日本人とクモ:江戸の遊女に「蜘蛛の巣文様」が人気の理由

 

日本に住んでいるカナダ人女性がまえに、SNSにこんなメッセージを投稿してた。

「I don’t want to jinx it but so far I have seen zero (0) spiders, giant or otherwise, in my new place.」

縁起でもない話だけど、今のところ新居では巨大なクモも、それ以外のクモもまったく見ていない。
*jinxはジンクス(悪運、呪い、不幸をもたらす)

こう書いた彼女は、去年まで住んでいたアパートで撮ったこんな1枚を添える。

 

 

安全で便利な日本の生活を気に入っているこのカナダ人が心の底から恐れ、困っているのがクモやゴキブリなどの害虫だ。
こんな手の平サイズのデカいクモなんてカナダでは見たことなかったし、日本に住んで3年以上たっても害虫に慣れることは1ミリでも不可能という。

上のクモ(たぶんたアシダカグモ)はたしかに見た人を不快にさせる害虫ではあるけど、機能的にはGを退治してくれる益虫でもある。
日本人とクモとの付き合いは昔からあって、クモに関するいろいろな文化も生まれた。
たとえば、「朝にクモを見ると縁起が良く、夜にクモを見ると縁起が悪い」とクモを見ることによって縁起をかつぐ風習がある(朝蜘蛛・夜蜘蛛)。
興味のある人は「クモ・文化的側面」をクリックだ。

 

江戸時代、遊女の間ではこんなクモの巣がデザインされた着物が人気を集めた。
いわゆる「蜘蛛の巣文様」だ。
ではここでクエスチョン。
遊女らがこの模様を気に入った理由は一体なに?

 

 

上の絵は日本画家の上村 松園(うえむら しょうえん:1875年 – 1949年)の『焔』(ほのお)という作品。
『源氏物語』に出てくる架空の人物で、嫉妬に狂った六条御息所(ろくじょうのみやすんどころ)の生霊がこの着物のモデル。
光源氏を自分だけのものにしたいという強い思いから、御息所は生霊や死霊になったという。
クモの巣はそんな彼女の独占欲や嫉妬の象徴だ。

江戸時代には「客を自分だけものにしたい」「捕まえて逃がさない」という思いを込めて、「蜘蛛の巣文様」の着物を着ていた遊女が多くいた。
上のクモの巣からは怨念のような激しい感情と、同時にこの時代の女性が抱いたはかなさや悲しみも感じられる。

上村がこの絵で赤やそれに近い色はまったく使わずに、寒色だけで描いたことには、血の通っていない生霊を表現するためだったという説もある。
クモの巣と一緒に描かれている「藤」には「不死」、つまり好きな男性と永遠にいられるようにという願いが込められているらしい。

クモが心底キライというカナダ人も、こういう日本文化はきっと大好き。

 

 

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1 個のコメント

  • そう言えば、クモは世界中に住んでいますけれども、「大きなクモ(足の長いクモ)」がいるのは先進国では日本だけですかね? 米国だと南部へ行けば「タランチュラ」とかもいますけど。
    カナダでは、森林も含めて、確かに大きいクモを見たことは全くありません(そりゃ女性だったら怖いだろうな)。欧米の針葉樹林と、日本の雑木林・広葉樹とでは、クモの生態系にも違いがあるのかな?

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。