日本語を学ぶ外国人にとっては、一人称や二人称がややこしい。
英語ならそれぞれ「I」と「you」しかないけど、日本語には「わたし、わたくし、おれ、ぼく…」「あなた、あんた、君、おまえ…」とたくさんあって外国人には面倒くさい。
中国人もそれは同じらしい。
中国旅行でお世話になった日本語ガイドも、一人称や二人称のそれぞれのニュアンスを理解するのが大変だったと話していた。
中国語の場合は一人称は「我」、二人称は「你」(あなた)と敬語の「您」(あなた様)だけで基本OK。
二人称については性別や社会的立場に関係なく、目上の人には「您」、それ以外には「你」を使えばいいからこの点で中国語は簡単だ。
「でもねえ、むかしは「同志」っていう便利な言葉があったんですよ」
と言っていたのは、10年ほど前に出会った50代後半の日本語ガイド。
その人が大学生のころ中国では文化大革命が起きていて、紅衛兵(毛沢東を支持する学生運動グループ)のメンバーとしてその人も革命運動に参加したという。
1966年から始まった文化大革命について、くわしいことはクリック。
過酷な糾弾や迫害によって多数の死者や自殺者が続出し、また紅衛兵も派閥に分れて抗争を展開した。さらに旧文化であるとして文化浄化の対象となった貴重な文化財が甚大な被害を受けた。
中国全土でそうだったかは分からないけど、その人と周りは文革時代、男女や年齢に関係なく、お互いを「同志」と呼んでいた。
そう呼び合うことで価値観や考え方を共有することができて、強い連携感が生まれたという。
さらにこの言葉のいいところは、相手の名前を忘れたときでも「なあ、同志」と言えば何とかなってしまうこと。
「英語ならyouだけでいいのに、日本語には二人称がたくさんあるから難しい!」という外国人のコメントを見て(きのうの記事)、この「同志」という便利ワードを思い出した。
同志という言葉は日本で今でも使われるけど、中国ではどうだろう?
この言葉はアクティブなのかそれとも死語か?
そう思って、中国語を学ぶ日本人や中国人が集まるSNSグループに質問してみたら、こんなコメントが返ってきた。
・もともとは、友人、友達、仲間といった意味ですね。
同志は共産党員の仲間を呼ぶ場合や、政府の任務にあたる人を公式に呼ぶ場合に使うようです。
・警察官に話し掛ける時には警察同志と青島では言ってますね。
・「同志」はドラマとニュースでよく耳にします。党内、解放軍の中はまだ使っていると思いが、日常はあまり聞かないです。
・義母が78歳なんですが、知らない人を呼び止める時に『同志』を使ってます。
・今の中国人はあまり「同志」を使いません。それは古臭い呼び方です。同士は今は党内限定ですね。
ということで現在でも中国では共産党や軍の中では同志と呼んでいて、老人や警察でもこの言葉を使う場合があるようだ。
でも、日常的にはもはや絶滅寸前。
・中国で一回だけ、同志を聞いたことあります。ときどき、同事を同志と聞き間違えたこともありました。
・せっかく学習初期に覚えたので、年配の人にはよく同志とか劳驾を使って話しかけてました。日本人です、と言うとすごく喜んでくれました。いい思い出です。
・20年位前に中国語を習っていた時に、テキストの会話文での呼びかけで「同士、〜〜」と例文が書いてありましたが、今はこんな古い言い方しないと中国人の老师は苦笑いしてました。
*老师は先生のこと
・私が、1979年に初めて買った北京放送の中国語講座第一課の例文は「同志!你好!」でしたね(笑)
・2008年から2016年まで中国の大学に勤めていましたが、大学内でも街中でも一度も聞きませんでした。
耳にしたのはドラマの中だけでした。
文革時代のように、「なあ、同志」と呼びかけるのはドラマや映画の中だけらしい。
でも意味は分かるから、複数でレストランで食事をしているとき、態度の悪い店員に「同志!为人民服务吧!」と言った人もいた。
「同志!ちゃんと人民に奉仕しなさい!」といった意味らしい。
するとこれを聞いた周りの中国人客も笑い出したという。
意外だったのが、中国人の「日本に倣った漢字表現じゃ無いですか。」というコメント。
「同志」は日本人がつくった和製漢字だったのか?
