このアマゾンのロゴを見て、「これはマズいな」と思う日本人はまずいないはず。
でも欧米社会ではそうでもない。
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アメリカのあるバスケットボールプレーヤーが最近、「KIKE(カイク)」ということばを口にしたという。
「本当の意味を知らなかった」という本人の説明は無意味。
全米プロバスケットボール協会 (NBA) は「そのことばはNBAでも社会一般でも認められない」として約545万円の罰金を選手に科した。
「KIKE」とはユダヤ人への侮辱語だから、アメリカ社会では絶対に容認されないのだ。
くわしいことはこの記事を。
「ユダヤ人に対する差別や侮辱は許されない」
というのは世界の当たり前だけど、欧米社会では特にその空気が強く、絶対的なタブーとなっている。
むかしからヨーロッパ社会にあったユダヤ人(ユダヤ教)に対する敵意、憎悪、迫害、偏見を「反ユダヤ主義(antisemitism)」という。
日本の歴史では、こんな差別思想からユダヤ人への迫害が行われていなかったから、あちらの社会では常識の「アンチ・セミティズム(反ユダヤ主義)」ということばは日本ではほとんど知られていない。
たとえば11世紀のヨーロッパで起きたこんな出来事は、日本史のどこを探してもない。
ユダヤ人集落に対して「洗礼か死か」と二者択一を迫って、襲撃した。(中略)5月18日から25日にかけてヴォルムスでユダヤ人800人を殺害または集団自決に追い込み、5月27日(28日)にはマインツで同じくユダヤ人700人から1014人 を殺害または自決に追い込んだ。
「そもそも昔の日本にはユダヤ人がいなかったのだから、それは当たり前だ」というツッコミはごもっとも。それに日本でも差別はあったしいまもある。
でも対ユダヤ人でそれはあたらない。
日本政府は1930年代にドイツの「反ユダヤ主義」に反対し、ユダヤ難民を助けるための「フグ計画」を進めていたのだから。
むしろ日本での反ユダヤ主義は、「実はユダヤ人が裏で世界をあやつっている」といった陰謀論を主張するなど戦後で多いような気がする。でもこれも日本では例外的だ。
第二次世界大戦中のドイツで行われた人類史上最悪の虐殺・ホロコーストは、反ユダヤ主義の『最大結晶』といっていい。
ユダヤ人を「劣っていて汚らわしい連中」と考えたナチスのヒトラーらは、ヨーロッパ中のユダヤ人をアウシュヴィッツなどの強制収容所に連行し、毒ガスで殺したあとこんな焼却炉で遺体を焼いた。焼きまくった。
ホロコーストによって、600万人のユダヤ人が虐殺されたといわれる。がこのときナチス=ドイツは、ロマ族(ジプシー)や身体障害者などを殺害している点も無視できない。
ヒトラーとかいう悪魔とその死を伝えるアメリカの新聞
ホロコーストはドイツによる戦争犯罪だ。
でもこれに協力した人はヨーロッパ中にいたし、そもそもこの惨劇を引き起こした『反ユダヤ主義』は昔から欧米に存在していた。
そんな闇の歴史から、いまの欧米社会でユダヤ人差別は最大級のタブーになっていて、たとえばナチスのシンボルであるハーケンクロイツ(鍵十字)を公の場で見せることはできない。
国によっては違法行為として捕まるし、これについては「本当の意味を知らなかった」なんて言い訳は通じない。
『反ユダヤ主義』の伝統がなかった日本では、それは良いことなんけど反面、このタブーに対して鈍感だ。
だから、数年前にこんな失敗をして国の内外から非難を浴びた。
日本人が犯した「ナチスの失敗」。しまむら・欅坂46・Jリーグ
対して欧米人はこの問題については超敏感。
最近、「Amazonショッピング」アプリのこんなロゴが登場したとき、彼らはどう感じたか?
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アメリカCNNがこの記事で伝える、“あの人”とはヒトラーのこと。(2021.03.03)
Amazonアプリの新アイコンはまるであの人? 好ましくない連想でデザイン変更
このデザインがヒトラーの「口ひげ」を連想させる(しかもスマイル)という声が上がったことから、アマゾンはすぐに反応し、青いガムテープ(リボン?)をこんなテープに変更した。
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もちろんすべての欧米人がそう思ったわけではないけれど、少なくとも、アマゾンが変更しないといけなくなるほどの声があったのは確か。
ヒトラーやナチス、ホロコーストと結び付けられたら企業イメージは最悪だ。
でも日本人の反応をみると、これに理解を示す人は皆無だったでござる。
・画像見てちょっと笑った
・こりゃまんじも消されるな
・くだらねー
・爆笑!もはや言いがかりレベルだなw
・ヒトラーで頭が一杯でなければこんなのこじつけられない
・日本の寺のマークも変えろよ!!
数年前のアメリカで、「やかん」がヒトラーに似てるとSNS上で話題になった。
なんでも、黒いつまみが口ひげを連想させ、注ぎ口の形が「ナチス式敬礼」をしているようだと。
な…何を言っているのか わからねーと思うが、まあCNNの記事を検索してその画像を見てほしい。(2013.05.31)
ヒトラー似の「やかん」? 話題沸騰で品切れに
『KIKE(カイク)』という差別語についても、日本では「ニュースで初めて知った」という人ばかりだった。
これも「反ユダヤ主義」という差別思想、悪しき伝統が日本にはなかったおかげだ。
でもだからこそ、欧米人と付き合うときにはこのタブーをよく理解しておく必要がある。
さて先日、AFPの報道によるとアメリカでこんな出来事があった。(2021/3/11)
黒人詩人作品でまた騒動、「属性」理由に白人翻訳者の契約解除
これについて知人のスペイン人に意見をきくと、「能力があっても、白人だと黒人の詩を翻訳することができないって何?これで仕事を失うの?こういうアメリカの人種感覚は本っ当に馬鹿げてる」と怒っていた。
「また」というのは、これと同じことが前にもあったのだ。
そんな彼女も、「反ユダヤ主義」についての感覚はアメリカ人ときっと変わらない。
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