めでたい野菜なのに「ボケなす」と言われる理由

 

もともと関西の野菜だったナスは、江戸では生産量が少なくて値段も高いことから人気がなかった。

それを一変させたのはことばの魔法。
「なす」に「成す」(成しとげる)という言葉を掛けて売り出したところ、ナスが縁起の良い野菜となって江戸で人気の野菜となったという。

めでたいものを並べて作った江戸時代のことば「1富士 2鷹 3茄子」(4扇 5タバコ 6座頭)の中で、食べ物で選ばれたのはナスだけで、江戸の日本人はゲン担ぎにこれを好んで食べていた。

ちなみに「座頭」とは頭の毛をそった盲人のことで、「毛が無い」が「怪我が無い」と縁起良く解釈されたという。

現代でも「キットカット」を「きっと勝つ」にして売り出すように、日本人は今も昔もラッキーアイテムに弱いのだ。

 

 

いまの日本では「縁起の良い食べ物」というイメージはかなり薄くなって、ナスはニンジンやキュウリなどと同じあつかいを受けている。
それどころか「ボケなす」「おたんこなす」というように、相手をバカにする悪口で使われることも一般的だ。

ナスはめでたいものの象徴である一方、こんなふうにディスリにも使われるという両極端な特徴がある。
では、なんで「ボケなす」ということばが生まれたのか?
その由来をこれから知っていきましょー。

 

ぼ~っと間の抜けた人間に「このボケなす!」とツッコんだり、とんちんかんな返事をした相手に「バカ ボケなす 八幡!」と罵倒することは日本でよくある。(か?)
このボケナスの由来にはおもに次の2つの説がある。

・色つやがなく、見た目がイマイチのナスを「ボケなす」と呼んだ。
・恵まれた環境で育った出来損ないのナスを「ボケなす」と呼んだ。

個人的に面白くて説得力があるのは後者なので、ここではそれを取り上げようと思う。

野菜を育てているある農家さんのブログ「農家が教える野菜の雑学」で、野菜のボケについてこう書いてある。

野菜作りに関わっている方だと、わりとよく聞く
「~ぼけ」という言葉があります。
作物にもよりますが、ツルぼけなどの言葉もあります。

ボケナス の語源。【別にナスは悪くない】

 

野菜が実を付けなくなる状態を「~ぼけ」と言うらしい。

植物にとって実とは子孫なんだけど、栄養をめちゃめちゃ与えられると、死に絶える危険がなくなることから「よし、長生きできる!」と植物が安心してしまい、子孫を残すという大事な作業を後回しにしやがる。
上のブログには、栄養過多のスイカ・ナス・トマトについて「木は大きくなるけど、実がつかない」という状態になると書いてある。

この現象は特にナスに特徴的だったのか、それともナスを育てる農家が多かったのか分からないけど、あまりに恵まれた環境で育ったことで、実を付けなくなったナスを「ボケなす」と呼ぶようになったという。

 

 

人間界にもそんな「ボケなす」はいる。
裕福な環境で苦労知らずに育つと、「パンがなかったら、ケーキを食べればいいじゃない」と言うような、まったく現実感覚のないとんちんかんな人間が出来上がる。
艱難辛苦もかわいい子にさせる旅も経験しないで、お花畑でキレイにぬくぬく成長すると、どこか間の抜けた人になってしまう。

いまタイでそんな「ボケなす」が大問題になっている。
2012年に「レッドブル」の創業者という、すさまじい金持ちの家に生まれたウォラユット氏(ニックネームはボス)が、フェラーリで警察官をひき殺して逃げる事件を起こした。
ウォラユット氏は酒を飲んだ状態で、時速170キロで走っていたという。

このあとの展開は日経産業新聞のコラムにある。(2020/9/5)

ウォラユット氏は使用人を身代わりに出頭させたが、偽装が発覚。一度は身柄を拘束されたが、保釈されるとその後の出廷を拒み、自家用機で国外に逃亡した

レッドブル、タイで不買運動 ひき逃げ「無罪」に批判

 

それにもかかわらず、ことし7月にウォラユット氏が無罪(不起訴処分)になったことで、タイ国民の怒りが爆発して不買運動に発展。
「苦労は買ってでもしろ」はいまも通じる名言で、恵まれすぎると野菜も人もボケボケになってしまうらしい。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。