ことし2月、軍部によるクーデターが発生したミャンマーではいまこんなことが起きている。
中央日報日本語版の記事(2021.06.01)
「軍政信じられない」ミャンマーで預金引き出しラッシュ…敷物に食料まで持参し行列
政府が信頼できないということで、国民が銀行に詰めかけ、できるだけ多くの現金を引き出しているという。
まーこれは分かる。
欧米先進国を怒らせて国内の混乱を招いた軍事政権に、経済をうまくコンロールすることができるのか?
いまのうちに、できるだけ多くの現金を下ろそうとするのは理解できる。がいま思っても不思議なのは、他愛もない冗談から始まって、日本社会をゆるがす大騒ぎに発展した1973(昭和48)年の「豊川信用金庫事件」だ。
これはデマが始まった原因やそれが大きくなっていく過程、そして最終的な結果がすべてはっきりわかっているある意味とても貴重な事件だから、いまでは心理学や社会学の参考事例としてよく取り上げられる。
デマが原因で2週間ほどの短期間で約14億円の預貯金が引き出され、豊川信用金庫が倒産の危機をむかえた。
国民の不安を解消して信用金庫の倒産を回避するために、日本銀行が緊急の記者会見を開くことになったこの事件は、女子高生のジョークから始まった。
1973年12月8日、電車の中で3人の女子高生がおしゃべりをしていたときのこと。
豊川信用金庫に就職が決まった友人に対して、女子高校生Aが「信用金庫は危ないよ」と冗談を言う。
これは「銀行強盗が入るかもー」という意味だったのに、言われた女子高生Bは信用金庫の経営状況が悪化していると受け止めた。
不安になったBは親せきの一人に「信用金庫は危ないの?」とたずねる。
相談を受けた親せきは、別の親せきAに「豊川信金は危ないのか?」と聞く。
これが12月8日に起きたことだ。
翌日9日、Aが美容院経営者に「豊川信金は危ないらしい」という話をする。
10日、その美容院経営者がその話を別の人物にした際、たまたまその場にいたクリーニング業の人間がそれを耳にして妻に伝えた。
3日後にはもう町の主婦らの間で「豊川信金は危ない」というウワサが広がり、通りかかった人までその話を聞くほどになる。
12月13日には「信金が倒産する!」という話になり、その前に現金を引き出そうと同信金小坂井支店に預金者が殺到。
この日に客を運んだタクシー運転手の証言がおもしろい。
昼ごろに乗せた客は「豊川信金が危ないらしい」と言う。
14時30分の客は「危ない」。
16時30分ごろの客は「つぶれる」。
夜の客は「明日はもうあそこのシャッターは上がるまい」となった。
誇張とパニック状態はつづいて、「職員の使い込みが原因」、「5億円を職員が持ち逃げした」、「理事長が自殺」といったデマが次々と発生し、事態を収集するためついに日本金融界のラスボスが動き出す。
日本銀行の局長が記者会見を開いて、豊川信金の経営について「問題ない」と断言し、日銀の名古屋支店を通じて大量の現金手当てを行ったことを明らかにした。
預金者の不安を解消するため、信金本店には日銀から輸送された高さ1m、幅5mという「巨大な現金のかたまり」を置いて、窓口の客が見て確認できるようにする。
*1億円の札束は横38cm、縦32cm、高さ約10cmだから、これを当てはめると10億円以上の現金の山を客に見せていたことになる。なんか映画の話だ。
こうしたことで騒ぎは徐々に収まっていき、やがて霧消した。
ある日突然、客が殺到して14億円もの預貯金が引き出され、倒産の危機をむかえた豊川信金は何が起きているのかさっぱりわからなかったはず。
信用毀損業務妨害の疑いで警察が本格的な捜査をはじめた結果、女子高校生の「信用金庫は危ないよ」にたどり着いた。
犯罪性はないので逮捕もなし。
日本中を騒がせたこの壮大なデマ騒動にはいろんな教訓が込められていることから、いまでは心理学や社会学のテキストに載っていて、多くの人がデマの発生やそれが誇張しつつ広がっている過程を学んでいる。
興味のある人はぜひくわしく調べてみてくれ。
こちらの記事もどうぞ。
まだ女子高生のこれなんて可愛気があるでしょ。片岡 直温なんて国会で東京渡辺銀行が倒産したとデマをとばして昭和金融恐慌の引き金引いたのだから。
この事件を見て気づくことは、根も葉もない噂であっても誰かが正面から否定しないと、人々の興味関心を引くようなデマは世の中に拡がってしまうということです。
韓国の「慰安婦は性奴隷」「強制徴用韓国人が100万人」などという、根も葉もない噂によるデマも同じことです。
最近、関西系TVワイドショー番組中で、オリンピック開催の是非に関して、落語家志らくの「じゃあなたは世論が間違っているというのですか?」という挑発に対して、つい引っ掛かった竹中平蔵が「世論なんて、しょっちゅう間違ってますよ!」と思わず本音を口走る場面がありました。その場面に対して、ネットニュース等では竹中平蔵をぼろくそに叩いてますね。
なるほどなぁ。デマかデマでないかに関わらず、どこまで情報が伝達されるかは「人々が面白い・興味を惹かれる・話さずにはいられない」という関心の高さで決まってしまうんだ。
ま、面白い情報を耳にしたら目にしたら、一歩立ち止まって「それ本当か?」と疑ってかかるべきでしょうね。
従来の新聞、ラジソ、TVに加えてSNSなどの個人発信型ネットメディアが普及してきた現代では、そのような鵜用心が、余計に必要だと思います。
ただただ扇動されるだけの無知な大衆にはなりたくない。