もし「猿」のワードで画像検索して、日本人の顔写真が出てきたとしたら?
2015年にアメリカでそんなことがあって、グーグルが大慌てで謝罪した。
この年にグーグルが写真保存・共有サービスの「グーグルフォト」を発表し、あるアフリカ系アメリカ人がそのアプリを使って自分と知人の写った写真を保存したら、その写真には自動的に「ゴリラ」のタグが付けられた。
つまり、グーグルフォトは黒人を「ゴリラ」と認識してしまったのだ。
その黒人男性が「オレの友人はゴリラじぇねえよ」とツイートしてこの問題が発覚。
「Google Photos, y’all fucked up. My friend’s not a gorilla.」
グーグル側に差別意識は一切なくて技術の問題だとしても、これはアメリカ社会では絶対にあってはならないミス。
「我々はあらゆる差別を許容しないし、これまでそういう立場をとってきた。でも今回のことで傷つく人がいたのなら、それは申し訳なく思う。」とかいう、自分の非を認めない謝罪で誤魔化すことはできないから、グーグル側はこの男性に直接コンタクトをとって丁寧に謝ったという。
その点、先月あったこの問題はAIではなくて、ヒトの認識によるものだからもっと深刻かも。
A lot of people keep DM’ing me asking for the full story…
They ended up taking my ID badge away from me later that day and I was told to call security if I had a problem with it. And that was after holding me up for 30 minutes causing me to miss my bus ride home https://t.co/UBzHDC1ugG
— Angel Onuoha (@angelonuoha7) September 22, 2021
アメリカの名門ハーバード大学を卒業していまはグーグルで働いているこの黒人男性が、社内の敷地を自転車に乗って走っていたら、警備員に呼び止められてIDバッジを見せるよう求められた。
まずこの黒人男性を見て、グーグルの社員とは思わなかった何者かが警備員に連絡し、同じく彼を社員とは信じなかった警備員がその証明をさせたという。
この黒人男性が不審人物ではなくて、本物のグーグル社員とわかって解放されるまで30分もかかり、彼はバスに乗り遅れてしまった。
グーグル側はこの事態を「非常に深刻に受け止めている」とショックを受けているようす。
でも「火のない所に煙は立たぬ」で、世界的にみても先進的な大企業でこんな“差別”事案が起こることには、それなりの土壌がある。
フォーブス・ジャパンの記事(2021/9/27)
「白人優位」が根強いグーグル、黒人リーダーはわずか3%
社員の人種構成比を発表するところが日本とアメリカ社会の大きな違い。
グーグルが公開した社内の多様性を示す、最新のインクルージョンレポートによると、アメリカの従業員のうち黒人はたった4.4%で、リーダーシップポジションにいる黒人は3%だけ。
リーダーシップポジションにいる黒人女性は1.3%で、もう「誤差」といっていいレベル。
それに対し白人の従業員は全体の50.4%と過半数を超え、リーダーシップポジションでは65.5%と圧倒的だ。
でもグーグルが2020年に採用した黒人社員の割合は8.8%と過去最高(2019年は5.5%)で、社内の多様性は進んでいるという。
さてこの写真を見て、「ああ、アレね」と気づく人は日本にいまどれだけいるだろうか。
これは1966年にアメリカで始まった人気テレビドラマシリーズ『スター・トレック』のワンシーンだ。
このドラマでは白人俳優が演じたカーク船長(写真右)がメインキャラで、日系2世が操縦士、黒人女性が通信士という重要な役どころに採用された。
「主要キャストが白人中心だった当時では異例の起用だった」
「製作者は未来の宇宙に、あるべき米国の姿を託したといわれる」
と毎日新聞のコラム「余禄」にある。(2021/10/16)
「『スター・トレック』は私が宇宙の活動に参加する権利があると…
1992年に黒人女性初の宇宙飛行士となったメイ・ジェミソンさんはこう語る。
「『スター・トレック』は私が宇宙の活動に参加する権利があると確信させてくれた」
でも現実には、
「 My friend’s not a gorilla.」
「They ended up taking my ID badge away from me」
というように、アメリカ社会にはいまでも黒人に対する偏見が根深くある。
グーグルのアプリが黒人を「ゴリラ」と認識してしまった大きな原因は、ネット空間で多くの人間が黒人にそういう差別的なラベルを付けていることにある。
人間の差別意識をAIが”学習”した結果、誤った認識を持ってしまった。
映画やドラマで白人・黒人・アジア人など人種に配慮した俳優をキャスティングしても、人々の意識を変えることはむずかしい。
「ポリコレ棒」でバンバン叩いて、差別的な言動が社会の表面上からなくなったとしても、その意識は匿名のネット空間に沈殿し増殖している。
そんな構造は日本を含めてどこの国でもフツウにあるはず。
理想的な社会はやっぱり未来の宇宙に託すしかない?
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> 「ポリコレ棒」でバンバン叩いて、差別的な言動が社会の表面上からなくなったとしても、その意識は匿名のネット空間に沈殿し増殖している。
> そんな構造は日本を含めてどこの国でもフツウにあるはず。
それはその通りなのでしょうが、その「程度」は、現状、国によっても全然違います。そもそもネット空間自体、存在する国とそうでない国があるのは自明ですし。
外見、言語、宗教、慣習、伝統文化などの点において似た者同士が集団を作りたがるのは、人間の自己防衛本能によるもの。その集団同士の間に何らかの「競争・対立による優先権や上下の差」が生じると、それは差別になります。
でもこれまでの日本人は、差別しようにも、差別する側が差別の相手を自分達と見分けることさえ、なかなか難しかった。結果、世界レベルで見れば比較的差別の少ない社会であったのだと思います。たまたまです。
日本国内に住んでいる日本人が、「差別とはどういうことか」本当に知るのはこれからですよ。
ネット空間がそのキッカケになるかどうかは、まだ分りません。