韓国の「ツートラック原則」 vs 日本の「戦略的無視」の結果

対日外交について韓国政府の基本原則は「ツートラック」で一貫している。

このトラックは車じゃなく陸上競技のトラック（コース）のことで、韓国は日本に対し、過去の歴史問題と経済・安全保障を別々のコースのように分けて考える「ツートラック原則」を掲げている。
慰安婦・徴用工問題を持ち出せば日本との対立は必至。
だからそれぞれを切り離して、歴史問題の解決と経済・安保の協力の両立をねらって日本にアプローチしている。

だがしかし、これは結局、日本に謝罪や反省を求めると同時に経済では協力していきましょう、という韓国にとって都合の良い考え方だから、日本での評判はすこぶる悪い。
というか相手にしていない。
日本政府はここ数年、「ツートラック」には「戦略的無視」で対抗し、首相と大統領のトップレベルでの話し合いにほぼ応じていない。

日韓関係が戦後最悪となっても、同じ原則ばかりを繰り返す韓国の政府与党。
そんな現状に業を煮やした野党からは批判が噴出し、ある野党議員は「日本の政界では韓国を助けない、教えない、関わらないという『非韓３原則』が出ている」という日本のネットで同じみの原則を国会で持ち出し、韓日がこのようにふさがった状態だと「韓米関係にも否定的な影響が生じる」と懸念する。

この指摘にチョン・ウィヨン外交部長官（外務大臣）はこう返すのがやっと。

中央日報日本語版の記事（2021.02.19）

「韓日政府が対話を緊密にしながら十分に解消できると信じていて、日本側をこうした方向で説得している」という原則的な答弁を繰り返した。

最悪の韓日関係の中でも…韓国外交長官「ツートラック原則」ばかり反復

韓国議員の言う「非韓３原則」も日本政府の「戦略的無視」も同じ。
徴用工・慰安婦問題について、日本が納得できる解決策を韓国政府が提示するまではキホン呼びかけには応じないし、話し合いも拒否するということだ。
逆にそれさえすれば、道は一気に開かれる。つまりは韓国しだいだ。
にかかわらず、信じている、説得しているといった原則的な答弁を繰り返す自国の政府に、中央日報は「モウ聞き飽きました」といった感じ。
さて日韓の２大原則がぶつかったら、一体どっちが勝つのか？

韓国の地方裁判所がことし１月、日本政府に元慰安婦ら12人に賠償を命じるトンデモ判決があったのは記憶に新しい。
これは国際法上の原則「主権免除」を否定する考えられない判断だ。だから日本政府はこれを認めず、韓国に抗議したのはアタリマエ。

つい先日、この件で動きがあった。
韓国の裁判所が日本政府に、韓国内にある財産目録を来年の３月21日までに提出するよう命じた。
なんで日本国が韓国の裁判所に服属すると考えられるのか。
どうして韓国の司法は日本の主権をやすやすと侵害するのか。
「断じて受け入れられず！」と日本政府がこれを一蹴したことは、韓国でも想定内だったはず。

で、これについて韓国政府はどんな見解を述べるのか？
関心をもって韓国メディアの報道を見ていたんだが、文大統領や政府の報道官からこの件についての言及が見つからない。

この沈黙のワケは『アエラ』の記事にありました。（2021/9/5）

慰安婦訴訟で韓国地裁が日本政府に「3月までに財産開示」命令　日韓で火種「経済制すべき」〈dot.〉

記事の中で韓国駐在の通信員がこの主権侵害に対し、日本は『日韓基本条約の請求権協定を反故にした』として韓国の資産を請求したり、経済制裁で対抗する可能性があると述べる。
これを心の底から恐れていたから、韓国政府はツートラック原則に固執してきたのだ。
韓国が「経済制裁返し」をしたところで、より大きなダメージを受けるのは自分だから、このまま対立が激化すると「韓国側の方が苦しい立場に追い込まれると思います」と通信員はみる。
だから韓国政府としては、この件について下手なことは言えない。

韓国側は結局、韓日の摩擦をまったく解消できなかった。
ここ最近の日韓を見ていると、日本の説得に失敗し、同じ対応を繰り返す韓国側がコーナーに追い詰められているようだ。
ツートラック原則より日本政府の「戦略的無視」のほうが効いているし、文政権は韓国議員の言う「非韓３原則」を真剣に受け止めるべきだった。

でも文大統領は来年の５月で任期満了となるから、これからも具体的な行動はなしで、空疎なことばを繰り返すだけで、日韓関係を最悪にしたまま次にバトンタッチするのだろう。
ということで、日韓の「原則対決」の答えは出たと言っていい。