【本地垂迹】フランス人が感心した、日本人の伝統的な信仰

日本とフランスの歴史で大きな違いといえば、宗教戦争があったかどうか。
日本でも６世紀に、神道を支持する物部氏と仏教を推す蘇我氏との間で争いがあったし、宗教をめぐる戦いがなかったわけではない。

でも、その程度のものはフランスの歴史からみれば、お花畑でミツバチに刺されたレベル。
同じ神を信じる者どうし、キリスト教のカトリック信者とプロテスタント（ユグノー）が約40年間も争い続けるユグノー戦争や、万単位の死者を出したといわれる「サン・バルテルミの虐殺」が起きたりして、フランスでは神の名の下に本当に多くの血が流された。

【フランスの宗教対立】戦争＆虐殺を終わらせたナントの勅令

フランス社会で政治から宗教を切り離す「政経分離」の原則（ライシテ）がとられているのも、こんな宗教をめぐる激しい争いがあったからだろう。
こんな国からやって来た人は、日本人の信仰スタイルを見てどう思うか。

日本の大学を卒業して、そのまま日本で就職したフランス人とメールをやり取りをしていた時、彼女は日本で特に驚いたととして「独特の宗教心」を挙げた。
自身は無宗教というそのフランス人がくれたメッセージがこれ。

「日本の文化に触れあいはじめたときは神道と日本仏教の区別をつけることが難しかったです。
なんで羽黒山のように神社が据わっているところに五重塔があるか。なんで鳥居のあるお寺があるか。紛らわしかったです。
最初は私がただ知識不足だと思ったんですが、最近神仏習合のことを知り、神道と日本仏教が区別しにくいのはおかしくないと分かりました。
仏教と神道が共存していたことが素晴らしいと思います。
二つの宗教が融合したというのは他にないでしょう。」

カトリックとユグノー（プロテスタント）が何十年もの間、殺し合いを続けていて、どうしようもなくなって、和解のため両派の有力者を政略結婚させることにした。そしたら、それに反対したカトリック側が襲いかかって、全土でユグノーが虐殺されたという絶望的な闇歴史がフランスにはある。
100年ほど前にも、ユダヤ教徒を差別するドレフュス事件が起きた。

フランスのユダヤ人差別、今と昔。ドレフュス事件とテロ/放火。

フランスの歴史では異なる宗教が対立することはあっても、交わったという話は聞いたことがない。
そんな国から来た人からすると、インド生まれの外来宗教の仏教と日本固有の神道が、区別しにくいほど一体化している「神仏習合」という日本人の信仰を理解するのは本当にむずかしいだろう。

ここはお寺なのに、神道のしめ飾りをしている。
こんな日本のフツウを異常と感じる外国人もいる。

神社があるところに、なんで五重塔があるのか。
なんで鳥居のあるお寺があるのか。

フランス人をそんなふうに混乱させた原因に、「本地垂迹」（ほんじすいじゃく）という日本独特の考え方がある。
神の本地（本来の姿）は仏で、仏が日本人を救うために神の姿となって日本に現れた（垂迹した）というのが本地垂迹論で、これによって神仏習合思想が発展していった。
この始まりは奈良か平安時代にあって、鎌倉時代から盛んになっていく。
「本地垂迹」の考え方にしたがえば、神道の神々は実はさまざまな菩薩や仏の化身で両者はまったく同じものだから、一方を排除する必要がなく、それぞれを同時に崇拝することができる。

本地垂迹の具体例として、例えばこんなものがある。

天照大御神（アマテラス）=大日如来
八幡神=阿弥陀如来
大国主神=大黒天
伊弉諾尊（イザナギ）=釈迦如来、阿弥陀如来
伊弉美尊（イザナミ）=千手観音

こういう神仏習合の発想がなかったフランスでは大宗教戦争が起きて、同じ国の人間どうしが殺し合って国土は荒廃した。
こんな歴史のあるフランス人が日本人の信仰を知って、「神道と日本仏教の区別をつけることが難しかったです」と思うのは当たり前。でも、そこから理解を進めていくと、「仏教と神道が共存していたことが素晴らしいと思います。二つの宗教が融合したというのは他にないでしょう」と分かる。