「国のない民」としてはきっと世界で最も有名なのが中東にいるクルド人。
独自の国家を持たない民族は、イスラエル建国までならユダヤ人が世界最大だっただろうけど、現在はトルコ・イラク北部などにいるクルド人が一番多い。
その数はウィキペディアには約4600万人、下の毎日新聞の記事には3000万人ぐらいと書いてある。
どっちにしても、独立国を形成するだけの人口がいるのは確か。
イラクのクルディスタンという地域に、たくさんのクルド人が住んでいるのは知っていたけど、そこのハラブジャ市に「ヒロシマ通り」があるというのは初耳だ。
毎日新聞の記事(2020/12/20)でクルド人がこう話す。
「同じ大量破壊兵器である原爆を落とされた広島の人々に共感を寄せ、ハラブジャ市当局が名付けたのです」
悲劇を体験したハラブジャの人々は、過去に遠い日本で起きたこともわがことのようにとらえ、新しい道の名前を付ける際にこの名を使ったという。
なぜイラクに「ヒロシマ通り」があるのか 忘れてはいけないハラブジャの悲劇
「ハラブジャ」に「悲劇」というワードがつながったら、それは1988年のハラブジャ事件しかない。
生命や財産を守る国家を持たない民はよく犠牲者になる。
イラン・イラク戦争が行われていたこのとき、「イラン側に協力した」とにらんだサダム・フセイン政権がサリンやVXガスなどの毒ガスを使って、ハラブジャのクルド人を大量虐殺した。
このときの死者は3,200~5,000人、負傷者は7,000から10,000人とみられている。
”国なき民”ユダヤ人とクルド人②日本史にはない「大虐殺」の悲劇。
記者の取材に答えたクルド人女性のザイードさんは、毒ガス攻撃によって子供たちは呼吸困難になって、「目が痛い、水が欲しい」と泣き叫びながら次々に倒れていったという。
5人の子供と夫を失い、サイードさんは助かったものの視力はほぼなくなった。
光を失う前に見たハラブジャの街はまさに地獄。
当時、同じようにガスを吸った人々が路上でけいれんし、泡を吹いて倒れ、町のあちこちに数え切れないほどの遺体が散乱していたという。まるでこの世の終わりのような光景だった。
こんな体験をしたからクルドの人たちは広島の人々に共感を寄せて、市内にある道を「ヒロシマ通り」と命名したという。
イラクにある塔
これを書いた記者さんは「大国は身勝手だなあ」と思うことがしばしばあるという。
ハラブジャ事件については、国際社会から事実上「黙認」されたものだったから。
米外交誌フォーリン・ポリシーの記事によると、機密解除された米中央情報局(CIA)の文書には「イラク軍は(イランに対する)攻撃を強め、マスタードガスを使う」と書いてあった。つまりこのときすでに、アメリカはイラクが毒ガスを使う可能性を十分に認識していたのだ。
では、なぜフセイン政権の攻撃を「黙認」したのか?
その理由について、エジプトのシンクタンク「アハラム政治戦略研究所」のサイード博士がこう説明する。
「当時の米国にとって、イラクはイランと戦ってくれるありがたい存在でした。化学兵器については結局、見て見ぬふりをしたのです」。
こういうワケで子供と視力を失ったサイードさんは、「サダム(フセイン大統領)だけでなく米国も同罪です。国際社会の都合で、私たちの人生はめちゃくちゃにされたのです」と怒る。
最近、知人のアメリカ人がユダヤ人虐殺(ホロコースト)に対して跪いて謝罪したドイツの首相をSNS上で賞賛し、日本の首相も韓国や中国に同じように両膝をついて許しを請うべきだと言っていた。
彼は南京事件や慰安婦問題について、正確な知識がほとんどない。にもかかわらず平気でこう言っちゃう。
日本軍が中国人を殺害したのは虐殺だけど、米軍が広島や長崎で日本人を殺害したのは「仕方がなかった」から、アメリカは謝る必要はないという。
大国は身勝手だなあとしばしば思う。
このアメリカ人がハラブジャ事件を知っているか分からないけど、もし知ったら、怒りに震えて「イラクはクルド人に膝をついて謝罪しろ!」と言うのは容易に想像できる。
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