リトアニアはアフリカにある。
と聞いたら3割ぐらいの人が「へ~」と言いそうなほど、日本での知名度が低いこの国は東ヨーロッパにある。
先週7月6日はリトアニアの建国記念日だったから、せっかくなんでこの国の歴史や日本との関係について知っていこうか。
日本とリトアニアは敵対することも同盟することもなく、歴史的にはほとんどつながりがない。
だからこの国について知らない日本人は多い。という事情は向こうも同じのようだ。
2年前に旅行で日本へやって来た20代のリトアニア人女性から、
「日本ではバッファロー(水牛)が畑を耕しているし、日本人は蛇を食べると、ウチのおじいはガチで信じていて気をつけろと言われた」
という話を聞いた。
いやいやいや、それは中国やベトナムの農村のイメージでしょ。
といってもこれはリトアニアのお年寄りの話で、若い人はもっと正確な日本を知っているはず。でも、韓国との違いもアイマイだろうから、あまり期待はしないほうがいい。
日本人だってリトアニアとポーランドの違いを聞かれたら、きっと死んだふりをしてやり過ごす。
この国が生まれたのは13世紀、モンゴル軍が日本を襲った元寇(1274年の文永の役&1281年の弘安の役)の少しまえのこと。
1253年7月6日、最初で最後のリトアニア王・ミンダウカスが即位したことでこの日が建国記念日になっている。
日本でいえば紀元前660年に神武天皇が即位したこと(=日本誕生)を祝う、2月11日の建国記念の日のようなものだ。
リトアニア王国はセミの一生のような短命な国。
1263年にミンダウガスが暗殺されたことで国は消失し、以後、ちゃんとしたリトアニア国王が登場することはなかった。
王室の継続性という面では古代から一度も途切れることなく、現在は126代目の天皇のいる日本とは決定的に違う。
ミンダウカスは外来宗教であるキリスト教(カトリック)に改宗した王だから、その点では、日本で初めて仏教を受け入れた6世紀の用明天皇と似ている。
ただ用明天皇は中国から伝わった仏教と、その前から信仰していた日本固有の神道を両立させたけど、ミンダウカスはキリスト教以外の宗教を否定したはずだ。
この王が殺害されるとリトアニアは元の異教崇拝に戻ったから、彼が暗殺された理由のひとつにキリスト教化があるのだろう。
ミンダウカス王
リトアニアの面積は6.5万平方キロメートル(日本の約6分の1)で、人口は284.9万人(日本の約45分の1)、首都はビリニュスという(人口約53万人)。
リトアニアは国土の約75%が平地という超まっ平らな国で、知人が言うには山という山がなく、50mの高さがあればそれは立派な山になる。
(リトアニアで最も高い山でも294mしかない)
日本人からすると、うらやましいほど人口密度が低くて広々しているせいか、東京を旅行したリトアニア人が「電車や地下鉄のあの人混みは一体なんなんだっ!」と驚いた。
渋谷のスクランブル交差点がとても気に入ったのも、母国では見られない光景だったからだろう。
リトアニア人がSNSに投稿した一枚
ではこの国と日本との関係を見てみようか。
近年の日本ではリトアニアといえば、第二次世界大戦のときに「命ビザ」を書いて6000人のユダヤ人を救った杉原千畝が知られている。
ナチスの迫害から逃れてきたユダヤ人を、全身全霊で助けた彼の生き方は映画にもなった。
そんな杉原が「命のビザ」を書き続けたのが、リトアニアのカナウスという都市だ。
でも残念ながら、この知名度は一方通行らしい。
日本では有名な杉原千畝はあちらでは「だれそれ?」という無名状態に近い。
カナウス大学出身の知人のリトアニア人は日本への留学がきまって、いろいろ調べているうちにたまたま杉原を知って、「この都市にこんな日本人がいたのか!」と感心したぐらい。
だから日本に来てから「ああ、杉原千畝がいた国ですね」と、”知ってること前提”で話をされるとけっこう困るらしい。
現在の日本との関係でいえば、日本人が考案したカニカマを猛烈な勢いで作っているのがこの国だ。
カニカマは西ヨーロッパでよく食べられていて、消費国の世界1位はフランスで2位がスペイン。
こうした需要に加えて、材料となるスケトウダラがリトアニア近海でよくとれることから、リトアニアは世界最大のカニカ生産国となった。
歴史的・文化的な接点はほとんどなかった日本とリトアニアでも、近年は旅行や仕事、留学で互いの国を訪れる人が、まだまだ全体数は少ないものの増えてはきている。
ということで読者さんがどっかでリトアニア人と会ったら、今回の内容をぜひ話のネタにしてほしい。
ただそのときは杉原千畝よりも、カニカマがどんな料理に使われているかというカジュアルな話題のほうがいいと思う。
杉原がいた第二次世界大戦のころ、リトアニアはナチス=ドイツに占領されたからあまりハッピーな時代ではない。
リトアニアはドイツやロシア(ソ連)に支配されていた闇歴史が長くあるけど、日本は異民族による支配を一度も経験していない。
この歴史の違いも決定的だ。
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> 近年の日本ではリトアニアといえば、第二次世界大戦のときに「命ビザ」を書いて6000人のユダヤ人を救った杉原千畝が知られている。
日本人にしてみればそうなんでしょうが。リトアニア人が、杉原のことを知らない(もしくはフリをする)というのも理解できるような気がします。
杉原が「命のビザ」で救ったユダヤ人は数千人ですが、そのほぼ同時期、リトアニアに約20万人も住んでいたユダヤ人は、ナチス・ドイツとその協力者であったリトアニア人達の手によって、そのほとんど(19万人以上)が虐殺されています。しかも約半年の短期間にです。
その事実をおそらくリトアニア人のほとんどが知っていると思う。なので、リトアニア人にとって、ユダヤ人の命を救った杉原の話を聞くことは、ちょっと「居心地の悪い」感じがするのではないかな。
リトアニアにおけるユダヤ人虐殺の事情は複雑です。
ナチス=ドイツに協力したリトアニア人もいれば、殺害されたリトアニア人もいます。
ポーランド人やほかの人もいたでしょう。
杉原千畝ですらこの程度なのだから樋口季一郎なんて尚更知られていないのも当たり前か。