「vandalism(ヴァンダリズム)」という英語を知ってまっか?
カタカナ表記から分かるようにこれは日本人には馴染みのない言葉で、芸術作品や宗教・文化的な文物を破壊する暴力行為をさす。
広い意味では電車や地下鉄などの公共物への落書きもヴァンダリズムになって、これを行うと日本では器物損壊罪として警察に捕まる。
この言葉は、5世紀にローマ帝国で破壊の限りをおこなったヴァンダル族に由来する。
くわしいことはこの記事をどうぞ。
ヴァンダリズムという言葉はおもに、宗教や芸術などの文化的造形物を破壊したり傷つけたりするときに使われる。
神社の絵馬に落書きする行為を、ある海外メディアは「vandalism」と表現していた。
だからこれもヴァンダリズム。
読売新聞テレビニュース(2019/12/17)のニュース
龍安寺に落書き 男性を不起訴処分
京都にある世界遺産、龍安寺の壁に油性ペンで「我青龍感謝朱雀待たせたな白虎」と落書きをして、器物損壊の疑いで男が逮捕された。
白い壁を見たら創作意欲が湧いてきたとか、寝ぼけたことをのたまっているらしい。
仏教を否定するといった強い悪意がなかったせいか、男は不起訴処分となった。
国民のほとんどが無宗教という、宗教対立の面では超絶平和な日本で起こるヴァンダリズムはこれぐらいだけど、外国ではかなり深刻なケースが多い。
例えば去年、知り合いのアメリカ人がこんなツイートをシェアしていた。
In minutes, @louisvillemayor and others will address vandalism that happened at the Swaminarayan Temple on Bardstown Road. Neighbors believe it happened overnight. Spraypaint and broken glass greet you at the temple’s entrance. @WDRBNews pic.twitter.com/RtTEY4724X
— Chad K. Mills (@ChadKMills) January 30, 2019
アメリカにあるヒンドゥー教の寺院に何者かが侵入して、壁にあった神様の絵に黒いスプレーを吹きかける。
さらに入り口に、「Jesus is the only LORD(ジーザスだけが神)」と落書きをする。
このアメリカ人は、キリスト教原理主義者によるvandalismと言う。
「待たせたな白虎」という落書きと違って、ここにはヒンドゥー教への憎悪が込められているから、市長は「この街でヘイトは許されない」と声明を発表する。
ここまでくると不起訴処分はきっと無理。
海外で起こる宗教的なヴァンダリズムには、こういう背筋が寒くなるような敵意に満ちたものがある。
こういうニュースを知ると、宗教色のない平和な日本でよかったと心底おもう。
そうおもうのだけど、日本の歴史を見ると例外的だけど、破壊行為をともなうヴァンダリズムが行われたときもあったのだ。
江戸時代が終わって明治になってすぐ、1868年に明治政府が神仏判然令(神仏分離令)をだす。
いまでもそうだけど、日本人の信仰は神道も仏教も同じぐらい大事、神様と仏様の両方に敬意を払うという神仏混交が特徴だ。
明治政府はこの考え方を否定して、神道(神社)と仏教(お寺)をそれぞれ切り離すように命じた。
この神仏分離令は神道優位だったから仏教弾圧になり、全国で廃仏毀釈運動の嵐が吹き荒れる。
その結果、多くの寺や仏像が破壊された。
地方の神官や国学者が扇動し、寺請制度のもとで寺院に反感を持った民衆がこれに加わった。 これにより、歴史的・文化的に価値のある多くの文物が失われた。
明治のヴァンダリズムによって、首を斬り落とされた仏像
日本人の伝統的な価値観は神仏習合、または神道・仏教・儒教の「三教合一」が一般的だったから、こんな発想は日本人のものではない。
間違った文明開化の一例で、評論家の山本七平氏はこう書いた。
三教合一論が否定され、神仏判然令が出されたのは、宗教混沌を否定するヨーロッパの宗教思想の影響を受けてからであって
日本人とは何か。(上巻)山本 七平 (PHP文庫)
明治の神仏分離令なんて日本人にはまるで合っていなかったから、このあとすぐ消えてしまった。
いまでは日本でこんな仏教の破壊活動があったなんて、知らない人のほうが多いだろう。
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