絶対にわたさん。この大川を殺してから連れて行け。そのかわり諸君らと命の続く限り戦う」

そして「毒を入れたという井戸水を持ってこい。その井戸水を飲んでみせよう」と言って、一升ビンの水を飲み干したという。

くわしいことはここを見てください。

治安維持緊急勅令の発布

 

「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というのは、根拠のないデマ。
ウソを崩すには「その水を飲んでもなんともない。だからそれは間違いだ」と、根拠のある正確な情報をしめすことがいい。

 

いま、慰安婦問題で出回っているフェイクニュースが気になっている。

このブログで何回も書いているのだけど、慰安婦問題での「強制連行」と「性奴隷」という説は否定されている。
根拠が何もないから。

そのことは、2016年に日本政府が国連で言っている。

くわしいことは産経新聞の記事(2016.2.17)を見てください。

杉山外務審議官の発言要旨 慰安婦強制連行に関する国連女子差別撤廃委

 

でも、いまでも「強制連行」と「性奴隷」という情報を信じて拡散する人がいる。

記事のはじめに、「デマは真実より6倍も速い」ということを紹介した。
ニセ情報には、驚きや恐れ、嫌悪感などを感じさせるものが多い。

「慰安婦が日本人に無理やり連れて行かれた」
「現地で慰安婦は性奴隷のような扱いをうけていた」

こうした情報は衝撃的で、受け手の心をゆさぶる。
そうすると根拠をたしかめずに、その情報を真実だとつい思ってしまう。

「ウソは真実より速い」というけれど、2018年の現在でも「強制連行」や「性奴隷」を信じている人がいるのを見ると、「ウソは真実より力強い」とも思う。

 

最近、作家の北原みのりさんの文章を見た。
週刊朝日で連載している「ニッポンスッポンポンNEO」のもの(2018.3.13)。

そう。女たちにとって「慰安婦」問題は、日韓政治問題ではなく、最初からずっと人権問題だったのだ。そしてその一歩も動かないその強さが、韓国社会、国際社会を変えてきたのだ。

北原みのり「『慰安婦』問題は人権問題」

 

感情に訴えかけてくる言葉には影響力がある。
でも、「一歩も動かないその強さ」をもった女性が言っていることは根拠のある事実なのか。
慰安婦問題についての韓国社会の認識は、「強制連行」や「性奴隷」といったフェイクニュースで形成されたものではないか。
もちろん、事実であれば問題ないのだけど。

 

「朝鮮人が井戸に毒を入れた」というデマには、言葉だけが存在していて根拠はなかった。
そんなニセ情報に社会の空気がつくられて、多くの朝鮮人が殺されてしまった。

そんな世論形成、「ポスト・トゥルース」には要注意。

心が熱くなる情報に接したら、頭は冷静になってその根拠を確認しないといけない。
そうでないと、「熊本の動物園からライオンが逃げた」という情報をリツイートするような、デマの拡散に手を貸してしまう。

インターネットが広がったことで、感情やニセ情報で世の中が形成されることが多くなったと思う。
デマが真実より6倍速く進む今の時代、「あっ」と思う情報には要注意ですよ。

 

 

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2 件のコメント

  • 私が関東大震災下で朝鮮人虐殺が起きた事実に際して思ったのは何故起きたのか、何故朝鮮人が居たのかです。移民政策を取っていた日本に朝鮮人を歓迎する環境はなかったでしょう。地元の方々と移ってきた朝鮮人の方々の関係はどうだったのでしょうか?ここのコラムで知った戦後の浜松事件。あの事件の歯止めが効かなかったケースが関東大震災で起きたのだと私は思っています。殺人に正当化の余地はありませんが。ただ同じ土壌が未だに日本に残っているとも思います。日本国民の余裕が無くなるほどの災害が起きない事を、起きる前に火種が解消される事を祈っております。

  • 今から関東大震災の状況を理解するのはむずかしいですね。
    地域や個人によって日本人と朝鮮人の関係は違っていたでしょうし。
    熊本地震や東日本大震災でもデマがあって、ツイッターなどで急激に拡散されて不必要な混乱がありました。
    こうしたことにならないように、ふだんから情報をチェックする習慣を身に着けたほうがいいです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。