日本では昔から、ワケのわからないできごとや理解不能な現象がおこると、「それは天狗のしわざだ」と恐れられていた。
この民間信仰はいまでも日本の社会に生き続いている。
不条理・不可解なことに対して、インターネット上でこんなAAを貼りつけることはよくある。
先日、トルコ人と一緒に浜松市にあるお寺へ行ったら、本堂のなかで上のように天狗がまつられていた。
赤い顔をして長い鼻を持つ天狗のビジュアルはトルコ人の興味を引くのにじゅうぶん。
写真を撮ってから、「あの怪物はなんですか?」と聞いてくる。
天狗は人間を超えた存在で、空を飛んだり不思議な力を持っているから人々に恐れられている。
神様として崇拝されることもあるけど、いまでは観光地のキャラ的な存在でもある。
そんな説明をトルコ人にしておいた。
天狗の正確な説明はここをどうぞ。
トルコにもこんな怪物や妖怪のようなモノはいるだろうと思って、逆に聞いてみた。
「え~っと」と少し考えたあと、「トルコでは『ジン』ですね」と言う。
日本の天狗のような存在はトルコではジン。
で、それは一体どんなモノなのか?
1802年に描かれたジン
まずは「ジン」を辞書的な意味で理解しておこう。
アラブ世界で人にあらざる存在であり、なおかつ人のように思考力をもつとみなされる存在、すなわち精霊や妖怪、魔人など一群の超自然的な生き物の総称である。
「アラジンと魔法のランプ」に出てくるランプの精(魔人)がこのジン。
「ジン」とはアラビア語で、「目には見えず、触れることのできいないもの」という意味になる。
ふだんは見ることができないけど、煙のような気体が集まってジンは姿を現す。
天狗や鬼とちがって気体のよう存在だから、大きさを変えて巨人になったり、蛇や美女などに姿を変えることもできるという。
ジンは何でもできるようなオールマイティーで不思議な存在。
むかしアラブ世界で、不思議なことは全部「ジンじゃ、ジンのしわざじゃ!」としてきたから、何でもアリになったのではないか?
アニメ好きの人なら「マギ」で見たことあるはず。
魔法使いのアラジンがあやつる「ウーゴくん」が現実世界ではジンになる。
アリババの「アモン」や練白龍の「ザガン」もアラブ世界のジン。
ジンは知力や体力などあらゆる面で人間を上回るけど、伝説の王ソロモンだけにはかなわない。
ソロモン王はジンを意のままにあやつることができたという。
ジンたちが城壁を築いている。(16世紀の絵画)
ジン(Jinn)は、アラビア世界にイスラーム教が浸透する前にあった信仰のあらわれらしい。
Jinn are not a strictly Islamic concept; rather, they may represent several pagan beliefs integrated into Islam.
さて話をトルコ人にもどす。
トルコのジンもアラブ世界のジンと同じものかと思って聞いたら、そのトルコ人は「そうかもしれない」と言う。
トルコで「ジン」と言うけど、それがアラビア語かどうかはわからないし、トルコ以外のところでもジンと呼ばれる存在があることは知らなかった。
このときトルコ人からジンについてこんな話を聞いた。
*これはこの人の話だから、どこまで正確かはわからない。
・ジンにはいろんな種類があって、人を幸福にすることもあれば災いをもたらすこともある。
・黒魔法士がジンを呼んであやつることができる。イマーム(イスラーム教の聖職者)の中にもジンをあやつることができる人がいる。
・トルコでは一般的にジンは恐れられていて、「ジン」の名を3回唱えると不幸が訪れる。
トルコのジンは日本の天狗より恐ろしそうだ。
ジンと戦ったらきっと天狗が負ける。
ときどき人間にやられるヘタレもいるから。
天狗が木曽義仲に鼻をつかまれている。
それにしても魔法使いは分かるとして、イマームがジンをあやつれるというのは初耳だ。
崇拝の対象はアッラーしか認めないイスラーム教で、ジンの存在は許されるのだろうか?
そのトルコ人いわく、クルアーン(英語読み:コーラン)にもジンが出てきているから、イスラーム教の教えには何の矛盾も問題もない。
そのことはウィキペディアにも書いてあった。
唯一神教であるイスラーム教でも、ジンの存在を完全には無視できなかった。クルアーンもその存在を認めており、アル・ジンという表題のスーラ(章)があるほどである。
観光地では天狗のお面が売っているけど、ジンはこんな身近で気軽な存在ではない。
「その名を3回口にしていけない」というジンでこんなAAを作ったら、どんな恐ろしいことになるのか?
長くなったからくわしくは書かないけど、日本でいう「コックリさん」がトルコにもある。
日本では霊が指を動かしていると言われるけど、トルコではジンのしわざと言われているらしい。
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