ボクが初めて行った外国はアジアにあるイギリス。
中国に返還される3年前、当時イギリス領だった香港の啓徳(カイタック)空港に降り立った。
まあただの観光客だけど。
自由民主主義で資本主義経済のイギリスから、共産党の統治する社会主義の中国にかわったら、香港社会は何がどう変わってしまうのか?
まったく先が見えない香港人の間では、不安と期待が「99.9:0.01」の割合で入り混じっていた。
このとき泊まっていた日本人経営の「ラッキーゲストハウス」で、宿泊客や従業員からそんな話を聞く。
勤務先の会社が買収されて別企業になるだけでも、サラリーマンはすごいストレスを感じるのだから、このときの香港人の不安はすさまじいものだった思う。
でもそんな香港人の思いは中国側も理解していて、香港が中国領となっても50年間は社会を変えないと約束する。
中国の中にあっても、香港の資本主義や民主主義はそのまま続くという「一国二制度」を認めると発表。
具体的には香港は中国と違う独自の法律をもった特別区となる。
くわしいことはこの記事をどうぞ。
話を返還目前の香港に戻すと、中国の言う一国二制度を信用する香港人なんてほとんどいないという話をラッキーゲストハウスで聞いた。
未来がまったくよめないから、いだく展望も本当に人それぞれ。
中国領となることは確定していたから、おぼれる者がつかむワラのように中国政府のことばを信じる人もいたし、中国共産党が香港の民主主義を守ってくれるというのは、ロシアンルーレットより危険な賭けだと悲嘆にくれる人もいた。
中国が香港の自由をうばうようなことがあったら、国際社会とくにイギリスが黙っていないからきっと大丈夫と楽観視する人もいた。
なかには、香港が中国にのみ込まれるのではなくて、香港の自由を知ることで中国に民主主義が広がるという意見も聞いた。
「いざとなったら、ここを閉めないといけなくなるかもしれない」とラッキーゲストハウスの従業員(オーナー?)が言っていたのが印象に残っている。
さて中国領となった香港は中国にのみ込まれたか、それとも香港の自由は守られたか?
8年ぐらい前に香港人から聞いた話だと、のみ込まれてはいないけど、香港の中国化は確実に進んでいる。
政治家や裁判所では中国寄りの人が増えたし、街の看板でも香港の漢字(繁体字)ではなくて、中国本土で使う漢字(簡体字)が多くなった。
*香港と中国本土では漢字が違う。
楽は樂(繁体字)と乐(簡体字)、観は觀と观、発は發と发という感じ。
くわしいことはこの記事を。
でもその香港人は、香港は中国の領土になったのだから、このていどは仕方がないと受け入れていた。
自分の生活に直接的な影響はないということで、政治にあまり興味がなかった。
その後も香港では、「一国二制度」と言いいつつも中国化が着々と浸透していく。
でもここにきて、一気に揺り戻しが起きて元へ傾いた。
11月24日におこなわれた地方議会選挙で、民主派が452議席中、388議席を獲得(85%)する。
中国返還後の選挙では過去最高の投票率(71%)で、民主派が過半数を取ったのもこれが初めて。
親中派議員が一斉に追い出される歴史的な結果となった。
ことし6月、中国政府の後押しを受けて香港政府が逃亡犯条例を改正しようとしたことで、それに反発する人たちが大規模なデモを始めていまだに続けられている。
今回の選挙は中国・香港政府に明確な「ノー」を突き付けた。
けさの日本の新聞各紙も社説でこれをとり上げていて、論調はどれも同じで「香港の民意を尊重しろ」というもの。
憲法改正や韓国への姿勢など、いつもは意見の合わない朝日新聞も産経新聞もこの点では一致している。
朝日新聞の社説(2019年11月26日)
香港に対し中国政府がやるべきことは、民意を謙虚に読み、「一国二制度」の原則に立ち戻ることだ。
香港区議選 強権への明確な「ノー」
産経新聞の社説(2019年11月26日)
中国、そして香港の政府とも、一国二制度の下での高度自治を破壊する圧政を改め、民意に歩み寄るべきである。
香港の区議会選 圧勝の「民意」に歩み寄れ
徐々に確実に、狡猾に香港は中国にのみ込まれると思ったけど、ここにきてそれを拒否して原点回帰の動きが進んだ。
返還から22年過ぎて分かったことは、中国や香港政府は信じられないということ。
今月、道路清掃の「ボランティア活動」と言って人民解放軍が市街地に出てきたけど、地元の人でそれを真に受ける人はいなかっただろう。
これからも「一国二制度」をめぐって、中国化と香港化の対決は展開されると思う。
看板に中国の漢字が増えたと話す香港人が心から望んでいることは、そのどちらかでもなくて社会の安定化。
だけど今回の選挙結果を見ると、それはまだまだ先のようだ。
そうえいば、あのラッキーゲストハウスはどうなったんだ?
と思って調べてみたら、ことし7月に廃業したらしい。
合掌。
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台湾と違って、香港は難しいですねぇ。島と言っても橋で大陸とつながっていて、九竜半島部分を含む、地理的には明らかに中国大陸の一部ですから。独立はおろか、一国二制度を維持するのだって、並大抵のことでは無理だと思う。
でも、我々西側先進国だって、監視カメラを備えたAIがビッグ・データを活用して国民・市民をコントロールする、ほとんど中国共産党のやっていることと同じ、そういう世界になりつつあるのかもしれません。
自由と民主主義(なのか?本質は。)を守るためには、やはり香港市民のように自ら声を上げて拳を振り上げるしかないのか。まだ将来のある若者たちは、きっとそのことが感覚的によく分かっているのでしょう。
香港の民主や一国二制度を守るといっても、それがどこまでなのかは人によって違います。
香港人のなかでも分裂が起きていますし、混乱は長引きそうです。