母国の腐敗をなげくタイ人、日本の信頼性・公平さを賞賛す

 

江戸時代が終わる寸前の1865年に、シュリーマンというドイツ人が日本へやって来た。
税関での荷物検査を「うぜー」と嫌がったシュリーマンは、役人に金をわたして見逃してもらおうと考える。
でも、役人だった武士はワイロの受け取りを断固拒否。
アジアのほかの国では通じたこのやり方が日本では通用しない。
名誉を重んじる武士の態度にシュリーマンは感動した。

彼らに対する最大の侮辱は、たとえ感謝の気持ちからでも、現金を贈ることであり、また彼らのほうも、現金を受け取るくらいなら『切腹』を選ぶのである

「シュリーマン旅行記 清国・日本(講談社学術文庫)」

シュリーマンはトロイア・ミケーネ遺跡の発掘に成功したことで、世界的に有名になったドイツの考古学者。

 

時代と国はガラリと変わって、微笑みの国で笑顔が凍りつくような事件が発覚した。

毎日新聞の記事(2021/9/5)

容疑者に袋かぶせ暴行、警察署長逮捕で疑惑続々 タイ社会に衝撃 

タイで麻薬を販売した疑いで20代の男が逮捕された、というだけならば、日本のマスコミが取り上げるほどのことじゃない。
でも、麻薬の過剰摂取で警察署内で死亡したとされていたこの男、実は署長や警察官から拷問を受けて、殺害されたことが内部告発によって明らかになる。
警官が男の頭にポリ袋を何枚もかぶせて、怒鳴りながら何度も暴行する動画が外部に流出しSNSで拡散された。

署長や警官は男に、釈放させる代わりに200万バーツ(約680万円)を支払うよう要求したけれど、これを拒否されたことで拷問を行ったらしい。
「麻薬の過剰摂取」という死因は、署長がでっち上げて、部下にそう記載するよう指示していたことも判明。
結局、殺人容疑でこの署長と6人の部下には逮捕状が発行され4人が逮捕、残り3人は現在逃走中とのこと。

 

ここまでヒドイのは例外としても、タイでは警察が金を要求したり、市民がワイロを渡して罪を見逃してもらうことが多いという話は前から聞いていた。
日本に3年以上住んでいるタイ人と話をしていたときに日本との違いを聞くと、彼女は「社会の信頼性と公平さ」を挙げてこんな話をする。

夏休みに母国へ帰ったとき、何人かの友人と一緒にレストランへご飯を食べに行った。
久しぶりの再会ということで、かなりの食べ物や飲み物をオーダーしていろいろ話に花を咲かせていると、店のオーナーがニコニコしながらやって来て、いま店に素晴らしいお酒があるから、みなさんでぜひ飲んでいただきたいと言う。
そして、「もし帰りに飲酒運転で捕まったら、警察官にこれを見せれば大丈夫です」と店のカードをテーブルに置く。
つまり、オーナーがこの地域の警察署のお偉いさんにワイロを渡していて、その見返りに、客の飲酒運転を見逃してもらうシステムが完成されているということだ。

「そういうやり方は良くない!」と友人が怒ると、「万が一のことを考えて、そう言っただけですよ」とオーダーは笑顔で釈明する。
という知人のタイ人の予想は大外れ。
友人らは「ありがとう!」と言ってその酒をオーダーして、お守りとして店のカードを持って家路についた。
もちろんプチ飲酒運転で。
彼女は店の中で「あなたたちは正気?こういうことはやめるべき!」と強く言うと、「アンタは心まで日本人になっちゃった~」と笑われる。
「魚心あれば水心」で、腐敗した警察がいるのは、それなりの市民がいるからだ。

 

日本で生活していると、こんな店や警察、市民は絶対に考えられないと言う。
(まあ絶対にゼロではないが)
タイ人の彼女からみると、「社会の信頼性や公平さ」という点で日本は世界に誇れる先進国で、タイとは比較にならない。

「現金を受け取るくらいなら『切腹』を選ぶのである」というのは昔話としても、シュリーマンを驚かせた日本人の正直さや清潔さは令和のいまも変わっていない。と思う。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。