【表現の自由の限界】WHOが問題視する「自殺の描写」

 

表現の自由はとても大事だけど、無限大ではないし限度もある。
芸術でもドラマでもアニメでも超えてはいけない一線があって、これからは世界的に「自殺の描写」が問題になりそうだ。

読売新聞の記事(2020/02/22)

WHO指針「自殺シーンやめて」に賛否…ドラマ「13の理由」は自主削除

世界保健機関(WHO)が言ったということは、世界中の国や地域が対象ということだ。
子供や若い人たちに悪影響を与えないよう、いじめや過激な暴力シーン、それに性犯罪の表現が規制されてきたけど、いま問題になっているのが「自殺の描写」で、これを避けるようにWHOが映画やテレビ番組の制作者向けて発信した。

そのきっかけとなったのが、2017年にNetflixで公開された「13の理由」というドラマ。
このドラマでハンナという10代の少女がバスタブでかみそりを手首を切り、血だらけになってそのまま亡くなるシーンがあった。

注目されていたドラマだったこともあって、この自殺シーンが世界中から批判を浴びる。

10代の子をもつ親や自殺防止のために活動する個人や組織などから、これは若者の自殺を助長するといった懸念や怒りの声が上がって、制作側は「実際の自殺がどのようなものかを見せる絶好の機会だと思いました」と説明したものの、問題があったと認めたのか圧力に押されたのか、Netflixiはこのシーンをカットすることにした。

でも命はかえってこない。

このドラマを見ていた19歳の娘がハンナと同じ方法で自殺したあと、その親はあの番組が背中を押したと言い、こう非難する。
バズフィードジャパンの記事(2019/8/31)

「彼らは間違ったことをしたと認めたのでしょう」とディーソーンは話す。
「私は思いました。自ら命を絶った人々のどれくらいが彼らの責任なのだろうと」

『13の理由』を見た数週間後、娘は自殺した。物議を醸した自殺シーンをNetflixは削除

 

こうしたことがあって今回、WHOが世界に向けて「テレビや映画製作者らに向けた『自殺予防の指針』を発表した。
ある意味、背中を押したのはまたも『13の理由』だった。

その指針は具体的にはこんな内容からなる。

・困難な状況に屈しないことやそうした状況から立ち直る力(レジリエンス)、 また効果的な問題対処の方法を示している人物や物語を取り入れること

・自殺の行為や手段に関する描写を避けること

・自殺の兆候となり得るものと、兆候にいかに対処すべきかを含めること

くわしいことはここをクリック。

自殺対策を推進するために

 

でも、表現することはやっぱり大事。
映画界からは、「『表現の自由』が阻害されるおそれがある」という反発の声が上がっている。
自殺の描写はどこまで許されるのか?
その本格的な議論が始まるのはこれから。

 

日本では1997年に「完全自殺マニュアル」が出版されて、10代や20代の支持を受けて100万部超えのベストセラーとなった。
これは自殺をすすめるものではなくて、「いざとなれば自殺してしまってもいいと思えば、苦しい日常も気楽に生きていける」と、むしろ生き方についての新しい見方を提案している。

とはいえ自殺をするときの苦しさやその確率、それにかかる手間や費用など細かい情報が載っていたから、世間の反応は大きく分かれた。
先ほどのWHOの基準だときっとNG。
いまでもアマゾンで売っていて、レビューを見ると意外と高評価でビックリだ。

 

 

 

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2 件のコメント

  • 欧米キリスト教(特にカソリック)では、自殺は、神に与えられた命を勝手に人間が消し去る、いわば自分に対する殺人とも言える、非常に罪深い行為とされていますからね。心理的抵抗は非常に大きい。
    しかし日本では、昔から、「即身仏」「極楽への往生」「名誉の切腹」など、必ずしも自死に対して負のイメージだけがある訳ではない。その感覚は、現代にも脈々と受け継がれているように思います。
    この件に関しては欧米人と討論・議論をしても、宗教的基盤が異なることから、合意点は見出だせない可能性が高いのでは。

  • これはWHOの指針と各国表現者の対立のという構図でしょう。
    日本は自殺描写で大きな問題が起きたという記憶がありません。
    性表現や暴力シーンはゆるやかで、他国だと問題になることがおおいのですが。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。