では、まずはクイズをひとつ。
上の絵は学校の教科書で見たことがあると思う。
これを描いた日本を代表する浮世絵師と、この絵の名称は何でしょう?
この絵を描いたのは江戸時代の葛飾北斎で、作品名は「富嶽三十六景」のひとつで「神奈川沖浪裏(なみうら)」という。
これは時代と国を超えて世界的に有名な絵で、まえにアメリカ人の家に行ったとき、パソコン横にあったマウスパッドのデザインがこれだった。
「神奈川沖浪裏」は19世紀後半、ヨーロッパにも紹介されて印象派の画家ゴッホをうならせるなど、欧州の芸術家にインスピレーションをあたえる。
1998年には米紙「ライフ」誌による「この1000年で最も重要な功績を残した世界の人物100人」に日本人で唯一選ばれたのが葛飾北斎だ。
2024年度に発行される新千円紙のデザインは神奈川沖浪裏だから、日本にいる人なら毎日のように見ることになるはず。
ドレスデンの彫刻
フランスの音楽家ドビュッシーもこの絵に魅せられた。
くわしいことは海を。
日本・台湾・中国には漢字を使っているという共通点がある。
でもこれは薬にも毒にも、理解や誤解の元にもなるから要注意。
中国や台湾旅行での楽しみのひとつが筆談で英語が話せなくても、共通語の漢字を書いて簡単なコミュニケーションをとることができる。
ボクの場合、「文法は英語、表記は漢字」というルールで文をつくったら、中国ではけっこう使えた。
北京行きのチケットがほしかったから、中国の鉄道駅で「我欲票到北京」と書いて職員に出したら意味を理解してくれてちゃんとチケットが買うことができた。
*「我欲票行北京」は正しい中国語の文章ではない。
中国は広大な国で、北京市が四国よりすこし小さいぐらいというスケールの国だから、高速鉄道のなかった時代は移動に時間がかかって、列車の中で一泊することもしばしば。
そこでの最高のひつまぶしは、いや暇つぶしは無料でできる筆談で、でたらめな漢字文でもまわりの中国人と意思の疎通ができて職業や行先、目的なんかのやり取りをすることができた。
よく分からないうちにカップラーメンやバナナをもらったこともある。
でも職業を聞かれたときに、「我是先生」と書いて見せたら、「は?」と相手が理解不能になる。
あとから知ったことだけど、中国語で「先生」は「~さん」、英語なら「Mr」という意味だから、これだと「わたしはミスターです」となってしまうから、これを言える日本人は長嶋茂雄さんだけ。
中国人に「先生」を見せてもteacherの意味とは分からない。
*最近の若い中国人には「先生」でも意味が通じることがあると聞いた。
中国で「手紙」はトイレットペーパーのこと。
ということでここは公衆トイレ。
本当かネタか知らないけど、ホテルのフロントで「手紙がほしい」と漢字で書いて見せたらトイレを案内されたという日本人と会ったことがある。
知り合いの台湾人も日本語を学んでいるときに、日本語には意味の違う漢字がある注意しなさいと先生から言われた。
例えば「勉強」という言葉だ。
中国や台湾で勉強とは「無理に」「無理する」という日本語とはまったく違う意味になってしまう。
ではここで第二問。
「請不要勉強」という中国語の意味はなんでしょう?
*「請」は「~してください」
「不要」は日本語と同じでno needでだから、全体としては「無理をしないでください」という意味だ。
日本人なら「勉強しないでください」と誤解してしまうところだ。
中国語でstudayの意味の「勉強」は「学習」になる。
さて話をこの絵に戻すとしよう。
「神奈川沖浪裏」というタイトルを「Kamnagawa oki namiura」(The Great Wave Off the Coast of Kanagawa)とローマ字表記にするならいいけど、「神奈川沖浪裏」と漢字で書いた場合、台湾人なら頭の中で何をイメージするか?
台北で開かれていた浮世絵の絵画展で、これを見たある台湾人はSNSにこう書いた。
ずっとこの絵は「神奈川でサーフィンするの絵」(中国語で沖浪=サーフィン)と思う
実は「神奈川沖」は「神奈川の海」、今日初めて知った!
日本語と中国語はこれぐらい違うのだ。
ちなみに「面白い」も台湾人にはわけわかめ。
知人の台湾人は、「顔(面)が白い」でなんでfunnyの意味になるのかまったく分からないと言っていた。
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「面白い」はすべて訓読みですから、おそらく純然たる日本語であり、もしかすると当て字かも。
日本国内でも「勉強しなさい」をたとえば関西で使うと、price down の意味になったりもします。(半分ジョークです、欧米人には割とよくウケる。)
漢字を英語順に書けば中国人に意味が伝わるのは、中国語も英語も原則として助詞を使わず、単語を並べる順番を重視して文を成立させる「孤立語」としての特性が一致しているからです。ただし英語は完全な孤立語ではなく、語尾が活用するので正確には「屈折語」ですが。
また、日本語のように単語の後ろに助詞をペタペタくっつけて、それによって文中での単語の役割を表すような言語体系は「屈折語」ですね。単語の順番なんかあまり重要ではないのです、日本語は。でも、その特徴こそが、一部の外国人にとって習得しづらい原因にもなっているらしい、日本語が、中でも特に欧米人にとってはですが。
言われてみると、「面白い」は当て字の可能性が高そうです。
日本国内でもひとつの言葉がいろんな意味になりますし、中国といろいろ違うのは当たり前ですね。
孤立語と屈折語の話は初耳です。
あーすみません、間違えました。
中国語のように単語が完全に独立しているのが「孤立語」、英語のように語尾が活用する言語は「屈折語」であり、日本語のように語尾に助詞をぺたぺたくっつけるのは「膠着語」でした。
油断してはいけないですね。