調べてみたけどこれは分からない。
これも中国人からのコメント。
・年齢によりましょうね。
昭和時代の方に「同志」と呼びつけたら、嬉しくなれるかもしれません。
平成時代の方に「同志」と呼びつけたら、ムカつかれるかと思います。
さて日本ではどうかいうと、「同志」で検索すると「同志社」ばかり出てくる。
「仲間」や「同志社」なら、この言葉に対する日本人のイメージは良さそうだ。
だから中国や台湾で、「同志」にこんな意味があったのは衝撃的だった。
・同志 also means gay
同志にはゲイ(男性の同性愛者)の意味もある!
これは初耳だったけど、考えてみれば「志を同じくする者」という意味だからまあ分からなくもない。
ウィキペディアにもこんな説明がある。
台湾において同性愛者間における呼びかけの言葉として同志が用いられ始め、1990年代以降は中国国内においても次第に同性愛者間の呼びかけの意味が強くなってきており
台湾に住んでいた日本人のブログを見たら、「男同士」と「女同志」でそれぞれゲイとレズビアンを意味すると書いてあった。
・同志 在台灣已經很少用了
現在同志大多是用來稱呼同性戀者
*いまの台湾では「仲間」の意味で同志を使うことは少なくて、ほとんどの場合は「同性愛者」を表すらしい。
・使いますよ。政府関係者、警察には敬称として、友人などには冗談で同志よ!的な日本語のノリと大差ない使い方をします。ゲイの意味はありません。中国人より。 あ、地方は知りません。上海ではゲイの意味はないです。
でもこんな声もアリ。
・同志は台湾では滅多に使われない
最近, ゲイの人々はほとんどゲイの人と呼ぶのに慣れている。
この場合の「なあ、同志」は文革時代とぜんぜん違う。
これだけでも、中国はもう文化大革命を完全に乗り越えたことが分かる。
以上をまとめると、文革時代と共産党内の「同志」は現在の日本人が使う「同志」と同じだけど、スラングとして使われる「同志」はまるで違う。
日本も近い将来、ゲイの隠語になるか?
おっと、そう言えばこんなコメントもあった。
・同志はゲイの相手を表すことが多いので、中国からの日本の同志社大学への留学は避けられると聞いたことがあります。
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>意外だったのが、中国人の「日本に倣った漢字表現じゃ無いですか。」というコメント。
>「同志」は日本人がつくった和製漢字だったのか?
>調べてみたけどこれは分からない。
確かにNETで調べてみてもよく分からないのですが。江戸時代には「衆道」つまり「男性同士」で「同志」の契を交わす間柄になることを表す場合もあったようです。となると、現代の台湾・中国で広まりつつある「男同志」の用法も実はまんざら間違いではない?
このように、もともと日本語の漢語として存在していたものが、孫文によって中国語に持ち込まれ(孫文は共産主義者ではなかったから共産党員に限定して用いられた訳ではないです)、その後やがて、日本へ伝わってきたソ連共産党員の「タヴァーリシチ」という呼び方の訳語にされたことから、次第に、専ら共産党員が互いに呼び合う時の呼称として使われるようになっていったみたいです。「タヴァーリシチ(同志)」という呼び方は、ソ連v.s.米国の昔のスパイ映画(例えば「レッド・オクトーバーを追え!」など)を見てると、しょっちゅう出てきますよね。
江戸時代に使用例があるなら、漢字自体は以前からあって、日本が現在の意味に訳したかもしれませんね。
幕末・明治にはそういう言葉がたくさんありますから。