東京オリンピックを来年にひかえて、いま日本では英語熱が高まっている。
郷に入っては郷に従えで、世界という郷でやっていくには共通語の英語が必要となる。
日本人にとっては読み書きはいいとして、カタカナ発音に慣れた耳でネイティブの発音を正確に聞き取るのはかなりハードルが高い。
ネットを見ると英語の聞き間違いによる失敗談はよくある。
「kidding me(冗談だろ?)」が「kill me(殺して)」に聞こえた。
荷物のパッキング中、相手が「Some more stuff(まだ荷物がある)」と言ったのを「Small Ramen(小さいラーメン)」 とかん違いした。
歌詞の「I’ll be there for you(あなたのためにそこにいます)」を聞いて「I’ll be dead for you(あなたのために死にます)」 と思った。
きのうの記事では明治時代の日本人の聞き間違いを紹介した。
西洋人がペットの犬に「Come here!」と呼んだのを聞いた日本人が、「犬を英語で『カメ』と言うのか」とかん違いして、それが日本で定着してしまう。
それでいまでも、「精選版 日本国語大辞典の解説」のカメの項目に「〘名〙 西洋犬。洋犬。」と書いてある。
今回はこの続きで、昭和の日本人の英語の聞き間違いを書いていこうと思う。
それはアメリカとの戦争が終わった直後のこと。文字どおりの直後。
フィリピンで降伏した日本兵が米軍の収容所に入れられたときのこと。
戦争中の日本はアメリカを敵とみていて、英語も「敵性言語」として社会から追放されたのだけど、それでも中等、高等教育で英語を学んでいた人もいた。
ただ、昭和のはじめごろの英語教育はひどいものだったらしい。
日本人の新聞記者が米軍収容所でおきたこんなエピソードを書いている。
その英語教育が、これまた皆さん御承知の通りのものなんだから、時々変なことが起る。ラロの収容所で知合になったI少尉は、米兵に「お前は蛙か」と聞かれて大いに憤慨した
「比島投降記 ある新聞記者の見た敗戦 (石川 欣一)」
もちろんこの米兵は捕虜となった日本人に「お前はカエルか?」なんて言っていない。
時代は違うけど同じ日本人なら、このI少尉がどんな英文を聞き間違えたか分かるかもしれない。
ということで、この米兵が言った正しい英文をあててほしい。
答えは「Have you a flag ?」。
米兵は「(日本軍の)旗を持っているか?」ときいたのだけど、I少尉には「ユー」と「フラッグ」だけが聞きとれた。
さらに昔も今も日本人は「R」と「L」の区別がむずかしいから、I少尉は「flag」を「frog」とかん違いしてしまった。
前回の記事で、西洋人の「Come here」が日本人には「カメや」に聞こえた原因として、「“have” や “her” と同様に頭のhが落ちてしまい」という説明があった。
だからひょっとしたら、「アユアフロッグ?」と聞こえてしまったかもしれない。
でもあとですぐに誤解と分かって、I少尉も苦笑いだったらしい。
こういう事例を見ると、昭和の日本兵も「kidding me」が「kill me」に聞こえた平成の日本人も変わっていないと思う。
おまけ
戦争中、英語は敵性言語とみられていたから、ここには「看板から米英色を抹殺しよう」とある。(昭和18年2月3日付『写真週報』第257号)
英語を日本の社会から”抹殺”するため、当時の日本人はそれまで使っていた外来語を無理やり日本語にした。
たとえば「パーマ」は「電髪(でんぱつ)」と言われるようになった。
野球ではストライクが「よし1本」、ファウルは「だめ」か「圏外」と言い換えられた。
日本人はこういうムダな努力を一生懸命していたのだ。
興味のある人はここをどうぞ。
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> 昔も今も日本人は「R」と「L」の区別がむずかしいから、I少尉は「flag」を「flog」とかん違いしてしまった。
これは意味不明ですね。『母音の「ae」と「⊃」の区別がむずかしいから』聞き違えてしまったのでしょう。
「日本人は「R」と「L」の区別がむずかしいから」という指摘は原文にあったものです。
カエルを「frog」ではなくて「flog」と書いてしまったのはこちらのミスです。