日本社会にあるイスラム教徒への偏見・誤解。その実例

 

本音で自由に書き込めるところがネットのいいところ。
でも、その匿名性は無責任なデマや誹謗中傷にもつながる。

いろいろな賛否はあるとしても、ネットカキコ(死語)のような内容を高校の試験問題に出したとしたら、全国ニュースになるのは当たり前。

NHKニュース(2021年1月31日)

模試でイスラム教とテロリスト結び付ける「不適切な表現」佐賀

佐賀県で3000人以上の高校生が受けた模擬試験の英語の問題文で、エジプトの貧しい子どもたちについてこんな記述があったという。

「もし子どもたちがお金を稼ぐことができなかったら食べ物を求めてモスクに行きテロリストになる」

貧しいイスラーム教徒はテロリストになるとか、匿名のネット空間にあるようなとんでもなく無責任な文章だ。
これを複数の教員が確認してOKを出したということで、佐賀県の教育委員会は事態をとても深刻に受け止めているらしい。
「エジプト=貧しい国」、「イスラーム教徒=テロリスト」という誤解や偏見を与えるような表現が、このレベルで出てしまうというのはちょっと考えられない。

・あってるじゃん
・偏見ではなく事実なのでは?
・間違ってはいないだろ。

とネットでテキトーに書き込んでいる人たちは、何かのきっかけでその認識が外にもれた場合、かなり高い対価を払うことになる。

 

さてイスラーム教徒の女性はよくヒジャブという布で髪を隠している。
ヒジャブとはアラビア語で「覆(おお)うもの」の意味で、ヒデブと似ているのは音だけ。

 

画像はAnna Martadiningrat

一般に欧米では女性の頭と体を覆う布を意味するが、アラビア語においては頭に被るベールといった意味のほかに「貞淑」「道徳」といった意味も持つ。

ヒジャブ

 

個人的に、日本で生活しているインドネシア人やマレーシア人のムスリム(イスラーム教徒)との付き合いがあって、これまでいろんな話を彼らから聞いてきた。
その中で、例外的な少数だけど、日本人の偏見や差別的な対応に文句を言う人もいた。

日本の大学に通っていたあるインドネシア人留学生(20代・女性)は、コンビニやレストランでバイトをしようと面接を受けるものの、いつも断られてしまう。
「これってひょっとしたら、わたしの日本語のせい?」と落ち込むムスリム。
でも、その人は日本語能力試験(JLPT)の2級に合格していて、日常会話レベルなら問題なく聞いたり話したりできる。
まわりの日本人や外国人の友だちも、「あんたの日本語力なら大丈夫っ」と太鼓判をバンバン押してくれるから、気を取り直して面接を受けるのだけど、良い返事をもらうことができない。

その原因をいろいろ考えてもらった中で「きっとそれだ!」と思ったのが、自分がヒジャブをかぶっていたこと。
数は増えてきたとはいえ日本でムスリムはまだまだ少数で、ヒジャブをつけた人間には偏見や誤解があるだろうと日本人から教えてもらった。
そのあと彼女はレストランで採用されて、客からは見えないキッチンでアルバイトをすることになった。

店側が理由を説明してくれなかったから、連戦連敗した理由は本当にヒジャブだったかのかは不明でも、本人はそう信じている。
まぁそうだろうなとボクも思う。

日本ではイスラーム教徒の権利を尊重して、顔の輪郭さえ出ていれば、ヒジャブをつけた姿で運転免許証の顔写真を撮ることが2018年から認められた。っつーのに、佐賀県の先生は何をやっているのか。

 

 

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4 件のコメント

  • > 数は増えてきたとはいえ日本でムスリムはまだまだ少数で、ヒジャブをつけた人間には偏見や誤解があるだろうと日本人から教えてもらった。

    これ、日本よりもむしろ欧米における社会からの反感の方がひどいですよ。というのも、マスクや仮面は現代だったら「アニメのヒーロー」みたいな善玉の場合もありますが、歴史的には、どっちかと言うと「KKK団」とか「仮面舞踏会」「仮面乱交パーティー」「覆面強盗団」のように、いかがわしい人間が顔を隠すために身につけるものだったからです。たとえば正義のヒーローであっても、バットマンなんか、ちょっと怪しい雰囲気ですよね。半分悪役みたいなと言うか・・・。
    そのような社会常識が元々あったところへ、西側キリスト教系先進国に対するイスラム教諸国の反感と、イスラム系過激派によるテロ活動が起きたこと、そのためのイスラム教徒への印象の悪化は避けられないでしょうね。
    その一方日本でも、顔を隠すことは、欧米ほどではないですが、やはりあまり良い印象を持たれません。

    日本の運転免許証で、イスラム教徒の女性の場合は、写真で輪郭だけ見せて顔は隠すことが許可されたのですか? へー、それは知りませんでした。イスラム教徒かどうかは自己申告で済むのですか? イスラム教徒の証明書でも?
    しかし、そのような特別扱いに私は反対です。日本の運転免許証は「本人確認のための身分証明書」としての役割も大きいはずです。写真の顔を隠した運転免許証がもしも悪用されたらどうするのでしょうか。人権尊重なのか、思想宗教の自由の保護なのか知りませんが、外国人へ過剰な特権を与えることには賛同できません。

  • > 日本ではイスラーム教徒の権利を尊重して、顔の輪郭さえ出ていれば、ヒジャブをつけた姿で運転免許証の顔写真を撮ることが2018年から認められた。
    > ヒジャブは顔を隠しませんよ。ハッキリ出してます。

    ???
    ああそうか、「顔の輪郭さえ出ていれば」ではなくて、「顔の輪郭が隠れていても、顔がハッキリ出ていれば」という意味だったのですね。
    「ヒジャブ(=隠すもの)」にも色々あります。この記事で扱っているスカーフのように頭の髪の毛を隠すもの、チャドルとかブルカとか言う類の「顔全体を隠す」あるいは「全身を隠すもの」などあるので。私は、顔を隠して目だけ出すもので、運転免許証の写真が許可されたと思いましたよ。

    まーでも、「スカーフ状ヒジャブの着用を許す」のは、ちょっと微妙なところですよね。日本人だったら「無帽」「スカーフなし」「メガネを常用している場合はメガネ付きで」を強制されます。宗教上の配慮だからといって、イスラム教徒だけを特別扱いするのは私は反対だなぁ。

  • 輪郭とは「物の外形を形づくっている線」のことです。
    目・鼻・口など顔を形作るものが輪郭になります。シルエットではありません。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。