五輪のテコンドーと野球:苦しむ韓国がうらやましい日本

 

韓国の国技テコンドーが生まれたのは1954年のこと。
創始者である武道家の崔泓熙らが、李承晩大統領の前で演武を行ったことが大きなきっかけだ。
しかし、それにはこんな産みの苦しみがあった。

空手を知らない大統領はテッキョンと断定したままこれを賞賛、軍内での普及を宣言。崔泓熙は反日の立場を取る大統領に向かって日本の武道である空手とは言えず、またテッキョンとも違うことから自らが創始した武道であると伝える。

テコンドー

 

54年に崔泓熙がこの武道を「テコンドー」(跆拳道)と名づけ、その後、韓国を宗主国とするテコンドーは海外で人気が広がって、世界的なスポーツとなってオリンピックの正式競技となった。
だがしかし、いま韓国の表情は暗い。

中央日報日本語版の記事(2021.07.27)

宗主国の韓国は複雑な思いだが…米紙「テコンドーが五輪精神を輝かせる」

クロアチア、タイ、イタリア、アメリカ、ウズベキスタンなどが東京五輪のテコンドーで金メダルを獲得し、韓国はまさかのゼロで終わってしまった。
銀メダリスト1つ、銅メダル2つは獲得したものの、最高の名誉を1つも手にすることはできなかった事実に、韓国国民に大きなショックを与えた。
テコンドーが正式種目になったシドニー五輪から、韓国が金メダルを逃したのはこれが初めて。だから、朝鮮日報が「激しい痛みを伴う現実である」と書くのもわかる。

でもこの結果を米ニューヨークタイムズは、「驚くほど多様性を見せる」と書いてテコンドーを高く評価するから、韓国としては悲しいけど喜ばしくて本当に微妙なところだ。
テコンドー競技者が世界的に増加した理由は、「高価な装備や特別な場所がなくても練習しやすく、自分たちのものにしやすい」というもので、「ニジェールのような貧困国でテコンドーは最高の種目」という声もあるらしい。
誰でも始められるスポーツというのは五輪の理念にも合っている。でもライバルが増加するほど、韓国は栄光から遠ざかるから悩みも深くなる。

 

一方、いま日本の野球界はこれと正反対の悩みを抱えていた。

スポニチアネックスの記事(8/17)

侍・稲葉監督インタビュー(2) 28年LA、32年ブリスベンでの五輪野球競技復活へ「熱」必要

東京五輪で初めて金メダルをとった日本野球の、次の目標は五輪で野球をすること。
テコンドーと違って競技人口が少ない野球では、今回の東京五輪に参加したのは日本とメキシコ、ドミニカ、韓国、アメリカ合衆国、イスラエルの6か国だけ。
あまりに一部に偏っているからもはや五輪競技としての意義が見いだせず、24年パリ五輪で野球はなくなることがきまった。
だから28年ロサンゼルスで、というのは現実的にむずかしいから、32年のブリスベン五輪で野球を復活させたいうのが日本野球界の願いだ。

なのでインタビューで稲葉監督はこう話す。

「日本だけが盛り上がってもオリンピックに関してはダメだと思っていて。世界にどうやって野球を普及させるか。(中略)熱と言いますかね、そういうものをこれから世界に向けていろいろやっていく必要はあるのかなと思います」

でも残念ながら、日本のネット民は否定的だった。

・アメリカでも人気は低迷してるそうで
・王さんが頑張ったのに中国に野球が根付かなかったから世界的普及は無理
・ルールは複雑、道具はたくさん必要、
使い勝手の悪い野球場
無理っすね
・ガラパゴス日本だけで盛り上がれば良いだろ
・全世界に「巨人の星」を配信すればいい。
・国際大会は7回までにしろよ

 

テコンドー人気は世界で定着しているから、韓国の場合、五輪で金メダルをとる可能性はあるし、少なくとも競技は行われるから、金を目指すことはできる。
でも、野球は現時点ではどちらもムリ。
いまは日本国内でさえ野球人気が減少中なのに、それを世界に広げるというのはミッション・インポッシブルにもほどがある。「熱が必要」というのはあまりにも抽象的だ。
「驚くほど多様性を見せる」というテコンドーと、ガラパゴス化する野球はまさに正反対。
となると「激しい痛みを伴う現実である」というのはぜいたく悩みで、野球の五輪復活を目指す日本としてはそんな韓国がうらやましく見えてしまう。

 

 

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2 件のコメント

  • 「苦しむ韓国がうらやましい日本」
    ???
    記事のタイトルを見た時、「これ、どちらの意味だ?」と疑問に思いました。
    ➀苦しむ韓国がうらやましい(と思うその相手国こそが)日本
    ➁苦しむ韓国(そんな韓国がかえって)うらやましい(と思う我々の国)日本
    うらやましいと思っているのが韓国人なのか(➀)、日本人なのか(➁)、どちらの意味にもとれますね。

    記事の中身を読んでみたところ、なるほど、両方の意味に取れることこそ正解であると納得しました。
    なかなか技巧に富んだ表現だと思います。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。