以前、日本に住んでいて、いまは『音楽隊』で有名なブレーメンにいるドイツ人と、スカイプを使ってこのまえの日曜日に話をした。
にしても21世紀ってホントすごい。
その時彼は最近、日本を改めて素晴らしいところだったと実感するコトがあったと言う。
それは何なのか?
10月に日本へやってくる予定の彼はビザの申請をするために、日本総領事館のあるハンブルグへ行ってきた。
そこまでの時間はブレーメンから電車で1時間チョットだとか。
というと浜松~静岡間と同じぐらいの時間で、運賃は1340円(新幹線:2330円)になるんだが、ドイツではいくらになるのか?
それを聞いて、返ってきた答えは衝撃的だった。
いまドイツでは約1250円で1か月間、電車、地下鉄、バス、フェリーなどを好きなだけ乗ることのできる「9ユーロチケット」を販売中だ。
日本の新幹線に相当する「ICE」には乗れないといった少しの制限はあるものの、浜松~静岡の運賃以下で、基本的にドイツ全土の公共交通機関が乗り放題になる。
「青春18きっぷ」のお得感を木っ端みじんに吹き飛ばす破壊力。
ドイツはウクライナ戦争のせいで、物価が爆上がりするとかいろんな負の影響を受けたから、国民の負担を減らすために6~9月の3か月限定でこのチケットを売り出すことにしたらしい。
政府としては、いまは国民の自動車利用を減らしたい。
もちろんこれは、政府がとんでもないの額の補助金を出しているからで、当然そのツケはいつか国民に返ってくる。
ドイツのどっかの鉄道駅
この魔法のようなチケットが登場したことで、ドイツではこのところ電車に乗る人が一気に増えた。
そのことで彼は、日本人のマナーや周囲への気づかい、自制心の高さを改めて知ることになったという。
ブレーメンからハンブルグまで電車で移動する間、大声で会話をする人に笑い声、携帯電話で話す人、イヤホンから漏れるほど大きな音で音楽を聴く人がいて、とにかくいつも車内がやかましかった。
そんなことはまえに、9ユーロチケットで移動した時に体験済みだ。
その時ホントに気分が悪くなったから、彼は周囲の騒音を消せるノイズキャンセリング機能のついたイヤホンを買って、今回はそれで騒々しさから逃れることができた。
電車が駅に着いて、乗客が乗り降りする時もムゴイ。
ドアが開くと乗客がわれ先に乗り込もうとするから、電車から降りる人とぶつかって「オイっ!」という怒鳴り声も聞こえた。
電車が駅に到着するたびにこんな騒ぎになるから、結果的に電車の到着時間も遅れてしまう。
”騒ぎ”というのは彼の感想で、きっと一般のドイツ人は特別なことは感じない。
旅行好きの彼には、電車や地下鉄に乗って日本各地を移動した経験がある。
日本人は周りの人に配慮して行動するから、車内はいつも静かで、彼はリラックスして過ごすことができた。
このドイツ人にとってあの静寂空間には、他者への敬意や自制心など日本人のイイトコロが全部詰まっている
電車が駅に着くと、キレイに分かれた2列の間を乗客が降りていく。
そんな秩序やマナーを彼は今回の移動で見ることができなかった。
*降りる人を優先し、乗る人は左右に分かれて待つ日本人の様子を見て、「モーゼの奇跡のようだ」と感心したイギリス人もいる。
ノイズキャンセリングで雑音は消せても、駅で降りる時に、突進してくる客と肩がぶつかることは避けられない。
復路もこれと同じだ。
彼がブレーメン~ハンブルグの移動で感じた不愉快は、日本では一度も感じたことの無いもの。
「マジカルチケット」のおかげで、このところ彼は電車を利用する機会が増えた。
するとそのたびに、あの静かで平和的で、この上なく快適な空間をいつもなつかしく思い出すという。
でも日本人なら、1か月1250円で電車もバスも地下鉄もフェリーも乗り放題だったら、どんなやかましさにも耐えると思う。
格安チケットと極上の空間なんてこの世にはないのだ。
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