山形だけの風習「ムカサリ絵馬」。死者が結婚する目的は?

 

韓国には、死者と死者を結婚させる「霊魂結婚式」という風習があることを前回の記事で書いた。

【韓国の風習・文化】生者が死者を結ばせる「霊魂結婚式」

これは対象となる男女2人の遺骨を取り出して行う結婚式だから、日本人のボクとしては具体的な場面を想像すると背中が冷やりとするし、お墓を掘り起こす行為には道徳的なタブーも感じてしまう。
「この韓流は日本にはないわー」と思ったけど、山形に「ムサカリ絵馬」という似たような文化、死者を結婚させる風習があったのを思い出した。
ということでこれから、その内容や目的なんかを紹介しようと思う。

 

ムカサリというのは婚礼を意味する山形の方言で、語源は「迎える、去る」とも「む(娘)が去る」とも言われている。
子供が結婚しないまま若くしてこの世を去ると、それをかわいそうに思った親が、息子と架空の女性が結婚式を挙げる様子を絵馬に描いて神社に奉納する。山形に伝わるそんな風習を「ムサカリ絵馬」という。

この動機は韓国の「霊魂結婚式」と同じで、死んだ子供が良い伴侶と一緒にあの世で幸福に暮らすことを願ってのことだろう。
もともと絵馬には自分の願望を書くけれど、山形では絵馬にこんな願いを込める人もいるのだ。

ムカサリ絵馬は日本でも山形だけに伝わる文化で、対象ややり方について詳しいことはここを見てほしい。

これは未婚の死者を結婚という通過儀礼を通すことで、祖霊としての地位を確立させている。その際シャーマンである「オナカマ」に依頼して死者を呼び出してもらい、故人の様子を聞き出す。その際必要であればムカサリ絵馬を奉納する。

ムカサリ絵馬

 

ムカサリ絵馬については山形県にある若松寺が有名だ。

交通事故・戦争・病気・水子等の理由で結婚せず亡くなった子のため、親や兄弟又は親戚の者が描き、供養する。

むさかり絵馬

最近ではプロの絵馬師に依頼する人が多く、また合成写真もあるとか。

 

 

さて、これは海外でどのように紹介されているのか?

調べてみたら「Buddhistdoor Global」というメディアで、日本人の死の向き合い方を記事で取り上げていた。( 2016-01-15 )

その中でムカサリ絵馬を行う目的についてこう書いてある。

The purpose of this tradition was to alleviate the suffering both of those who had died in unfortunate circumstances and of their surviving family members, who were troubled by feelings of anguish and regret.

How to Face Death – Pilgrimages and Death Rituals in Japanese Buddhism

 

不幸な状況で亡くなった人と、後悔や心の痛みを抱えて生きる遺族の苦しみをやわらげる。
この伝統の目的は、生者と死者の両方の苦痛をなくすことにある。
日本の文化を紹介する海外メディアの記事には見当違いの説もよくあるけど、人をなくす悲しみは世界共通だからこの見方は当たっている。

 

「親思ふ心にまさる親心けふの音づれ何ときくらん」

幕末に吉田松陰が安政の大獄で処刑される少しまえ、「子が親を思う心よりも、子を思いやる親の気持ちのほうがはるかに深い」という意味のこの歌をふるさとの両親に送ったという。
こういう気持ちはどこの国の人でも共感する。

 

 

ムカサリ絵馬にはタブーがあって、生きている人を絶対に絵馬に描いてはいけない。
それをすると、死者に連れて行かれるという。

 

最後にこの記事に寄せられたコメントを紹介しよう。

・死後婚としては、幽婚という形式が岡山の山村に少し前まで残っていたと、雑誌で読んだことを思いだしました。未婚でなくなってしまう若い男女に、お葬式の前に結婚式をあげるという儀式だったような?伊藤左千夫の小説、絶唱のラストシーンもそうでしたよね!

・山形が有名ですが、広義で冥婚と言う意味なら、青森(津軽)の人形婚もあるし、岩手県遠野市の善明寺で、冥婚の額(供養会額)が多数奉納されているのも見ました。

・山形の山寺でムサカリ絵馬を拝見した事があります。
山の上まで行かないと見れない為軽く運動することになりますが、大変大きな絵馬も拝見しました
若い方だったのもあり、なんだか切なくなってあの世で幸せにと祈りました

 

 

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1 個のコメント

  • 明治以降、日本は「火葬」が一般的ですから、具体的に墓を掘り返して遺体や遺骨を結婚させる(合葬する)のは非常に難しいですね。韓国は、欧米キリスト教国やイスラム教国と同じく、未だに埋葬が一般的なのでしょうね。
    日本での合葬の例はほとんど知りませんが、聖徳太子の最期(自死?)は、妻と同じ墓へ納められたのでしたっけ?
    小松左京作「果てしなき流れの果てに」で、同棲していた女性の死を交番へ告げた老人がその直後に亡くなって、近隣住民の手により二人の遺骨が夫婦扱いされて同じ墓へ入れるシーンがありました。「まあ実質的に夫婦みたいなもんだったから、同じ墓に入れてあげたら爺様も本望やろう・・・。」

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。