国が変われば、価値観も許容範囲も変わってくる。
知人のアメリカ人は数年前、日本のディスカウントショップで、白人に「変装」するためのプラスチック製の付け鼻を見て言葉を失ったと言っていた。
その人の感覚では、「こんなのあり得ない!なんでみんな素通りのか分からない」というほどの人種差別に該当するもので、小学生が行くような店でこれが普通に販売されているのを見て信じられない思いをしたらしい。
そう言われてみると、ボクにも心当たりがある。
まえにタイを旅行していたとき、スーパーでこんな歯磨き粉を見つけたときは目がテンになった。上のアメリカ人ほどじゃないけど、「タイではこれがアリなんだ」と驚きはした。
この「黒人」という歯磨き粉は中国、マレーシア、タイなどでは人気の商品で、コンビニやスーパーでよく並べられている。
日本人がよく行く台湾でもこれは一般的で、ネットを見ると日本人の反応もおおむね良い。
「好きすぎて、日本でも毎日使ってます、黒人歯磨き粉♪」
「日本でも販売して欲しい。黑人シリーズ、色々あるけど、このタイプが1番、很好♪」
「日本人団体を台湾へ引率した際、 お客様から「黒人歯磨き粉」を買いたいとのリクエストがありました。」
試したことないからボクにはよく分からないけど、日本の歯磨き粉にはない爽快感が味わえるらしい。
この「黒人」は中国の歯磨き粉市場で17%、シンガポールでは21%、マレーシアでは28%、台湾では25%を占めているというから、アジアでは日常生活に溶け込んでいることがわかる。
いまはないと思うけど、タイではこんなデザインの「黒人歯磨き粉」があった。
知人のヒスパニック系アメリカ人は白人から差別を受けた経験から、いまは猛烈な反人種差別主義者になっている。その彼にこの歯磨き粉の存在を教えたら、あとでSNSにこんなメッセージを投稿していた。
Who TF is in charge of this naming anyway? Let’s drag them out into the public scene and grill them with questions relentlessly.
こんな商品名にしたのは誰だ?
この歯磨き粉を公共の場から引きずりおろして、質問攻めにしてやろうぜ。
先ほど「日本でも販売して欲しい」と無邪気に言う人がいたけど、そのニーズに応えようとする日本企業はまず出てこない。
この歯磨き粉の背景には黒人への人種差別があって、いまそれが問題になっているから。
まず商品パッケージで目を大きく開けて笑う黒人男性は、アメリカの歌手で俳優のアル・ジョンソンのパロディだ。
彼は20世紀のアメリカを代表するエンターテイナーの1人で、いまなら人種差別行為になるけど、当時は社会的にOKだった「黒塗りの顔」でパフォーマンスをおこなって全米の人気者となった。
ジョルソンはトーキーの興行価値を不動の物とした。その頃に「アル・ジョルソンによって映画は歌うことを知った。」と云われた。(中略)ジョルソンが心臓麻痺によりサンフランシスコで亡くなった日に、ブロードウェイは彼を偲んで10分間電灯を消した。
素顔のアル・ジョンソン
ブラックフェイスをしたアル・ジョンソン
黒人を侮辱的・差別的に表現したミンストレス・ショーは、こんなパフォーマーによって行われていた。
1964年に公民権法が施行され、有色人種が法的にも社会的にも人種差別に勝利し、政治的な影響を持つようになった結果、ミンストレルは人種差別を助長するものとして大衆性を失った。
さて、改めて先ほどのパッケージを見ると「ダーキー」と「ダーリー」の2種類がある。
darkie(またはdarky)とはもともとイギリス、アメリカ、カナダでは黒人に対する差別的な言葉だったから、この製品名には批判が上がって1989年に「DARLIE」へ変更された。
いまではこの「黒人歯磨き粉」は台湾、中国、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナム、タイでは問題視されないから販売されているけど、それ以外では売らないと会社側は明言している。
the brand continued to be sold in several Asian countries, including Taiwan, China, Indonesia, Malaysia, Singapore, Vietnam and Thailand where its brand and logo were not considered offensive. Colgate-Palmolive announced the brand would not be sold outside of Asia.
