イタリアのナポリにナポリタンがないように、中国の天津に天津飯なんてものはない。
どっちも日本で爆誕した創作イタリア、中華料理だから本家にこんな食べ物は存在しないのだ。
*ナポリタンの場合はアメリカのスパゲッティ・ウィズ・ミートボールがルーツとも言われているから、そうなるとますますイタリアとは関係なくなる。
スパゲッティ・ウィズ・ミートボール
日本の伝統文化の大きな特徴に、中国由来のものに新しい価値観や表現を加えて、別ものにしてしまうことがある。
着物や扇子、鯉のぼりなどは元々は中国から伝わったものだけど、日本人が自分たちの好みに合わせて変えまくった結果、いまでは代表的な日本文化になってしまった。
例えば着物について歴史作家の陳舜臣さんがこう書く。
日本のキモノも、中国の古制とはいうものの、そのとおりではなく、やはり日本ふうにアレンジして保存されたのだ。とくに帯などは、まったく別物になってしまっている。
「日本的 中国的 (徳間文庫) 陳舜臣」
魔改造こそ日本文化の神髄。
かに玉に餡(あん)をかける天津飯は中国になかったもので、これは日本で生まれた食べ物だからアレンジではなくてオリジナル。
にもかかわらず、「天津飯は日本発祥」ということを知らない日本人もわりと多いらしく、天津出身の中国人からこんな話を聞いた。
日本にやってきて、日本人から天津飯や天津甘栗の話を聞いて「ナンダソレ?」と不思議に思い、「天津に天津飯はありませんよ」と話すと、「え?」と驚く日本人が何人もいたという。
中国にはない中華料理を中国人に伝えるのはなかなか大変らしい。
上海在住のブロガー・花園 祐さんがjbpressの記事でこう書いている。(2018.2.28)
中国人の知り合いに天津飯がどんな料理なのか説明するため、中国の検索サービス「百度(バイドゥ)」で「天津飯」と入力して画像検索をかけたところ、漫画の「ドラゴンボール」に出てくる天津飯しかヒットせず、説明するのに非常に困りました。
この画像を見て、天津飯をまったく知らない中国人が「蛋包饭?」ときいてきた。
*卵で包んだご飯、つまりオムライスのこと。
ヨーロッパ人に言わせると、オムライスは西洋料理ではなくて日本料理だ。
日本人が勝手に作って「中華料理」と称する天津飯。
もし中国人がこの逆をしていたら、日本に存在しない料理を「日本料理」としてレストランで提供していたら、「おいおいチョットマテ」と文句を言いたくなる日本人は多いと思う。
日本人は海外の「ニセモノ日本料理」に厳しいから。
ということで中国人に天津飯について聞いたみたところ、いろんな意見がきたからこれからそれを紹介しよう。
*日本語はこちらで修正済み。
〇細かいことはどうでもいい派
・どこの料理でもいいじゃないですか😊あまり気にしなくていいと思います。
・美味しければ別にいいです、日本に来る前にそう言う料理があると聞いたので特に気にしなかった。現在なくても昔存在していたかもしれないし、怒ることじゃないと思います
〇むしろ嬉しい派
・香港出身ですが天津飯は大好きです。
・違いは認知しますけど、悪く思うことはありません。むしろ面白い?
中国にも妙なものを日本料理として出す店がありますし。世界を見ると、カリフォーニアロール、パインピザなど様々あります。
・それぞれなので怒る人がいれば、歓迎する人もいると思います。個人的には、日本人も中国料理が好きだなと嬉しく誇りに思う一方、危機感も感じます。
*この危機感というのは、日本人が中国人以上においしい中華料理を作ってしまうのでは?というモノらしい。
〇中華料理の日本化を認める派
・料理のグローバル化も進んでいます。なので、現地の食材や現地の方の味覚やニーズに合うように、進化するものです!
・美味い海外のグルメを、国民の口に合うように地元化することはよくあるでしょう。私はこれは当たり前のことだと思いますよ。
・日本には日本人好みの味がある。
だから中華料理屋は日本人に合わせて、日本だけあるの中華料理を作る。だから[天津飯]のような料理が日本で人気がある。
・中国料理は地方によって全然違う。だから、世界各地の中国料理もその国々の特色があって不思議ではない。
ということで、日本人と中国人は違う舌を持っているのだから、日本人の味覚に合った料理を作るのはきわめて普通、という意見が今回いちばん多かった。
そもそも中国は日本の約23倍の面積をもっていて、首都北京だけで四国とほぼ同じ大きさというとんでもなくデカい国だ。
だから、舌がしびれるような辛さが特徴の四川料理味や甘酸っぱい上海料理など、中国料理の味や種類は地方によって違う。
中国は政治では中央集権的だけど、食について地方分権が確立されている。
四川料理・上海料理・広東料理などでメニューや味で違いはあっても、どれも本物であることは間違いない。
だから天津飯についても中国人は、(表現に問題あるけど)日本という地方にある中華料理ぐらいにしか思っていないのでは?
日本人が天津飯という、蛋包饭みたいな謎飯を中華料理と称して提供していても、これに怒る人はいなかった。
ただ、ある中国人がこんな不満を書き込んでいた。
日本の中国料理店で中華粥を頼んだら、粥ではなくて雑炊が出てきた。
水分が多くて消化にいいお粥を食べたかったのに雑炊を提供されたから、だまされた気分になって腹が立ったという。
中国人にとっては天津飯よりも、こっちの方が大きな問題だ。
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> 日本人が勝手に作って「中華料理」と称する天津飯。
この話、そう単純ではないのでは?
と言うのも、中華料理や食品の中には「天津~」と名前がつくものがいくつかあるからです。例えば「天津甘栗」とか。「天津麺」は「天津飯」からの転用でしょうかね。
中華料理で地名がつくものと言えば、天津飯のほかには、北京ダックとか、青島ビールとか。
その他の数多い中華料理は、ほとんど、素材と調理法の説明が料理の名前になっています。
どうしていくつか例外的に地名がついているのでしょうかね?