【天安門事件】日本にいる中国人・国内の中国人が思うこと

 

きのう6月4日で、あれから32年になるのか。
ということで、日本や海外のメディアがこの事件を取り上げている。

NHKニュース(2021年6月4日)

天安門事件から32年 党や政府への批判 徹底して抑え込み

アメリカCNNのニュース(2021.06.03)

香港の天安門事件記念館が閉鎖、犠牲者追悼日の2日前に

1989年6月4日、北京で民主化を求める学生らが武力で鎮圧されて多くの人が命を失った。
その数は319人(中国共産党の発表)から1万人以上と諸説あって真相は闇の中。
くわしいことは六四天安門事件を見てくれ。

NHKの報道にあるように中国政府は現在、この事件についての批判や責任追及を徹底的に抑え込んでいて、N国民にインタビューしても「政府の目を気にして口を閉ざす人がほとんど」という状態だ。
中国の検索エンジンでは「六四天安門事件」と入力しても何も情報が出てこない。
だから「5月35日(5月31日+4日)」や、「VIIV(ローマ数字の6と4を並べたもの)」といった隠語でこの事件にアクセスする人もいるという。

 

事件の現場となった天安門広場

 

歴史教科書にも載っていないから、天安門事件を知らない若い中国人はたくさんいる。
まえに20代の中国人留学生と話をしていたとき、彼は日本で初めてこの事件を知って衝撃を受けたと話す。
中国の歴史にはけっこうくわしいつもりでいたのに、民主化を求める自分と同じ世代の人たちが北京で何人も死んだ。この重大事をいままで自分はまったく知らなかった。
彼はしばらく絶句、フリーズ状態になったらしい。
日本に来てから最も驚いたことが、ネットで天安門事件の実態を知ったことだと言う。

中国の実家に戻ったとき両親にたずねてみると、2人ともこの事件については知っていた。
じゃあ、なんで自分にはひと言も言ってくれなかったのか?
その返事は「おまえにその必要はないから」だった。
この事件を知ってしまい、外でうっかり話して誰かに聞かれたら、おまえの将来はなくなるかもしれない。
一番安全なのは何も知らないこと。
いまの中国社会で天安門事件を語ることの恐ろしさはよくわかるし、この親心も理解できるから、彼には特不満はなかったらしい。

 

次は中国南部にある都市・大理で会った中国人から聞いた話。
天安門事件が起きたころ大学生だった彼は、民主化を求める若者の熱い気持ちを知って居ても立っても居られなくなって、列車で北京へ行ってデモに参加することをきめた。
一緒に行く仲間を探していると、「それはとても危険だ。やめたほうがいい」と友人から忠告を受ける。
駅には多くの警官(か軍人)が配置されていて、北京に向かう若者がいたらその理由を聞かれて、下手したらその場で拘束されるという。それに北京行きのチケットも、入手することは不可能に近い。
それで駅に行ってみると、たしかに武装した人間が何人もいて、これを突破して北京に行くのはどうみても無理。
それでデモに参加するのはあきらめた。

それから20年以上たったいま、そのときの判断は間違いなく正解だったと思う。
というのはいま自分には妻と子どもがいて、現在の生活には完全に満足しているから。
もしあのとき北京に行っていたら、自分は死んでいたかもしれないし、当局のブラックリストに登録されて未来を失っていたかもしれない。
中国の遠い民主化よりも、いまの家族の生活のほうがずっとずっと大事。
この国で幸せに生きていくには知らない方がいいことや、気づいても見て見ぬふりをするほうがいいことは多い、というのが彼の考え方だった。
そんな彼が自分の子どもに、天安門事件について何か情報を知らせるとは思えない。

日本で初めて天安門事件について知ったという留学生も、国内ではきっと「政府の目を気にして口を閉ざす」という状態になるはず。

 

 

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1 個のコメント

  • > なんで自分にはひと言も言ってくれなかったのか?
    > その返事は「おまえにその必要はないから」だった。
    > この事件を知ってしまい、外でうっかり話して誰かに聞かれたら、おまえの将来はなくなるかもしれない。
    > 一番安全なのは何も知らないこと。
    > いまの中国社会で天安門事件を語ることの恐ろしさはよくわかるし、この親心も理解できるから、彼には特不満はなかったらしい。

    ふーん、日本へ留学できるほど優秀な若い人がそのような考えでは、この先当分、中国社会は現状レベルから進歩することはないでしょうね。
    「一番安全なのは何も知らないこと」ですかね? むしろそれは一番危険なのかもしれませんよ。
    子供を気遣う「親心」は理解できるが、それに対して、気遣われた側がそのまま納得しているようでは・・・。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。