【魔女と聖女】ドイツの“ワルプルギスの夜”。その歴史や目的

 

トラウマになりそうな、衝撃的な展開のアニメを『鬱アニメ』という。
その鬱アニメランキングで、かわいい少女たちが繰り広げる闇展開でみごと1位に輝いたのが『まどマギ』。
その映画が公開されるらしい。

といっても、『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ 〈ワルプルギスの廻天〉』の制作が決まっただけで、いつ見られるのかは分からない。

 

 

日本ではこのアニメのおかげで、一気に全国区で有名になったワルプルギス(ヴァルプルギス)の夜。
この元ネタはドイツの山で行われるという魔女の集会(サバト)のこと。
それを『ワルプルギスの夜』というのだが、日本ではこっちの本家をあとから知って、「マジかっ」と驚く人をネットでたまに見かける。

魔女たちが集まるその夜はきのう4月30日にあった。
ワルプルギスの夜は4月30日か5月1日に、ヨーロッパの中部や北部で広く行われている行事で特に有名な夜がドイツにある。

 

ブロッケン山で行われる魔女の集会

 

ドイツで行われたワルプルギスの夜

 

世界的に有名なドイツの劇作家・ゲーテの名作『ファウスト 』でワルプルギスの夜が取り上げられたことも、『ドイツのイベント』と人々に印象付けたはず。
そのゲーテに勧められて、同じくドイツ人の作曲家・メンデルスゾーンが「最初のワルプルギスの夜」という作品を完成させた。
日本でもファウストを元にした宝塚の『天使の微笑み、悪魔の涙』という舞台作品があったから、それを見てワルプルギスの夜を知った人もいるのでは。

 

ワルプルギスの夜(スウェーデン)

 

きのうがその夜だったから知人のドイツ人にきいてみたら、なんと彼はこのイベントを知らなかった。

「あれ?ワルプルギスの夜って、実はドイツで意外と知られていない?ひょっとしたら、『まどマギ』を見てあとから『マジか!』となるドイツ人もいたりして」

と思ったらそうではなくて、彼はこの行事をドイツ語の「Hexennacht」で覚えていた。
Hexen(魔女)とnacht(夜)だから、魔女が集まる夜という感じ。
ちなみにこれが英語になると呪い、魔女、魔力を意味する「hex」になる。

はるか昔、このあたりに住んでいたケルト人は、1年を暖かい・寒いの2つの季節にわけて考えていて、暖季が始まる5月1日ごろに春の祭りを開いた。
やがてこの地域にキリスト教が広まるとそれに“乗っ取られて”、ケルトの春祭りがキリスト教の聖人を祝う日になったようだ。

ワルプルギスという女性はキリスト教の聖人で、彼女は5月1日(おそらく870年)に列福された。
11世紀のケルン大司教が祝うなど、ワルプルギスが聖人になった日はヨーロッパで広く祝福されていて、その前夜、人びとはお祝いのダンスをした。

このへんは英語版ウィキペディアにくわしい説明がある。

the day of her canonization, 1 May (possibly 870), was also celebrated during the high medieval period, especially in the 11th century under Anno II, Archbishop of Cologne, so that Walpurgis Night is the eve of May Day, celebrated in continental folklore with dancing.

Saint Walpurga

 

クリスマスやハロウィンなど異教の祭りをキリスト教の行事にしてしまう“ハイジャック行為”は、キリスト教あるあるのひとつ。

 

聖ワルプルギス

 

聖女ワルプルギスを祝福する日の前夜、魔女がブロッケン山に集合してサバト(集会)を開くという言い伝えがドイツにある。

日本語のサイトだと言ってる内容がちょこちょこ違うから、ここでは世界中の人がチェックしている英語版ウィキペディアの説明を参考に書いていこう。

まず中世やルネッサンスの伝統では、ワルプルギスの夜に魔女たちは安息日を祝って、邪悪な力が最も強くなると考えられた。

(medieval and Renaissance tradition held that, during Walpurgis Night, witches celebrated a sabbath and evil powers were at their strongest.)

そして聖ワルプルギスはドイツのキリスト教徒から、ペスト、狂犬病、百日咳、さらに魔術と戦う存在と支持されていた。

(Saint Walpurga was hailed by the Christians of Germany for battling “pest, rabies and whooping cough, as well as against witchcraft.”)

だからドイツのキリスト教徒は魔術から守ってもらうよう、ワルプルギスを通して神に祈ったという。

そしてドイツではワルプルギスの夜、ハルツ山脈の最高峰であるブロッケン山で魔女の集会が行われるという伝承があった。

In German folklore, Walpurgis Night was believed to be the night of a witches’ meeting on the Brocken, the highest peak in the Harz Mountains, a range of wooded hills in central Germany.

