21世紀の先進国で、2013年までG8(主要8ヶ国首脳会議)に参加していたロシアから、こんな言葉が飛び出すは思わなかった。
米CNNニュース(2022.09.27)
ウクライナで戦死のロシア兵、「全ての罪を洗い流される」 キリル総主教
無宗教主義の旧ソビエト政府によって、多くの聖職者や信徒が殺害され、聖堂は破壊されて大ダメージを受けたロシア正教会。
でもソ連が崩壊すると、破壊された聖堂が再建されるなど、ロシア国民を精神的に支える存在として勢力を伸ばしてきた。
社会に強い影響力を持っているロシア正教会のトップはプーチン大統領の思想に近く、ウクライナ戦争での決断に正当性を与えている。
プーチン大統領とは持ちつ持たれつの関係で、”タッグ”を組んでいると言っていい。
そんなキリル総主教が「ウクライナとの戦争で死亡したロシア兵は全ての罪を清められる」と発言した。
天命に従って自分の“義務”を行なう人は、たとえその中で命を落としたとしても、それは他人のために自分を犠牲にしたのだから、その尊い行為によって全ての罪が洗い流されるという。
21世紀の先進国で、そんなコトを言って国民を戦場へ向かわせようとするから、世界的なニュースになった。
最近、プーチン大統領が国民の「部分的動員(徴兵)」を発表すると、国民は大反発し、それから逃れるために「腕折る方法」の検索が急増したり、ロシアから脱出する人で国境では大渋が発生している。
キリル総主教は神の名を利用して、「プーチンの戦争」を支援しているだけでしかない。
数百年前のヨーロッパならそんなことはあった。
ローマ教皇や聖職者が神のための戦いで死ぬことは立派な行為で、そんな名誉ある死を迎えた者には天国が約束されていると説く。
すると、熱心なキリスト教徒がその言葉を信じて一心に戦う。
いまのロシアでは後半部分が違って、絶望からの脱出が始まっている。
現代でもイスラム過激派が「神のために全力で努力する」という意味のアラビア語「ジハード」を異教徒と戦う“聖戦”として宣伝し、自爆テロをしたりさせたりすることがある。
ジハードで死ぬと尊い殉教者になるから、必ず天国にいくことができるが、もしこれに背を向けると神の怒りを受けて地獄へ行く。
そんなコトを言って、イスラム過激派は無実の人を巻き込んで地獄を生み出す。
13世紀の十字軍でも教皇グレゴリウス9世が、戦いに消極的に見えた神聖ローマ皇帝フリードリヒ2世を罰として破門した。
「神がそれを望んでおられる」とか言って、自分の意のままに他人を動かそうとするのは詐欺師詐と変わらない。
日本なら戦国時代の一向宗でそんな考え方があった。
弥陀如来の本願にすがって、一心に極楽往生を信じることを教義とする一向宗には熱心な信徒が多く、彼らが一致団結して領主に抵抗する一向一揆を起こす。(一向一揆)
*一向とは「ひたすら」、「一筋」の意。つまり弥陀如来しか眼中にない。
十字軍のキリスト教徒とメンタリティーは変わらない。
「進者往生極楽 退者無間地獄」
戦いで前進して死んでも極楽に往生し、退けば無間地獄に落ちる。
そんな言葉を旗に掲げて、一向宗の信徒は死を恐れず戦ったという。
この現物は広島の長善寺にあって、「長善寺見学記 – 広島大学」で見ることができる。
石山合戦で織田信長が10年戦っても倒せなかった(和議に持ち込んだ)ほど、一向宗が強かったのは、とてつもない強固な戦意を持っていたからだ。
三河一向一揆
三河の一向一揆では、祖父や父が仕えていた徳川家を裏切って本多 正信(まさのぶ)が反旗を翻したことに、家康は大きな衝撃を受けた。
主君への忠誠より強い信仰というのは、戦国大名にとってはある意味もっとも倒しずらい敵。
家康側もこの戦いで、信仰には信仰で対抗する。
上の絵に「欣求浄土(ごんぐじょうど)」の文字が見える。
これは「厭離穢土 (おんりえど)」とセットで、汚い(穢い)国土から離れて(死んで)浄土(天国)を求めるという意味になる。
「厭離穢土 欣求浄土」の旗が勇気を与え、家康側が三河一向一揆に勝利したという記録がある。
この言葉は徳川家康の馬印に使われたことでも有名。
「厭離穢土欣求浄土」の旗
主に剣や弓などで戦っていた時代なら、死を恐れない気持ちは戦いに勝利する大きな要因になった。
でも戦闘機による空爆や、GPSを使って数十キロ離れたところにミサイル攻撃をする21世紀の戦闘では、武器が高性能になった分、戦意はあまり意味が無くなった。
そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
でもいまのウクライナ戦争を見ていると、死を恐れない気持ちや高い戦意は相変わらず大事な要素になっている。
それか、信仰を利用しないといけないところまで、プーチン大統領は追い詰められているのか。
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