日本人の春の感性を完ぺきに表現することば『うらら』

 

すこしまえに日本語を勉強中のイギリス人とガストへ行って席に座ると、「これはどういう意味ですか?」と彼女が指さす先にはこんなことばが。

 

 

「おいしい」は「グッド」の意味だよ。
ということなら話は簡単なんだが、改めて考えてみると「うらら」ってどんな意味なんだ?
英語で説明する以前に、日本語でもよく分からん。

こういうときは、とりあえず話をそらそう。
そのイギリス人に春の到来を表す英語表現には何があるかきくと、「Spring has come」とか「Spring is just around the corner」とか教科書の例文にありそうな、味気ないことばしか出てこなかった。
ネットで調べてみても、「It’s getting warm these days(近ごろは、暖かくなってきた)」、「It’s perfect spring weather today(今日は絶好の春の陽気だ)」みたいな文章しか見つからず。

 

日本でウララといえば山本リンダで、うららなら春になる。
「春のうららの隅田川」のうららは漢字で書くと「麗ら」で、これは日本に昔からあった大和言葉だろう。だから平仮名のほうがしっくりくる。

辞書(大辞泉)でみると「うらら」は「麗(うら)らか」と同じでこんな意味。

・空が晴れて、日が柔らかくのどかに照っているさま。
・声などが晴れ晴れとして楽しそうなさま。
・心にわだかまりがなく、おっとりしているさま。

「うららな春」という場合、これら3つの意味すべてが含まれているように思う。

晴れ渡った空の下に、やわらかな春の日差しが降りそそいでいる。冬が終わって大気が暖かく感じられて、のどかな雰囲気の中で心がくつろぐ。

「うらら」とはそんな意味だとイギリス人に伝えると、「この3文字にそんなにたくなんの意味があるの?」と驚かれた。
どう言われようが、これ以上の説明は無理。
さっさと注文してくれ。

 

このことばを使った和歌に、伏見院が詠んだこんな歌がある。

「花よいかに 春日うららに 世はなりて 山のかすみに 鳥の声々」

うららかな春の日になって花が咲き、山の霞(かすみ)の向こうからは鳥のさえずりが聞こえる。といった意味だろう。
日本の春の雰囲気を見事に表現した一句。

「ゆらゆら」が「うらうら」になって、うららになったという説もあるらしい。

 

春といえば「爛漫(らんまん)」もよく使われる表現だ。
このことばは、光り輝いてあたり一面に花が咲き乱れる様子、咲き誇る様子を表す。
「うらら」はそんなに自己主張が強くなく、控えめでもっと穏やかだ。
だから漢字の「春麗ら」よりも、「春うらら」のほうがやわらかくて雰囲気に合っている。

 

 

英語辞書で「うらら」「うららか」を調べるとbright、beautiful、fineがあるけど、やっぱりどこか違う。

「うららかな春の日」は、a clear and mild spring day、a warm sunny spring day、pleasant spring day」、うららかな日の光は「bright sunshine」とあるけど、いまいちピンとこない。
個人的に良いなと思ったのは「Spring is in the air.(春めいている)」だった。
これはもう、いちばん正確な英語訳は「urara」しかない。

韓国人に「うらら」のような春を表す韓国語の表現があるかきいたら、「あると思いますが、思い浮かばないですね」とのこと。
「春うらら」は漢字より平仮名のほうがふさわしく、外国語にはなさそうだし、春に対する日本人の感性を完ぺきに表した独特の表現だ。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。