イスラム教徒の女性の服②ブルカはどんな感じ?女性差別?

はじめの一言

「農家と茶屋がたがいに間を置いて続き、その外観によって、住民のあいだに満足とつつましいゆたかさがゆきわたっていることを示していた
(スミス 江戸時代)」

「逝きし日の面影 平凡社」

 

今回の内容

・イスラーム教徒の女性の服
・ブルカは「視界」と「におい」が問題!?
・ブルカは女性抑圧の象徴か?

 

ニカーブを着た女性(イエメン)

 

・イスラーム教徒の女性の服

シリアやイエメンを旅していた時、イスラーム教徒の女性が着るニカーブが気になった。
暑い気候の中で、全身を覆う服を着ているのは、一体どんな気分なのか? 一見めちゃくちゃ暑そうだけど、案外そうでもないのかもしれない。
エジプトでは、ガラベーヤという服を着たことがある。エジプトは暑く、旅行中には50度近くにまで達したこともあった。しかし、空気はとても乾燥していて、ジーンズが20分ほどで乾いてしまった。

 

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ガラベーヤ

 

そんな気候でガラベーヤを着ると、全身が「日陰状態」になって直射日光を防ぐことができ、通気性もいいため、予想以上に涼しさを感じた。日本のような高温多湿の国で着たら地獄だが、エジプトのような砂漠地帯にこの服はフィットしている。
だからニカーブも乾燥している地域なら、着心地は悪くないのかもしれない。ニカーブによく似た服を、アフガニスタンでは「ブルカ」という。

 

ブルカ

 

前回、イスラーム教徒の女性の服装規定について書いた。
イスラーム教の聖典クルアーンのには、「また、女子の信者にはこう言え。目を伏せて隠し所を守り、露出している部分のほかは、わが身の飾りとなるところをあらわしてはならない」と書かれている。

女性が「美しい部分」を隠す理由は、女性が男性を誘惑しないため、らしい。

好色な目つきで女を見る邪悪な人々の関心を引くようなことをしてはならない。

外出する必要がある時には、イスラム法シャリアの定めに従って、全身を覆わなくてはいけない。
流行の恰好をし、華美で体の線が見える、蠱惑的な服を着て人の気を引く行為は、イスラム法シャリアにとって断罪される。そのような女は天国に行くことができない。

「カブールの本屋―アフガニスタンのある家族の物語 (イースト・プレス) アスネ セイエルスタッド」

 

こういう考え方があるから、西洋世界ではイスラーム教について「男尊女卑」と指摘されるのだろう。

 

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東南アジアのイスラム教徒はヒジャブで髪だけを隠すことが多い。

 

・ブルカは、「視界」と「におい」が問題!?

ここで話を戻して、ニカーブを着るのは一体どんな気分なのか?
ニカーブを着た女性の感想は分からないが、ブルカを着ている女性の感想は『カブールの本屋』に書いてあった。それによると、苦しいのは暑さではなくて「視界」と「におい」だった。
ブルカを着ると視界が狭まり、横が見えず、前しか見えなくなってしまうという。

ブルカをかぶると、遮眼帯をつけた馬と同じように正面しか見えなくなる。それも眼を細め、メッシュの部分の揺れが収まり、ブルカを正しく着用していたとして、だ。斜め前をちらっと見る、などということは不可能。
頭全体を動かさなければ見えないのだ。

(カブールの本屋 イースト・プレス)

 

「におい」も強烈らしい。

通気性がほとんどないので、ブルカには独特のにおいがこもっている。ビビ・ゴールのブルカは、いわく言いがたいにおいを放ち、中の本人もそのにおいに包まれている。
老人の息が、甘い花の香りや何か酸っぱいにおいと入り交じった、そんな感じだ。
ライラのブルカは、若者の汗と食べ物のにおいがする。

(カブールの本屋 イースト・プレス)

 

そういえば、エジプトでさまざまな種類の香水を売っていたのは、においを消すことが主な目的だったかも知れない。

 

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エジプトのピラミッド

 

・ブルカは女性抑圧の象徴か?

アフガニスタンで女性がブルカを着用することには、とくに西洋社会で「女性の人権を侵害している」と見なされることがある。

しかし、これには当然、こんな反論がある。

しかしながらパシュトゥーン人の文化的・宗教的伝統や、乾燥した空気や強い日光から肌を守ると言う気候に対応した機能も持っており、そう言う面では女性を守る意味もあるため、ブルカ=女性抑圧と単純に断じるのは危険であるという主張もある。

(ウィキペディア)

 

ブルカ着用を「イスラームによる女性抑圧の象徴」と考えていいのだろうか。それについても『カブールの本屋』に書いてあり、重要なことは「慣れ」の問題らしい。
アフガニスタンでは、タリバン政権の時代には国内の女性にブルカを着ることを強制していた。しかし、政権が別の人間の手に移ると、もう女性はブルカを着る必要がなくなった。
そんなとき、あるアフガニスタンの一家では次のようなことがあった。

ライラは、自分のブルカをクギに引っかけて、こんなひどいものは二度とかぶらないわ、と心に決めた。
ソニヤとシャリファもそれにならった。

シャリファがブルカを脱ぎ捨てるのは、難しいことではなかった。大人になってから、顔を隠さずに生活していた時期のほうがずっと長いのだ。それに比べてソニアの場合は大変だった。
これまでずっとブルカをかぶる人生を送っていたので、どうしても脱ぎ捨てるのがためらわれたのだ。

 

ブルカを着ている期間が短かったら、「こんなものは二度とかぶらないわ!」となり、そんな女性にとってはブルカは抑圧の象徴になる。
それに対して、ブルカをかぶることに慣れていた女性には、突然、それを脱ぐことには抵抗やためらいを感じる。そんな女性にとっては、ブルカの着用は人権侵害ではない。「脱ぎ捨てるのが当然」という空気(圧力)こそ、彼女を苦しめるかも知れない。

結局は、それに慣れているかどうかの違いが大きい。
アフガニスタンから遠く離れたところにいる人間が、「ブルカは抑圧の象徴だ!」「いや、その見方こそ偏見だ!」と議論していても、当事者にはそれほど大きな問題ではないのかもしれない。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

コメント

コメント一覧 (2件)

  • 多くのアフガン女性が苦しんでいることについて当事者でもない男性が、意外と抑圧でもないし大きな問題でもない、なんて簡単に言っていいことじゃないとおもいました。

  • ブルカの着用で「多くのアフガン女性が苦しんでいる」かどうかについては、わたしも関心があります。客観的なデータなどがあったら、ぜひ教えてください。

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