日本と違う価値観:仏の表現の自由 vs イスラーム教徒の信仰

 

日本人が大事にする価値観は「和を以て貴しとなす」という協調や平和の精神で、相手の気分を害したり和を乱すのなら、自分の主張は控えるという人が多い。
これに対してフランス人の重視する価値観は言論の自由で、フランスの人たちは空気を読むことより、自分の言いたいことを言ってやりたいことを優先する傾向がある。
だから保健当局がマスクの着用、政府が外出自粛を訴えても平気でスルー人が多いし、感染が拡大してもケセラセラ(なるようになる)。

そんなフランスが生んだ世界的な哲学者・ヴォルテールが、民主主義の精神や言論の自由を象徴する有名な言葉を残した。

「私はあなたの意見に反対だ。だが、あなたがそれを主張する権利は命をかけて守る」

 

ヴォルテールの思想は啓蒙思想の典型である。彼は、人間の理性を信頼し、自由を信奉した。ヴォルテールの活動として最も有名なものは、腐敗していた教会、キリスト教の悪弊を弾劾し是正することであった。

ヴォルテール

 

キリスト教を批判したヴォルテールにの再来か分からないけど、さいきんマクロン仏大統領はイスラーム教徒を刺激するようなことをよく言う。
パリで予言者ムハンマドの風刺画を見せた中学校教師が殺害された1カ月ほど前、マクロン氏は「フランスには冒瀆(ぼうとく)の自由がある。私はそうした自由を守るためにいる」と語った。

この場合の冒とくする自由とは、イスラーム教を風刺する画を公開することだけど、当然のことながら、この言葉は世界中のムスリム(イスラーム教徒)を怒らせた。

 

風刺画を見せて殺害された教師のパティさんは、いまやフランスの表現の自由の象徴的存在となって、マクロン大統領からはフランスの最高勲章である「レジオン・ドヌール」を授与されて、ひつぎはフランス国旗で覆われ、葬儀は国葬でおこなわれた。
葬儀の弔辞でマクロン氏は、パティさんはフランスの民主的な価値観を体現したことで「臆病者たち(=イスラーム過激派)」によって殺されたと述べ、「われわれは風刺画をやめない」「私たちの未来は決して渡さない」と宣言。

AFPの記事(10/22)

フランスは「風刺画やめない」 マクロン氏、教師国葬で宣言

フランスはテロリストに決して屈さないと言うのはまぁわかる。
それは当然としても、日本の反応を見ると、「冒とくする自由」や「風刺画をやめない」といったフランス式表現の自由に抵抗感をもつ人が多いようだ。

 

 

マクロン大統領の言う「表現の自由」に対し、イスラーム教徒は激怒で応えた。

トルコのエルドアン大統領は24日の演説で、マクロン大統領には「精神的な治療が必要だ」と批判。すると
これに怒ったフランス政府は「決して受け入れられない」と猛抗議して、駐トルコ大使を仏に呼び戻した。

アラブのイスラーム教徒はフランス製品のボイコット運動をはじめる。

AFPの記事(2020年10月26日)

特に、マクロン氏が預言者ムハンマドを題材とした「風刺画をやめない」と宣言したことを受け、ヨルダンやクウェート、カタールの団体がフランス製品の不買運動を開始した。

アラブ諸国でフランス製品不買運動、仏外務省が在外仏人の安全に懸念表明

 

不買運動だけなく、いま海外にいるフランス人の安全が懸念されるという深刻な状況が発生している。
フランスはアラブ諸国の政府に不買運動の呼び掛けをやめさせ、フランス人の安全を確保するよう要請したという。

「不買運動には正当な理由がなく、直ちに中止されなければならない。また、フランスを標的としたあらゆる攻撃も、やめさせなければならない。それらは、少数の過激派が操っているものだ」

仏外務省のこの訴えはイスラーム教徒にどれだけ通用するか。

不買運動を支持するつもりはないけど、これも抗議表現のひとつでは?

 

日本のネットの反応を見ても、フランスの価値観に批判的な人が多い。

・イスラムに屈しないってのはいいけど
風刺画はやめた方がいんじゃね
大統領が宣言するとこでも無いと思うし
・俺がやるのはいい
おまえらがやるのは絶対許さん
・そもそもそのディスりいる?っていう
・フランスの建国の精神だからな
・言論の自由を守るために
言論を規制しろと
整合性がないな
・風刺画=誹謗中傷
・人と嫌がることをするなって価値観は世界で日本とパプアニューギニアだけが持ってるらしい

 

イスラーム教の風刺画には、フランスを風刺する画で対抗すればいい!といっても、偶像崇拝が禁止されているイスラーム教の信者に向かってそれはフェアじゃない。
「冒とくする自由」の受け止め方はさまざで、信仰を冒とくされたと感じたら、激しく反応するのは無宗教のボクでも理解できる。

