はじめの一言
「日本人が他の東洋諸民族と異なる性質の一つは、奢侈贅沢に執着心を持たないことであって、非常な高貴な人々の館ですら、簡素、単純きわまるものである
(カッテンディーケ 江戸時代)」
「逝きし日の面影 平凡社」
*奢侈(しゃし)
度を過ぎてぜいたくなこと。身分不相応に金を費やすこと。また、そのさま。
(デジタル大辞泉の解説)
今回の内容
・手段の目的化
・首長族は、「人間動物園」か?
ミャンマー人のガイドから首長族について話を聞いた。
このガイドはパダワン族(首長族)とは違う「シャン族」という少数民族の人。
彼女は大学で英語を学んでガイドになっている。
首長族と同じミャンマー人であると同時に、仕事でたくさんの西洋人と接してもいる。
だから、彼女はミャンマー人と欧米人の考え方や価値観を知っている。
そんな人だったら、首長族についてどう考えているのだろう?
・手段の目的化
このミャンマー人ガイドは、首長族の首輪がもともとは虎から身を守るためものだとは知らなかった。
「あの首輪が虎に食べられないためのものだったのなら、もう首輪はいらないはずですね。現在は虎に襲われるような時代ではないですから。今では首を長くして美しく見せることが目的になっていますから、首輪をする理由が最初と違っていますね」
*パダワン族が首輪をするようになった理由には、いくつかの説があります。
くわしくは過去の記事を見てください。
このときはお土産店にいた首長族の人が言った「虎から身を守るため」ということで話をしています。
目的が変わったというか、「手段が目的化」している。
最初は虎から身を守るために首輪をつけていた。
でも、首輪をしている姿が美しく見えた。
やがて虎には関係なく、自分を美しく見せるために首輪をつけるようになった。
こんな感じじゃないかと思う。
つまり首輪というのは、もとは「虎から身を守るための手段」だったけど、いつの間にか「美しく見せるため」という目的に変ってしまった。
そういうことだと思う。
・首長族は、「人間動物園」か?
ところで、気になったことがある。
何で首長族の人たちは、あのお土産店で働いていたのか?
一種の「客寄せパンダ」としてお土産店の人に目をつけられ、そこに連れて来られたんじゃないの?と思ってしまった。
きゃくよせパンダ【客寄せパンダ】
〔動物園のパンダは集客力があることから〕
人気や知名度によって,人々をひきつけることだけに高い能力を持っている存在を皮肉っていう語。人寄せパンダ。(大辞林 第三版の解説)
首長族は見た目のインパクトがある。
だから世界的に有名になったし、たくさんの外国人も彼女たちを見に集まって来る。
でもそれが問題にもなっている。
彼女たちを見に行くツアーを、「人間動物園」と呼んで批判する人もいる。
とりたてて観光の目玉のなかったタイ北部のメーホンソーン県は、カヤンが難民化したことにより観光開発の一部に「首長族観光」を組み込んだ。
強力なインパクト(首長風習)を有するカヤンの存在は、辺境地域にとり莫大な観光収入をもたらしたが、人道主義の識者らは、この「首長族観光」を「人間動物園」と称し怒りを露にした批判を行っている。(ウィキペディア)
ミャンマー最大の都市「ヤンゴン」
タイに行ったときに、こうした問題があることを知った。
このときは「人間動物園」という言葉は聞かなかったけど、首長族の人たちを見に行くツアーを批判していた人に会ったことがある。
「観光客は首長族の人たちを、自分たちと対等の人間だとは思っていない。観光業者も彼らを『見せもの』にして金もうけをしている。ひどいことだよ」
そんなことを言っていた。
ミャンマー人ガイドは観光業で働いているから、この「人間動物園」という批判についてはどう思っているんだろう?
「それはないですよ!彼女たちは長い首が美しいと思っていますし、誇りにも感じています。だから、外国人から写真を撮られることを喜んでいます」
それはボクもそう思う。
けど、この人は観光業で生活している人だから、首長族の人を見ることについて批判できないだけかもしれない。
これは結局、見る側の心の持ち方だと思う。
首長族の人をそうした「民族文化を持っている人たち」と敬意をもって見るか、「見せもの」として見るか。
ミャンマーの大地
おまけ
「人間動物園」とは、ヨーロッパで生まれた考えらしい。
人間動物園(にんげんどうぶつえん、「民族学的展示」「人間の展示」とも)とは、19世紀から20世紀にかけて行われた、社会進化論や人種差別、進化主義、植民地主義に根ざした、野蛮・未開とされた人間の文化・生態展示のことである。
実際のパビリオン自体の名称として黒人村とされている例もあるが、必ずしもアフリカ系の黒人が対象となるわけではない。(ウィキペディア)
先進国にいる人間の人種差別的な見方で、ヨーロッパの人たちはアジアやアフリカの原住民や民族を「劣った存在」だと考えていた。
2009年、NHKの番組で「人間動物園」という言葉が使われて大問題になったことがある。
NHKの番組で、日本が台湾を統治していた時代、台湾の原住民であるパイワン族の人をヨーロッパの博覧会で紹介したこと伝えていた。
そのとき、パイワン族の紹介を「人間動物園」と表現したのだ。
その放送を見たパイワン族の人が、名誉を棄損(きそん)されたとNHKを訴える。
2013年11月28日、東京高等裁判所は「当時は使用されていない言葉」とし、「一部の学者が唱える言葉に飛びつき、その評価も定まっていないのに人種差別的な意味合いに配慮せずに番組で何度も言及し、日英博覧会に志と誇りを持って出向いたパイワン族の人たちを侮辱した」と名誉毀損・民族差別であるとして、NHKに損害賠償を命じる判決を言い渡した。
(ウィキペディア)
7年前のことだから、このときの騒ぎはよく覚えている。
でもこのパイワン族の人の見方からしたら、首長族の人を見に行くことを「人間動物園」と表現することは、首長族の人の名誉を傷つけることになるかもしれない。
おまけ
ミャンマーの市場
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