アメリカ人やヨーロッパ人の人権感覚ではこんな歯磨き粉は絶対にダメということだから、これは名誉なことではない。
この歯磨き粉には興味があるけど、正直日本がこのゾーンに入っていなくてよかったと思う。
でも時代は動いている。
最近アメリカのミネソタ州で、黒人男性が白人警官に膝で首を圧迫されて死亡した事件が起きたことがきっかけで、いま全世界的に人種差別への批判が強まっているのだ。
「黒人歯磨き粉」の販売元のコルゲートはイギリスBBCの取材にこう話す。(2020年06月19日)
「我々は35年以上にわたり、名称やパッケージの大幅な変更を含め、同ブランドを進化させるために連携してきた。現在我々のパートナーと共に、名称を含む同ブランドのあらゆる側面を見直し、さらに進化させるよう取り組んでいる」
「黒人歯磨き粉」の中国語名とロゴを見直し 米日用品大手
このニュースに日本のネットの反応は賛否両論。でも「賛成」がやや多い。
・歯を白くするのは構わんのか?
・「Black Blackガム」と「White&White歯磨き粉」のピンチ!
・昭和の夏祭りはくろんぼコンテストがあってほのぼのしてた
・ブラックコーヒーはどうなるんです?
・ググってみたけどガチで黒人牙膏だった
・黒人は歯が白くて美歯的な由来だと思ったら
思いっ切り差別由来って酷いw
・これ好きなんだよなー
・黒人歯磨き粉ってwww
ネーミングセンスが酷過ぎるw
・タイやマレーシアで自分用やお土産用(ミニサイズ)によく買って使っていたのに(´・ω・`)
イギリスではいまビール醸造所や保険組合、金融機関など多くの企業が、数世紀前の奴隷貿易とのつながりを認めるよう圧力を受けている。
国際化のいま、台湾や中国、東南アジアもこの流れと無縁ではいられない。
まあこの商品が普通に並べられていて、違和感をおぼえない感覚もヤバイと思うけど。
国によって価値観は変わるけれど、人権意識は世界的には欧米基準に近づいている。例えば日本のテレビ番組で、顔を黒く塗る「ブッラクフェイス」の演出はもうあり得ない。
「黒人歯磨き粉」については、アジアでもこれまでに批判はあったらしいのだけど、ほぼ「無風」状態で社会的に認められてきた。
でも、もうすぐその市民権は奪われるかもしれない。
といっても、パッケージデザインが変わるだけで中身はそのままだろうけど。
店頭に並んではないけど、日本でもネットで普通に売っている。
緑茶成分配合もあるようだ。
「黒人」に対して欧米とアジアで見方が違うのは、背負っている歴史がまったく違うから。
例えばベルギーは植民地支配していたアフリカのコンゴで、労働者にゴムの収穫のノルマを課し、それが達成できなかったら家族の手を切り落としていた。
以下、閲覧注意の画像がでてきますよ。
ゴムの収穫が少なかった罰として、切り落とされた5歳の娘の手と足を見つめる父親。
欧米社会がいま黒人に配慮するのは、過去にとんでもなくヒドイことをしたから。
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>といっても、パッケージデザインが変わるだけで中身はそのままだろうけど。
それと、商品名が(多少は)変わるでしょうね。
それで十分なのです。なぜなら、パッケージデザインと商品名:darkie(=黒っぽいやつ)こそが問題なのですから。中身は問題ありません。
そういや、童話の「ちびくろさんぼ」って今はどうなったんでしょう? 大きなトラたちが、互いの尻尾を追いかけてヤシの木をぐるぐる回っているうちにバターになってしまうなんて、シュールですよね。発想が素晴らしい。
「ちびくろさんぼ」はもう見かけないですね。
あれも黒人差別で消えたという話は聞きましたが。
内容は良かったのに残念です。
アジアでの白人による植民地支配だって、アフリカ並みまたはそれ以下でしたよ。しかもアフリカからの奴隷貿易をやめた理由の一つが「アジアで広範囲の植民地と奴隷が手に入ったから」ですから。ベルギーのコンゴ統治について書かれていますけど、英国も自国の高額な織機を植民地に押し売りするために、3000〜1万人とも言われるインド人の職工たちの腕を切り落としました。ガンジーの肖像画に糸車が描かれているのはそういう理由です。英領の他にも、オランダ統治時代のインドネシア、スペインとアメリカがフィリピンで何をしたか、フランス領インドシナや英領オセアニアで何が起きたかなどを知ると、今、あたかも日本だけがアジア全土を勝手に侵略したかのようにほざいてる横っ面を引っ叩きたくなります。
>3000〜1万人とも言われるインド人の職工たちの腕を切り落としました。
私もこのことを書こうと思っています。
これはベンガル人に対する行為と言われ、東インドの人やバングラデシュ人から聞いたことがあります。
でもネットでは伝聞が多く、これを裏付ける根拠が見つかりません。
もしご存知でしたら教えてください。