どうなる日本のハンコ文化?新発明に泣いた江戸の未亡人

 

きょう10月1日は「印章の日」。
1873(明治6)年のこの日、法令(太政官布告)により公式の書類には実印を押すことが定められたことから、この記念日ができたってさ。

日本人とハンコの付き合いはとても古く、日本最古のハンコはいまから約2000年前の西暦57年ごろ、中国から日本に送られたという「漢委奴国王」の金印といわれる。
日本で公文書にハンコが押されるようになったのは中国(隋・唐)の影響を受けていた時代、具体的には701年に大宝律令が制定されたころだろう。
もともと上級階級のものだったハンコ文化が庶民に広がったのは江戸時代からで、このころの庶民は財産を保証するものとして、ハンコ(印章)を命の次に大事なものと考える風潮もあった。

くわしいことはここをクリックですよ。

印章・日本 

 

「漢委奴国王」の印

 

そんな長い歴史のある日本のハンコ文化がいま大ピンチ。

河野行政改革担当大臣が日本のハンコ文化を見直す必要があるとしてこう言った。

「ハンコをすぐなくしたい。ただハンコを押したという事実が必要なケースは、すぐにでもなくしてしまいたい」

この発言に衝撃を受けたのはハンコを作ったり売ったりする人たちで、「驚きしかない」「職人はやることがなくなってしまう」「日本の伝統文化がなくなる」とため息や絶望感しかない。

ネットの反応をみると、賛否が半々といったところ。

・ハンコ文化は早急に廃止して欲しい。
偽造可能な印鑑に信用は無い。
・実印と印鑑証明は、これに替わる大体措置が存在しない
電子化とかサイン証明とかにすると、マジでクソめんどくさくなるだけ
・利便性と安全性の両側面からきちんと検証しろよ
・e-taxになって印鑑押下しなくて楽になった。
・うちの場合は、ペーパレスは絶対に不可能だな
停電時に利用できないものは信頼出来ない
・ハンコってサイン文化の国の人からすると羨ましいみたいよ
サインしまくる立場の人だと大変なんだって

 

ではここで江戸時代クエスチョン。
元禄期に大阪(和泉国)にお住まいの宇兵衛さんが考案した、下の農具はなんというでしょう?

 

 

答えは「千歯扱き」(せんばこき)。
束のまま稲を一気に脱穀できるこの画期的な農具によって、江戸時代の脱穀の能率は各段に向上した。
ちなみに脱穀されたコメは米俵に入れられて保管されるのだけど、この「俵」があるのは日本だけで、これに似たものならインドの少数民族ムンダ族が使っているという。

さて、新発明には光と闇があって、新しい道具が登場したことで役割を終える道具や人もいる。
それまでは夫を亡くした未亡人が扱箸(こきばし)という道具で脱穀していたけど、日本の農業史を変える千歯扱きが誕生したため、その人たちの仕事がなくなってしまった。

非効率な扱箸による脱穀は村落社会においては未亡人の貴重な収入源となっていたため、千歯扱きはこの労働の機会を奪うものとなり、後家倒し(ごけたおし)の異名もある。

千歯扱き

 

いまの日本はコロナの影響もあって、テレワーク・ペーパーレスの時代に入っている。
紙にハンコを押すやり方から電子印鑑などの方法に変わっていて、ハンコ職人は江戸時代の「未亡人」、電子印鑑は「後家倒し」のようになっているけど、この流れはもう止まられない。

デジカメやスマホの登場で知り合いの写真屋は廃業したし、新しいモノが生まれて時代が変わると、役割を終える道具や職業はどうしても出てくるから、それに泣く人はいつの時代にもいる。
ただピンチはチャンスでもある。
明治時代になって川に橋がかけられると、川越え人足の仕事は急になくなったけど、大井川の川越え人足のばあい、彼らが茶農家に仕事替えをした結果、いまのお茶大国・静岡がある。

残酷な面もあるけど、世の中はいつもそうやって移り変わってきた。

 

 

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1 個のコメント

  • 印鑑登録・印鑑証明の制度についてはどうするのでしょうね?
    まー、実印なんて、この20年ほど使った覚えがないのですけれども。
    昔は自動車を買うのにも実印が必要でしたね。不動産取引なんか、今でもそうかな?
    これを廃止すれば、役所の市民課はかなり仕事がヒマになる役人が出てきそうだし、データを登録しているコンピューターも不要になるはずですよね。人員についてはどんどん配置転換を、型の古いコンピューターはどんどん廃棄してほしいものです。その分、スペースも空きが出るだろうし。

    どんな仕事だって時代とともに必要性は変化するものです。
    昔は「電話交換手(=電話をかけた人から受ける人へ配線を手でつなぎ替える役割の人)」なんて変テコな職業もありました。今話題の「デジタル化」により不要となった職種のハシリかな?

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。