多文化共生がうまくいくコツ。「いやなら出ていけ」

 

イスラーム教で断食をしないといけない月を「ラマダン」という。
*「ラマダン=断食」というわけではない。

ラマダンの断食月が終わると、イスラーム世界では「イフタール」という食事会を開くのが恒例。
2年前、東京の小池都知事が都庁にイスラーム諸国の大使を招いてイフタールをおこなった。

読売新聞の記事(2017年01月31日)

イフタールはアラビア語で「断食を破る」という意味。
イスラム教徒はラマダンの間、戒律により日中の飲食が禁じられているが、日没後は家族や知人とともに豪華な食事をとる。

断食月に大使ら招いて夕食会…小池知事が発案

 

20年前はまわりの人にラマダンと言っても誰も知らなかったけど、最近は「イスラム教の断食じゃね?」と言う人が増えてきた。
日本でイスラーム教の理解が進んでいるのは、日本に来るムスリム(イスラーム教徒)が増えたから。
そうなると日本の幼稚園や学校に通うイスラーム教徒も増えるから、近ごろこんなニュースをよく聞く。

神戸新聞NEXTの記事(10/7)

男女混在で着替えやシャワーをすること、豚由来の食べ物や製品に触れる場合もあること-などが記されていた。いずれもムスリムの習慣には反するが、最後には「保育については園の方針に従います」とあり、西宮市長あてに両親の押印を求めていた。

園児のピアス、母国の風習でも駄目? 理解得られず入園辞退

 

イスラーム教徒用の保育園ではなくて、一般の保育園ならこれはやむなし。
でも保護者が入園を辞退した大きな理由は上にあることではなくて、女の子がしていたピアスだった。
夫の母国(西アフリカの国)では女の子が生まれるとすぐに、「生きる証し」や「魔よけ」などの意味でピアスをつける風習がある。
*だからこれはきっとイスラーム教の教えとは関係ない。

ピアスを他の園児が飲み込んでしまうおそれがあるため、保育園側は安全第一を考えて園内ではピアスを外すことを求めたけれど、保護者はそれを受け入れず、入園を辞退した。

保護者には自分の意見を述べる自由はあるけど、園内のルールや基準についての決定権は保育園にある。
検討した結果、答えがノーなら、保護者は別のところを探すしかない。
アフリカ人の夫はピアスをしていないと「子どもに良くないことが起きるのでは」と心配しているらしいけど、保育園にしてみれば「ピアスをしていると、子どもたちに良くないことが起きるのでは」と心配だ。
ピアスの紛失をふくめて何かあったら、その責任は園が負うことになるだろうし。
園内にいるときはピアスを外すぐらいの配慮や柔軟性がないと、日本で生活するのはむずかしい。

 

 

多文化共生では世界的な先進国オランダで2年前、こんなことがあった。
バスの運転手になろうとした移民男性が、宗教上の理由で女性との握手を拒否したところ、希望するバス会社から就職を断られた。

「これはしかたない」
「いや、異なる価値観を尊重すべきでは?」

バス会社の判断にオランダ国内で賛否が分かれる。
ルッテ首相は、「『私の宗教信条にそぐわないので女性と握手できない』と運転手が言うなど、認められないはずだ」とバス会社の支持を表明。
誰とでも握手をするというのがオランダの価値観だから、外国人もオランダに住む以上はその態度を守らないといけない。

ルッテ首相は厳しく一線を引いた。

イギリスBBCニュース(2017年01月24日)

「普通に振る舞え。さもなければ出ていけ」と主張。自由を求めてオランダに来たはずの人たちが、その自由を乱用しており、国民は反感を強めていると指摘した。

「いやなら出ていけ」 オランダ首相が意見広告 反移民ムード背景か

この主張は国民から広く支持されて、ルッテ氏はその後の選挙で再度首相に選ばれた。

 

オランダ人は外国人に寛容だけど、オランダの価値観を否定するような自由は認めない。
無制限に外国人の自由や権利を認めていたら、オランダ国民が外国人を嫌いになって共生はうまくいかない。
外国人が自由を乱用すれば、その国で排外主義がはこびるだけだ。

無条件に「外国人は出ていけ」と言うのは排外主義だけど、「この国の価値観がいやなら出ていけ」と厳しく言えるトップがいないと、多文化共生社会はきっと行き詰まる。
小池都知事のように異文化交流で外国の価値観や風習を知ることと、「これ以上の自由は認めない」と明確に一線を引くことは矛盾していない。
外国人との共生には両方の姿勢が必要だ。

 

マルク・ルッテ首相

 

 

こちらの記事もどうぞ。

移民毎年20万人受け入れ? 多文化共生社会を考えましょ「目次」

なんでイギリス人はみかんを「サツマ」と呼ぶの?②薩摩藩と英の「薩英戦争」

キリスト教の宗派の対立③ ルターと織田信長という「破壊者」

カテゴリー: ヨーロッパを知りましょ!

「らいおんハート」の意味とは?イギリスの王様と英仏の関係

 

2 件のコメント

  • むむ、難しい問題だな、宗教は
    一線を引くのは正しいと思いますが、園児のピアスはどうでしょうか
    本記事を読んでないので申し訳ありませんが、ピアスを飲んでもほとんど問題ありません、ウンチで出てくるでしょう
    縫い針も出るくらいですから、リチウム電池は長期滞留すると爆発の恐れ、アナログ電池は液漏れ前に肛門から出れば大丈夫、ビー玉なんか全然大丈夫
    ピアスなんか、欠けた乳歯みたいなものでしょう
    園長は経験上、信用できないもんで

  • 園としては、ピアスを園児に飲み込ませたら問題になると思ったのでしょう。
    個人的には、園にいる間はピアスを外すというのはむちゃくちゃな要求ではないと思います。
    変な園もあることは事実ですが。

  • コメントを残す

    ABOUTこの記事をかいた人

    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。