日本人の価値観や信仰心は、フランスの表現の自由とアラブ・イスラーム教徒の信仰の間にある。
日本の首相がマクロン大統領と同じことを宣言しても、国民はきっと支持しないしついていかない。
もし海外メディアが仏教や神道を冒とくする風刺画を掲載しても、いまのアラブ人と強じぐらい反発することは絶対にない。
佛教大学が「佛米!夢乃酒(ぶっこめ!ゆめのさけ)」というお酒を販売したり、アニメやゲームのキャラで「アマテラス」がいても特に問題は起こらなかったし。

 

フランスとイスラームの価値観がぶつかり合ってただでさえカオスなのに、パリの公園ではイスラーム教徒の女性を刃物で刺してベールをはぎ取ろうとする事件が起きた。

AFPの記事(2020年10月26日)

被害者の女性2人はいずれも、容疑者の女2人に「汚いアラブ人」と呼ばれ、「ここはお前たちが住む場所ではない」と言われたと主張している。

女2人がイスラム教徒女性刺す、暴行容疑で予審開始 仏

 

フランスとイスラーム教徒の価値観の衝突をみると、日本人が大事にする価値観はやっぱり「和を大切にしなさい、争いを起こさないことを根本としなさい」でいいと思う。
反対意見を認めたヴォルテールでも、冒とくする権利まで認めるだろうか。

 

 

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6 件のコメント

  • >日本人が大事にする価値観はやっぱり「和を大切にしなさい、争いを起こさないことを根本としなさい」でいいと思う。

    そうですね。聖徳太子の憲法17条に定められた頃から、日本人の根本的な価値観がそうであるのは私も知っています。
    がしかし、その「日本教」は、原則として日本人の間だけで通じる価値観であることに注意する必要があります。また「(雰囲気としての)和を大切にせよ」という価値観は、少数派の反対意見を圧殺する方向に陥りがちで、世の中の既得権益を保護し、新参者を排除して、根本的な進歩・改革が生じるのを遅らせてしまうという欠点も伴っている。
    織田信長が結局は世の中から排除されたのも、おそらく、そのような「和を大切にする」という日本的価値観に逆らった「破壊と創造の王」であったからなのでしょう。
    「和を大切にする」価値観は世界には通用しません。言葉に出して自分の考え方をはっきり主張し、その上で(必要であれば)妥協点を見出すことができなければ、国際社会での敬意は得られないと思います。

  • >パリで予言者ムハンマドの風刺画を見せた中学校教師が殺害された1カ月ほど前、マクロン氏は「フランスには冒瀆(ぼうとく)の自由がある。私はそうした自由を守るためにいる」と語った。

    本日(10/28)中日新聞にこの関係のニュースが出ていました。だけど、やはり『マクロン大統領自身が「フランスには冒瀆の自由がある」と発言した』とは書いてなかったですね。マクロン大統領の発言は「風刺画はやめない」「フランスには表現の自由がある」と言っただけ\のようです。
    このことをもって「イスラム教を冒瀆する自由がある」と大統領自身が発言したかのように報道したのは、AFPメディアが独自の解釈で報道したことではないですか?

    もしそうだとすれば、この対立を煽っているのはフランスではなくて、メディアが犯人ですね。

  • AFPはフランスの通信社で中日新聞は「フランスには冒瀆の自由がある」という発言を否定していないと思います。
    ただ情報の解釈は受け手の自由なので信じる・信じないは自由です。

  • またフランスで、東方正教会の司教が散弾銃で撃たれて重体だと聞きました。
    許容するなと言うだけでなく、できれば、イスラム教徒はこの種のテロ行為に対して「イスラム教とは無関係であり、許されべからざるテロ行為である」と、非難してほしいものです。どんな宗教上の理由があろうと「他人を暴力で抹殺する」ような行為には反感を抱かざるを得ません。
    テロリストを支持する奴らは、テロリストに同罪ですよ。

  • 米国で大統領選挙を直前にして、米国社会における人種差別がまた問題になっているようですが。
    Black lives matter. このフレーズをなぜ「黒人の命も大切だ」などと、日本のメディアは意訳(?)するのでしょうね。正しくは「黒人の命の問題だ」という主張であると思います。
    日本のメディアは、こんな風に、外国語をよりセンセーショナルに意訳して大衆受けを狙うようなことを、よくやります。その方が売れるからでしょう。
    日清・日露戦争から日中戦争を経て太平洋戦争へと、国民世論を煽ることにより日本が暴走していったこと、そんな簡単な事実でさえも、日本のマスメディアは自覚して反省するだけの能力もないと言わざるを得ません。事ある毎に彼らが非難する週刊誌やネットメディアやSNSと、本質的には同レベルのようです。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。