 

この山は虹のような光の輪が見える「ブロッケン現象」で有名だから、大昔のドイツ人にはこの不思議現象が起こる山こそ、魔女が集まる場所として最もふさわしいところに見えたのだろう。

 

 

ブロッケン山で魔女の集会が開かれるワルプルギスの夜には、そういった邪悪な存在を遠ざけて、自分や家畜を守るために火を焚(た)く伝統があってそれが現在まで続いている。

(To ward off evil and protect themselves and their livestock, people would traditionally light fires on the hillsides,a tradition that continues in some regions today.)

でもそれは昔の話で、いまのワルプルギスの夜は完全にイベント化している。
魔女や悪魔、中世の騎士などの格好をして集まるコスプレ大会になっていて、「あれはドイツのハロウィンだね」と知人は言う。
飲んで食ってはもちろんのこと、花火を打ち上げたり音楽や踊りを楽しむというから、もはや魔女を口実にしたお祭り。
ただ大きな音や光を出すことには意味があって、これは魔女や悪魔を近づかせないため。

でも本当の悪魔は、酒が入って“暴徒化”した若者らしい。
彼らは街にあるものを壊したり、ヒドイときには車に火をつけることもあったから、住民は自衛のために、壊されそうなものは事前に家にしまっておくという話をそのドイツ人から聞いた。
落ち着いた生活を好む彼はワルプルギスの夜が嫌いで、そのイベントに参加したこともないと言う。
もったいないと思うのだけど、なんかいろいろ面倒くさいし疲れるらしい。

 

フランスの作曲家ベルリオーズが1830年に作曲した交響曲・幻想交響曲の第五楽章は「魔女の夜宴の夢」で「ワルプルギスの夜の夢」と訳されることもある。

彼の周りには亡霊、魔法使い、あらゆる種類の化け物からなるぞっとするような一団が、彼の葬儀のために集まっている。奇怪な音、うめき声、ケタケタ笑う声、遠くの叫び声に他の叫びが応えるようだ。

魔女の夜宴の夢

 

以下、ワルプルギスの夜に関係するたき火

 

オランダ

 

チェコ

 

スウェーデン

 

ワルプルギスの夜のイメージ動画

 

 

アドルフ・ヒトラーが自殺したのは、ワルプルギスの夜だったという話を聞いたことがあるだろか。
(1945年4月30日の夜)
ほかにゲッベルスらナチスの最高幹部もその日に自殺したから、彼らを『悪魔崇拝者』と考える人もいるという。
まぁ都市伝説でしょ。
でもひょっとしたら…。

 

 

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4 件のコメント

  • > 魔女や悪魔、中世の騎士などの格好をして集まるコスプレ大会になっていて、「あれはドイツのハロウィンだね」と知人は言う。

    えー!、それは話が逆でしょうに。
    古代ケルト人やノルド人による「ヴァルプルギスの夜」こそが、後のキリスト教世界に伝わった結果、「ハロウィンの祭り」になったのだと思いますよ。
    「ヴァルプルギスの夜」と聞けば、すぐに思い出されるのが古代北欧神話(だったか?)の「ヴァルキューレ神話」ですね。つまり、戦争の女神で誰が戦死者になるかを決定する権力を持っていたと言う。

    魔女たちの集いである「サバトの夜」ですか・・・。
    おそらく、昔から日本に伝わっている「大國魂神社」を代表とする「武蔵国の夜這祭り」の伝承なんかも、同じような社会の風習として存在していたのでしょうね。ただしこちらは、終戦後ほどなくして完全に失われてしまったようですけれども。(少なくとも私が東京都多摩地方で暮らし始めた30年前には、そんな風習はもう残っていませんでした。海音寺潮五郎「風と雲と虹と」で読んだのみです。)

  • そのアイルランドこそが、現代まで続くケルト系語族の国なんですが。ケルト人は、もともと東からやって来た騎馬民族であり、ラテン人の国であった古代ローマがヨーロッパ全土を席巻する前、ヨーロッパ全体に拡がっていたとされています。スコットランドももともとはケルト人の国です。
    また、ノルド人は、北欧スカンディナビア半島に住む人々です。

    ちなみに、イングランドに住むブリテン人からの「ケルト語族アイルランド人への蔑視」は有名で、しばしば小説や映画の題材にも取り上げられたりしています。(不思議の国のアリスに登場する「トカゲのビル」とか。『ビル』は、赤色巻毛のアイルランド人男性に典型的な名前です。)
    この「イギリスとアイルランドの対立」は、宗教的な背景もあるのです。ブリテン島及びアイルランド島は、ヨーロッパで最もキリスト教(カソリック)の普及展開が遅れた地域のひとつなんですが、宗教改革時代になってイギリス本土(ブリテン島)は、イングランドの支配域の拡大に伴い、プロテスタントの一派である「英国国教会(アングリカン・チャーチ)」の支配地域となりました。スコットランドは、タテマエ上は王族同士の提携関係(?)とかにより英国の一部ではあるがやや微妙な関係。
    一方のアイルランドは、現在でもカソリックのままです。この辺の宗教的背景の違いが、イギリス人からアイルランド人に対する蔑視の原因にもなっているようです。
    やっぱり宗教はめんどくさい。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。