これほど違う!日本統治への韓国人と台湾人の見方・認識

 

お隣の韓国には「歴史を忘れた民族に未来はない」という言葉があるそうだから、今回は日本の統治時代についてみていこう。
*ちなみにこの言葉を言ったのは、韓国の独立運動家・申采浩(シン・チェホ:1880年 – 1936年)と言われているけど、そんな事実は確認されていない。

さて戦前・戦中の日本が領土に組み入れていたのは韓国と台湾だから、日本統治を知るにはこの2つに焦点を当てるしかない。
韓国と台湾は同じ経験をしたけれど(完全に同じではない)、あの時代に対する見方や認識は現在ではまったく違っていて、それは韓国の「日帝強占期」、台湾の「日治時代」という呼称によく表れている。

ほかにも、いまの台湾でこんな動きはない。

中央日報の記事(2020.10.12)

韓国文化財庁「韓国銀行の定礎板、伊藤博文の親筆考証後、撤去検討」

韓国の史跡に指定されているソウル韓国銀行本館の定礎板に、「定礎」という字を書いたのは伊藤博文だったという説が持ち上がったことから、もしそれが事実と確認されたら定礎板は撤去されるかもしれない。
韓国ではいまも社会に残る統治時代の日本の影響を「日帝残滓」と呼び、これを見つけ出して除去する活動がよく行われている。

残滓(ざんし)とは残りカスのことだから、日本時代の文化や文物は韓国人にとっては「汚れ」に等しく、これを浄化することが正義の行為と考えられている。
といっても日本の影響なんていえば科学、技術、権利、義務、大統領、首相、長官といった言葉をはじめとして、運動会や修学旅行、韓国通貨のウォンもそうだから、韓国社会から日帝残滓を完全に排除することはできない。

それでも「凶物」と呼ばれる統治時代の建物はよく除去の対象となり、昨年末にはこんなことがあった。

中央日報の記事(2019.12.10)

「少女像のそばに日帝残滓があるとは」忠州朝鮮殖産銀行の保存が論議の的に

 

旧朝鮮殖産銀行の建物について韓国の文化財庁文化財委員会が調べた結果、歴史的・文化的価値があると認められ、忠州市が復元して近代文化展示館として活用しようとしたところ、住民からこんな強烈なNO!をくらった。

「日帝の支配と収奪の象徴を保存することをやめてほしい」
「植民残滓を税金を投じて保存するのは正しくない」
「植民残滓であり凶物になった殖産銀行建物を復元するという忠州市の決定は歴史の本末を忘れた行動」
「予算審議の要請をはじめとする殖産銀行の復元に向けた事業計画を全面中断せよ」
「平和の少女像と600年の忠州歴史を大事に保っている官衙公園があるところに殖産銀行を保存するという発想を理解することができない」

反対派住民にとっては「歴史遺産<植民残滓・凶物」という認識だから、上のような主張をして建物の撤去を市に要求した。
これは韓国国内のことだから韓国人が決めればいいことで、日本人が口をはさむことじゃない。
でも部外者の独り言を言わせてもらえば、100年近く前からある建物の近くにきょねん“少女像”を設置しておいて、「少女像のそばに日帝残滓があるとは」という理由で建物を壊すという発想を理解することができない。

韓国での日帝残滓の除去作業をあげるとキリがないけど、昨年はカイヅカイブキという植物も植民残滓とみられ、慶尚南道の教育庁が撤去して代わりに韓国産のマツを植えた。

中央日報の記事(2019.02.19)

韓国の三・一運動100周年、日帝残滓清算 「カイヅカイブキ」撤去へ

 

カイヅカイブキの木

 

これまで何人もの台湾人に「日帝残滓」という言葉を見せたことがあるけど、この意味が分かった人はひとりもいない。
そもそも「日帝」が何のことが分からない。
それで意味を説明し、韓国で日本統治時代の建物は「凶物」と呼ばれていることを話すと、「本当ですか!それはひどいですね」とみんな驚く。

というのはそれは台湾人と逆の考え方で、台湾では日本統治の象徴である台湾総督府の建物をいまでも大切に保存し有効活用しているのだ。
これを「凶物」と呼んで憎悪する発想は台湾人にはない。

 

台湾総督府庁舎

 

