「Chinese」をどうする?国際化で日本人に必要な知識・配慮

 

全国どこに行っても同じ人間ばっか。
という日本と比べると、アメリカ社会は複雑でヤヤコシイ。
人口の95%以上が日本人という世界的にも同質性の高い国と違って、世界中からやって来た人たちで構成されるアメリカには、白人・黒人・アジア人・ヒスパニックといろいろな人間がいる。
だから年末の「Merry Christmas!」のあいさつも、相手がキリスト教徒とは限らないから、最近では「Happy holidays!」と言う場面が増えてきた。

ニューヨーク出身のアメリカ人に聞くと、テレビやラジオなどで不特定多数に向かってあいさつをするなら、「Happy holidays」がもはや当たり前。
でも、キリスト教徒や知人には「Merry Christmas」とあいさつする。
イスラム教徒やユダヤ教徒よりも、無神論者の方が「Merry Christmas!」を嫌うという話を聞いたことがある。
相手の宗教や価値観によって、お祝いのあいさつを使い分けるというのは日本にはない多様性だ。
ただこのへんはアメリカ国内でも地域によって事情は違い、ジョージア州に住んでいるアメリカ人は「Happy holidays」なんてほとんど聞かないという。

多民族国家ってホント面倒くさい。「メリークリスマス」一択のシンプルな日本でよかった。
……そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
でも国際化のいま、もうそんなことは言ってられない。

 

さて、ここからの話は東アジアだ。
東アジアの中で天上天下唯我独尊、「栄光ある孤立」(Splendid Isolation)をキープする日本と違って、中国・韓国・ベトナムなどでは2月1日から正月が始まった。
中国語では「春节(春節)」で、日本では江戸時代まで同じ暦で祝っていたから、いまでは日本人の間では「旧正月」と表現されている。

めでたい正月がスタートしたことを祝して、岸田首相が「2022年春節祝辞」を公開した。
でもチョット後悔したかも。
というのは、最後のひと言に中国人から不満の声があがったから。

寅年の本年が皆様にとって、力強い生命力に溢れ、向上するよき年となりますように。
Happy Lunar New Year!」

前半部分は無問題として、岸田首相は「Chinese New Year」ではなく、太陰暦の「Lunar New Year」という言葉をチョイス。
これに対して、「なんで Chinese New Year にしなかったんだ?」、「Happy Chinese New Year とすべきだ」といった中国人からの不満の声がSNSであがったという。
レコードチャイナの記事(2022年2月1日 )

岸田文雄首相の春節のあいさつに中国人不満=「脱中国化か」「これが日本人の話術」

中国人としては「中国」をカットされたわけだから、文句を言いたくなるのも分かる。
かといって、これで「Chinese」を入れると、きっと今度は別のところから批判が飛んでくる。
韓国やベトナムも正月は同じだから、「Chinese New Year」ではなくて「Lunar New Year」を使うべき!という声が韓国にあって、最近も名物教授が吠えた。

【韓国 vs 中国】正月の呼び方をめぐり、あの教授が怒りの提言

知人の韓国人とベトナム人は「Chinese」ではなくて、「(Lunar) New Year」とあいさつをしていたから、この2か国の人に英語でお祝いのあいさつをするのなら、この表現を使った方が吉。
岸田首相もこうした人たちの心情に配慮して、あのあいさつにしたはずだ。
「Chinese」を入れても抜いても、どっかから批判がくるだろうし、もう誰にもあいさつをしないか、叩かれるのを覚悟するしかない。

 

 

同じイベントでも、相手によってお祝いの言葉を変えるというのはめんどくさし。
でも国際化のいま日本人も、「Merry Christmas」か「Happy holidays」かはいいとして、「Chinese」か「Lunar」かぐらいは、相手によって使い分けるような知識や配慮はあった方がいい。
国内に住む外国人の数は急増していて、日本は「栄光ある孤立」から多様性へ進んでいるのだから。

でも、アメリカ社会ほど面倒くさいことには、21世紀中にはならないと思われる。

クリスマスのあいさつについて、まえにニューヨークのアメリカ人に聞いたらこんな返事がきた。

「it is considerate to say happy holidays if you think they might not celebrate christmas. Here we have Christmas, Hanukkah, Kwanzaa, and Ramadan.」

クリスマスを祝わない人もいるから、「ハッピーホリデーズ」と言った方が配慮がある。
アメリカにはクリスマス、ハヌカ、クワンザ、それにラマダンがあるのだから。

ハヌカ(Hanukkah)はユダヤ教徒、ラマダン(Ramadan)はイスラム教徒、クワンザ(Kwanzaa)は黒人(アフリカ系アメリカ人)にとって大事な行事のこと。

日本社会がここまで宗教や人種の「ごちゃ混ぜ状態」になることは、21世紀中にはないでしょ。
でも、2020年のデータでは日本にいる外国人のうち、中国人が27.8%、韓国・朝鮮人が15.6%、ベトナム人が13.4%とこのトップ3で約57%を占めているから、単純に日本人ならまずは東アジアの価値観や文化を知っておくことが大事だ。

 

そういえば、台湾人は「Happy Lunar New Year!」についてどう思っているのか?
やっぱり不満か?
と思って反応を調べてみたら、台湾人は岸田首相のメッセージに歓喜していた。

台湾と中国では漢字が違って、中国では台湾の漢字を簡略化したものを使っている。
たとえば日本語の「広」が台湾では「廣」で中国では「广」になる。
同じように「楽」は台湾では「樂」で中国では「乐」、「経」は「經」と「经」になる。
これまで日本の首相は中国の漢字、簡体字で春節の祝辞を書いていたけど、岸田首相は今回初めて繫体字でお祝いのメッセージを書いた。

「新春佳節,祝各位虎福安康、虎躍新程。Happy Lunar New Year!」(台湾)
「衷心祝福大家春来万木荣,虎年今胜昔。春节快乐。Happy Lunar New Year!」(中国)

台湾人がこれを見たら、中国と台湾を分けた岸田首相の意図は秒で分かる。この配慮を知れば当然、ハッピーな気分になる。
「Chinese」の有無より、繫体字(台湾の漢字)を使ってくれたことの方が大きい。
これはそれぞれの集団の文化や価値観について学び、それなりの知識を得て初めてできることで、底なしの慈悲や思いやりの心があるだけでは無理。
うん、日本はやっぱリ国際化、多文化共生社会に向かっていろいろと変化している。

 

 

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2 件のコメント

  • > でも国際化のいま日本人も、「Merry Christmas」か「Happy holidays」かはいいとして、「Chinese」か「Lunar」かぐらいは、相手によって使い分けるような知識や配慮はあった方がいい。

    その「相手」とは、世界中で韓国人だけですよね?

    > 台湾人がこれを見たら、中国と台湾を分けた岸田首相の意図は秒で分かる。この配慮を知れば当然、ハッピーな気分になる。(改行)「Chinese」の有無より、繫体字(台湾の漢字)を使ってくれたことの方が大きい。

    これに加えて「Chinese」が入っていたなら、おそらく台湾人はもっと喜んだことでしょうね。

  • >その「相手」とは、世界中で韓国人だけですよね?
    ベトナム人もそうですし、ほかにもいるかもしれません。

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    今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。