【台湾の上級国民】天龍国に住む天龍人ってどんな人?

 

静岡県の浜松市と磐田市は天竜川で区切られている。
それについて以前、日本語を勉強しているアメリカ人から、「その漢字を英語にしたら、どんな意味になるんだ?」と聞かれ、「スカイ・ドラゴン・リバー」って答えたら、「マジか!カッコイイな。なんでそんな名前の川になったんだ?」と突っ込まれて面倒くさくなった。

天竜川の「竜」には次の2つの説がある。

・水の流れが速いこの川は、竜が天に昇っていくように見えるから。
・天竜川の源である諏訪湖の近くに諏訪大社があって、そこで祭られている竜神から取った。

とにかく「竜(ドラゴン)」は外国人も食いつくパワーワードのようだ。

 

 

ことしのゴールデンウイーク中、台中出身の3人の台湾人とドライブをしていて、道路の案内標識で「天竜川」を見つけた1人がこんなことを言う。

「そういえば台湾には『天龍(竜)国』があるんです。そんなことを聞いたことありますか?」

天龍の国?
それは初耳だったけど、何となく台北のことかと思ってそう言ったら、「正解です」と。

台北と日本の縁は深い。
1895年に日本の台湾統治が始まり、台北に総督府がつくられたことから、近代都市としての台北の歴史が始まった。
初代民政長官の後藤新平は、市街を取り囲む清朝時代の城壁を取り払って街路を建設し、上下水道を整備するなどして都市建設を進めていく。
1901年の台風で建物が大ダメージを受けると、それまでの中国式建築の代わりに、レンガや石造りの官庁・学校・会社が建てられて現在の台北市の「原形」ができた。

 

台湾の政治、経済、文化の中心である台北は圧倒的な存在感を誇っている。
台北に住んでいる人たちもそれを誇りに思うところがあって、他の台湾人からは上から目線、鼻持ちならないように見えることもある。
台中出身の知人が、「台北人は台北を特別な都市と思っていて、エラそうなところがあるんです。」と言うと、「そうそう。ほかの台湾人を下に見てますネ。」と他の台中人も同意する。
天龍国に住む台北人は「天龍人」と呼ばれているという。
だから、それは日本のネットスラングの「上級国民」と同じようなものかと聞くと、「まさにそれです!」と3人が食いつく。

*このときはボクは「上級国民」と言ったけど、これは住んでる地域は関係ないから、「シロガネーゼ」の方が天龍人のニュアンスに近いかも。

とはいえ彼らには、とてもフレンドリーで性格の良い台北人の友人がいる。
だから個人は別として、台北人を全体的に「天龍人」と言うらしい。

この元ネタは『ONE PIECE』に出てくる、特権階級の「天龍人」が暮らす「天龍国」だ。
台北は基本的に家賃や給料が高いから、「天龍人」には数ランク上のお金持ちやエリートといった意味がある。
日本語版ウィキペデアにも項目がつくられているから、それなりに日本でも知られている。

台湾における政商や支配階級、あるいは台北に居住し、かつ苦労知らずな人間を揶揄する意味合いで使われる。今ではネットユーザーにとどまらず、台湾メディアも頻繁にこの用語を報道で使用するようになった。

天龍人 (ネット用語)

 

そんなコトを聞いて、まえに友人の台北人から聞いた話を思い出す。
「日本は47の都道府県に分かれているんだが、台湾はいくつ?」って聞くと、「2つです。台北と”それ以外”です」と言って台北人が笑い出すから、なんか違和感を感じた。
そんな話を3人の台中人にしたら、しなきゃよかった。

「そうなんです!それが台北人です。自分たちを別格の存在と考えて、ほかをニヤニヤして見下す」

と非難ごうごうに。
その台北人は心優しい女性だから、そう言われると心苦しい。
でもまあ、「天龍人」と呼ばれる理由は分かった。
ちなみに中国人にこの話をしたら、中国にも「上海人(天龍人)」と「外地人(それ以外)」と似たような表現があると言う。

 

ではその天龍人は、そう呼ばれることをどう思っているのか?
後日、台北人に聞くと、まず台北の中でもランクがあって、彼女の住む「天母」という地区は高級住宅街で「ここは天龍国の中の天龍国です」とのたまう。

「天母」は高級デパートに各国大使館、日本人学校やアメリカンスクールがあるところで外国人がたくさんいるらしい。
日本でいうなら東京の港区?
たしかにここは別格のようで、「天母国」という言葉もある。

ちなみに「天母」の名前は、日本統治時代に神道系の「天母教」の本拠地である天母神社に由来するという。
天母とは日本と台湾の女神、天照大神と媽祖のことだとか。

以下、その天龍人から聞いた話。

台北が天龍国、自分たちが天龍人と言われていることはもちろん知っている。
ジョークというのは分かるけど、そう言われて気分は良くない。
でも実際、台北人の中には特別意識を持っている人がいるから、ほかの地域の人がそう揶揄したくなる気持ちも分かる。
ただ現実的に台北は、台湾のそれ以外の都市よりも段ちがいに発展していて、夜市やデパートの数は比較にならない。
それに人もちがう。
自分がよく行く台南では人々の歩くスピードが遅いし、価値観や考え方もちがうから、話す話題に困ることが多い。
それに台南ではノーヘルでバイクに乗ったり、信号を無視する人が多くてアブナイ。
台北に比べて全体的にルーズでルールを守らないから、見ていて腹立つこともある。

 

台湾が「台北(天龍国)とその他大勢」の2つに分けられるというのも、歴史をたどると、日本統治時代に行きつくと思う。
ただ呼び方が違うだけで、こんなヒエラルキーはきっとどの社会にもある。

 

天龍国の中の天龍国・天母

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。