台湾では日本時代の建物を撤去するよりリノベーションして、カフェや観光名所としてよみがえらせる動きが活発だ。

台南に住む台湾人のHsu Hsuさんはよくそんな建物を紹介していて、最近では、台南市役所が日本時代に建てられた台南神社(大正12年落成)の跡地に記念碑をつくったとSNSに投稿していた。
宗教施設のためか神社の再建はできないらしい。

これは本人のメッセージ。

「昭和天皇陛下が皇太子時代に台湾総督府台南州を視察にいらっしゃって台南神社にも参拝に行かれました。」

 

統治時代の台南神社

 

神職のうしろを歩く人物は皇太子だったころの昭和天皇だろう。

 

 

この上下が台南市のつくった記念碑

 

 

昭和天皇も訪れた神社の跡地に鳥居の記念碑を建てることを、韓国の人たちにきいてみてほしい。
韓国の市役所が税金を使ってこんなことをしたら市民は絶対に許さないし、大統領府には市長の辞任を求める国民請願が殺到する。
「昭和天皇陛下が視察にいらっしゃって」なんて敬語を使う韓国人がいたら、反社会的行為(親日行為)として猛烈に非難されるだろう。
なんせきょねん韓国の国会議長は「天皇は戦犯の息子」 と呼び、謝罪要求をして日本中を激怒させたぐらいだ。
台湾人の常識からすると、日帝残滓の除去なんて発想や行動はよく理解できないだろうし、天皇陛下への謝罪要求なんて非礼はあり得ない。

 

韓国で安倍前首相は「極右政治家」「公共の敵」と嫌われていたけど、病気で辞任した安倍前首相に台湾の総統は日本語でこんなメッセージを発信した。
文大統領が同じことをしたら、気が狂ったと国民に思われるかも。

 

 

いまHsu Hsuさんのフェイスブックページを見たら、「日本人の兵隊さんを祀る廟発見!」とこんな写真を投稿していた。

 

 

日本兵を神として祀る発想も韓国ではない。
同じ日本統治の経験をしても過去の伝え方、つまり歴史教育が違うと、現在の認識や見方がまったくの別ものになる。
「歴史を忘れた民族に未来はない」という韓国の考え方には台湾人も共感するだろうけど、歴史を記憶するやり方が韓国・台湾では本当に違う。
日本人が日本の歴史を学ぶには、両者の視点を知ることが大事。
もちろんそれは、相手の主張をそのまま受け入れろということではない。

 

まるで昭和のような台南のまちかど
これは日本人観光客のためではなくて、地元の人がふつうに行く店。

場所は台南市中西区西門路、沙淘宮という廟の路地裏。
この食堂の営業は金曜日、土曜日、日曜日の夜6時からだそうだ。

 

ここ数年、海外旅行先で台湾を選ぶ日本人が増加しているのは、SNSを中心に台湾人が親日的で、日本人にとっては「初めてなのに懐かしい」風景が各所で見られることが知られているから。
上のような光景を見れば、日本人が台湾に親しみを感じて行きたくなるのは当然。

一方の韓国ではいま有名作家の趙廷来(チョ・ジョンレ)氏が、「日本留学に行ってくれば親日派、反逆者になる」と発言して賛否が分かれている。

中央日報の記事(2020.10.12)

韓国有名小説家「日本留学に行けば親日派」…元大学教授「ここまでくれば狂気」

日本に留学すれば親日派(国や民族の裏切り者)や反逆者になるという発想も、台湾人には絶対に理解できない。さすがにこれには「狂っている」と批判する韓国人もいるけど、支持する人も多い。

 

 

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2 件のコメント

  • 信託統治領なので、正式に編入とは違いますが旧南洋庁のパラオ、ミクロネシア、マーシャル諸島も比較できるかと思います。
    https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol170/index.html

    こちらも日本に親しみを抱いてくれている点から韓国との差が際立ちますね。
    太平洋戦争時には実際に戦場になり、多数の死傷者も出している歴史を彼の国が日本に対して
    示す態度どう思っているのでしょうか。

    もし海外の掲示板で上記の国の人のコメント等を見かけた際はぜ取り上げてください!
    環境や人口から目にすることはほぼ無いと思いますが(^^;

  • たしかにパラオに参考になりますね。
    パラオには日本語が残っていて、とても親日的です。
    パラオ人のコメントは、…見たことないですけど、あったら記事に載せますね。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。