【韓国大統領選挙】尹奉吉記念館で韓日友好を語られても

来年３月に行われる韓国の大統領選挙に向けて、いろいろと動き出した。
日本として気になるのは「で、日韓関係はどうするつもりなのか？」ということ。
その点、大統領選挙へ名乗りをあげた尹錫悦（ユン・ソクヨル）氏は前向きかも。

中央日報日本語版の記事（2021.06.29）

大統領選出馬した尹錫悦前検事総長「韓日、未来世代のために協力すべき」

現在の日韓関係は「ご存知の通り修交後で最も劣悪になり回復が不可能になるほど壊れた」という分析はそのとおりだし、「未来世代のために実用的に協力しなければならない関係だと考える」という話にも納得できる。
関係が戦後最悪となったのは「竹槍歌を歌ってここまで来た」と文政権の日本を敵視し、国民の反日感情をあおるやり方に原因があったするのもそのとおりだ。

＊「竹槍歌」というのは19世紀後半におきた抗日運動を表す言葉で、「竹やりを持って日本と戦え」といった意味。

そんな尹（ユン）氏の考える韓日関係の改善案がこれだ。

慰安婦問題や強制徴用問題、韓日間の安保協力や貿易問題などの懸案をすべて同じテーブルに載せて議論する、グランドバーゲンをする方式で問題にアプローチしなければならない

なるほど。でもマッテクダサイ。
その懸念のひとつ取ってみても、数年、数十年かかっても解決できていないのに、すべてをまとめて考えるバーゲン的発想が現実的に通じるとホンキで考えているのだろうか。
そもそも慰安婦・元徴用工問題は韓国政府がすでに最終的な解決を確認したもので、これを再び蒸し返しているのは韓国なのだから、約束を守って問題化するのをやめればすぐに終わる。
でもこの意見を見ると、ユン氏にその意思はなさそう。
だからひと言でいえば、ダメだこりゃ。

それ以前に、尹錫悦（ユン・ソクヨル）氏が韓日友好について熱く語った場所が「尹奉吉（ユン・ボンギル）義士記念館」だったというのは、一体何を考えているのか？

韓国でいう「義士」に暗い予感がした人はおめでとう、みごと的中だ。
伊藤博文を暗殺した安重根は韓国では義士と称賛されている一方、日本にとって首相殺害はテロ行為で、その犯人はテロリストでしかない。
このへんは日韓で見方が正反対になるのは仕方ない。

尹奉吉（ユン・ポンギル）もこの「鏡の法則」に当てはまる。
伊は1932（昭和７）年に中国・上海の虹口公園（現在の魯迅公園）で上海天長節爆弾事件を起こした人物であちらでは義士、こちらではテロリストだ。

天長節とは天皇の誕生日を祝う祝日のこと。
この日、上海で昭和天皇の誕生を祝う式典が行われた。
そこに現れた尹奉吉の行動については、韓国の高校歴史教科書に書いてある。

韓人愛国団は尹奉吉を送り、式場を爆破させた。尹奉吉が爆弾を投げ、壇上にいた多くの日本軍将校と高官を殺傷し、これによって式場は一瞬のうちに阿鼻叫喚の修羅場となった。

「韓国の歴史　（明石書店）」

この爆弾テロによって陸軍大将の白川義則と医師の河端貞次の２名が殺され、他にも足を失ったり失明したりして多くの被害者が出た。
これを韓国の歴史教科書は「韓民族に希望と勇気を吹き込む方案」、「韓国独立運動の意気を高め」る義挙だったと絶賛。

これは中学生用の歴史教科書（民間版）の記述だ。

彼の義挙は国内外で独立のためにたたかっていた人々に希望と勇気を与えた

「躍動する韓国の歴史　明石書店」

事件の３日前に撮られた写真
銃と手りゅう弾を持つこの尹奉吉の写真を、韓国の小学生用歴史教科書で見た記憶がある。

90年ほど前の事件について、いまさらどうこう言うつもりはない。非難する気もない。
でも、百歩譲って軍人だけならともかく、民間人も爆殺したのは明らかなテロ行為で、その犯人である尹奉吉はテロリスト以外の何者でもない。
もちろん韓国では義挙＆英雄であることは、受け入れられないけれど理解はできる。
日韓はそれぞれ別の価値観を持っていて、評価が180度違うことはお互い認め合うしかない。

ただ尹奉吉（ユン・ポンギル）記念館を出馬宣言の場所に選んで記者会見を開き、「韓日、未来世代のために協力すべき」と主張されても日本人には響かない。
とはいえ日本でいう反日はあちらでは愛国（＝正義）だから、ここで宣言を出せば「親日派」のレッテル張りを避けることができる。
なんせ「人々に希望と勇気を与えた」のだから。

「グランドバーゲン」というやり方を見ても、尹錫悦（ユン・ソクヨル）氏は韓日関係でも日本の立場を無視して、自分の言いたいことを言うだけのヒトのような気がする。
それでも関係改善については、いまの大統領候補の中では尹氏が一番積極的のようだ。
期待しなかったら裏切られることもない、と思いながら、これから始まる大統領選挙のアピール合戦を見ていこう。