ある日、アメリカ人とした会話。
me:「英語で『食べ放題』ってなんつーの?」
アメ:「『all-you-can-eat』。フランス語のブッフェでもいい」
me「ブッフェって仏語だったんだ。オールユーキャンイートってちょっと長い。アメリカではバイキングって言わんの?」
アメ「言わない。むしろこっちが聞きたい。なんで日本人は食べ放題をそう言うのか」
彼が日本に来て「食べ放題は日本語でバイキングと言うのか」と理解したあと、実はそれが英語の「Viking」と知ってビックリ。
というのはそのことばで欧米人が、いや世界中の外国人が連想するのはまったく別のものだから。
ヴァイキングとは8~11世紀ごろに西ヨーロッパで活躍した、というか侵略し略奪した北ゲルマン人(ノルマン人)のことで、後に「海賊」を意味するようになった。
スカンジナビア半島にあるフィヨルド(入り江)をヴィークとよび、「ヴィークの人々(入り江の民)」が「ヴァイキング」になったという。
室町時代のころ東アジアの海に出没して荒らしまわったという、日本人・朝鮮人・中国人の海賊は倭寇とよばれた。
日本史でいうならヴァイキングはそれに近い。
少なくとも人間のことで、「2時間2980円」という世界とはまったく関係ない。
欧米社会にある典型的なヴァイキングのイメージ
でも実際のヴァイキングの人たちは、こんな角のあるカブトなんてしていなかったらしい。
欧米ではヴァイキングについて「野蛮」や「残酷」といったイメージがあって、たとえば敵を殺したあと、その頭蓋骨で酒を飲むという、織田信長のような話が広く伝わっている。
でも、これは都市伝説であって歴史ではない。
西洋のいろいろな伝承の中で、ヴァイキングは真実から離れていっているものの、彼らが海沿いの街を襲って人々を殺害し、貴重品を略奪していたのは間違いない。
ちまみに頭蓋骨をコップにして、酒などを飲む“風習”は世界各地であった。
英語版ウィキペディアの「Skull cup」では、織田信長を例に出して説明しているから興味のある人はどうぞ。
793年6月8日、ヴァイキングによってイギリスのリンデスファーン修道院が襲撃された。
ヴァイキングの活動としてはこれが確認できる最古の記録だから、きょう6月8日は「ヴァイキングの日」という記念日になっている。
世界中の人がイメージするヴァイキングとはそんな人たちのことで、「食べ放題」の意味でバイキングを使うのは日本だけ。
*日本から他の国に広がっているかもしれない。
だから日本に来た外国人がホテルやレストランで、「Lunch Viking」という文字を見て考え込んでしまう。
「Skull cup」のようなイメージがあるせいか、日本の情報を紹介する海外のサイトには「THESE VIKINGS WON’T KILL YOU」(日本のヴァイキングはあなたを殺しません)と書いてあった。
これは日本のバイキングを説明している、山ほどあるサイトのひとつ。
沖縄から北海道まで、日本の人たちはヴァイキングを毎日のように楽しんでいる。
いったい何の話かわからないと思うから説明させてほしい。
Everywhere from Okinawa to Hokkaido, Japanese folk enjoy Vikings on a daily basis. What’s that? You’re not following me here? Allow me to explain.
日本でバイキングが「食べ放題」を意味するようになったのは、日本初の食べ放題レストランが「バイキング」という名前だったから。
1957(昭和32)年に帝国ホテル社長がデンマークで、「好きなものを好きなだけ食べる」というスタイルの北欧式ビュッフェ「スモーガスボード」を知った。
こういうレストランは当時の日本にはなかったから、社長は興味津々だったらしい。
でも、「スモーガスボード」では日本人には言いにくいから、別の名称を考える必要がある。
北欧の食事スタイルだから「バイキング」ならふさわしいし、当時上映されていた映画『バイキング』に豪快に食事をするシーンがあったことから、『インペリアルバイキング』という名前の新しいレストランが帝国ホテルにオープンした。
するとこれが大当たり。
大卒の初任給が12,800円という時代に、ランチ1,200円、ディナー1,600円というかなり攻めた料金設定にもかかわらず、連日行列ができた。
このヒットを見て開業したほかのレストランも食べ放題を「バイキングスタイル」と表現したから、このことばがその意味で日本に定着した。
これは日本だけの特殊事情だから、外から来た人は「Lunch Viking」という文字を見て「What’s that?」 となる。だから、「THESE VIKINGS WON’T KILL YOU」という説明が必要になるわけだ。
ちなみにお昼の情報番組『バイキング』は、「笑いと情報をとりホーダイ!」というコンセプトでこの名前になったらしい。
他の番組から視聴率を根こそぎ奪うという考え方なら、『ヴァイキング』のほうがいい。
こちらの記事もいかがですか?
明治の文明開化に庶民はパニック!ポストや電線を見た日本人の反応は?
世界よ、これが明治日本の正義感だ! マリアルス号事件・人種差別撤廃
新幹線の始まり「あじあ号」、明治(満州鉄道)から平成(JR)へ
ALL-YOU-CAN-EAT is BUFFETS ですか。うーん、なるほどなぁ・・・。確かに長い。
もう既に20年くらい前の話になりますが、米国北部~カナダにかけての地域では、多くの中華レストランに「定額食べ放題ランチ」がありましたね。現地では、「ブッフェ(アクセントは↘)」または「バッフェイ(アクセントは↗)」と発音していましたけど。
それにしても、アメリカ人はよく食べる奴が多かった。あれじゃあ太るよ。