きょうは12月23日だから、あしたはクリスマスイブ。
まえに日本人と付き合っているヴィーガン(完全菜食主義者)のイギリス人女性から、変わったクリスマスの過ごし方をしているという話を聞いた。
そのイギリス人は一切の肉類を口にしないが、パートナーは日本の伝統である「クリスマスにはフライドチキン」を譲ることはできない。
それでテーブルに向かい合って座って、彼女はヴィーガン料理、彼氏はフライドチキンを食べてクリスマスの夜を過ごすという。
お互いに相手と自分は対等で、それぞれの見方を尊重しないといけないと思えば、違いはそのまま受け入れるしかない。
間違っているのは、どちらかの価値観に合わせること。
これをすると上下優劣が出てきて、主従関係のようになってしまうから、友人や恋人として一緒にいることは不可能になる。
さてクリスマスの直前、12月21日に韓国で映画『英雄』が公開されたらしい。
韓国で「ヒーロー」といえば、朝鮮出兵で日本軍と戦った李舜臣か、元首相の伊藤博文を暗殺した安重根がツートップ。
この映画は国を思って、朝鮮の植民地支配と侵略の元凶である伊藤博文を射殺した独立運動家・安重根をテーマにしている。
もちろんこれは韓国目線で、歴史認識において日韓は「鏡の国」で上下左右が反対になるから、日本で安重根は英雄ではなく、要人を暗殺して処刑されたテロリストだ。
この見解の違いがぶつかると、激しい火花が飛ぶ。
2014年に当時の菅官房長官が安重根について、日本の立場から言えば犯罪者でありテロリストだと話すと、韓国政府は「安重根義士を犯罪者として卑下する発言をした」、「常識以下の言動」と強く反発した。
中央日報(2014.03.31)
日本の官房長官「安重根は犯罪者」…韓国政府「伊藤博文こそ侵略の元凶」
ただ韓国もときどき迷走する。
テロ予防のポスターとして、安重根の手形と「STOP! テロ!」の文字を載せた韓国警察は正気だったのか?
当然市民から批判が殺到して、警察はジャンピング土下座した。
朝鮮日報(2017/02/13)
安重根をテロリスト扱い? 韓国警察のポスターに非難殺到
こういう認識をしている人たちが、こんなニューズウィーク誌の記事を見るときっと大爆発する。(2013年11月19日)
テロリストを英雄として賞賛することも先進国では考えられないが、暗殺事件から100年以上たって記念碑を建てようと他国に提案する大統領も普通ではない。
テロリストを英雄に仕立てる韓国の幼児的ナショナリズム
とにかく「安重根と伊藤博文」は日本人と韓国人にとって、とても敏感な案件で国民感情を熱くさせるから、取り扱いには厳重注意を要する。
別の映画で、日本でも人気だった韓国の俳優が安重根を演じた後、日本からの仕事の依頼が消えてしまった。
韓国からすると安重根による暗殺は、愛国心から生まれた正義の行為(義挙)という見方が一般的だが、日本を意識すると不安は隠せない。
スポーツソウルの記事(2022年12月21日)
新たな日韓の“火種”にならないことを…伊藤博文を襲撃した安重根が主人公の映画『英雄』はどんな作品か
伊藤博文や日本を空前絶後の悪者にするといったムゴイ演出でもない限り、この映画によって日韓の対立がさらに深まるとは個人的には思わない。
でも、やっぱり安重根が放った一発には、日韓関係を悪化させる威力があるからハラハラする人は多いらしい。
韓国で安重根は「英雄」でも、日本の立場からすれば「幼児的ナショナリズム」は言い過ぎとしても、「テロリスト」になるのは仕方ない。
同じ時代にイギリスの要人を暗殺したインド人がいたら、間違いなくテロリストと認識される。
「常識以下の言動」と怒る韓国政府も、「朝鮮侵略の元凶である伊藤博文を射殺した安重根義士は英雄である」と日本政府が言えば、一体何がどうなっているのか分からず困惑するはずだ。
「今日は4月1日だったっけ?」と大統領がカレンダーを確認するかも。
安重根を日韓の“火種”にさせないためには、ヴィーガンの人とチキンを食べる人が同じテーブルで食事をするように、お互いを対等な立場と認めて尊重し、違いを受け入れるしかない。
それがイヤなら、クリスマスは一人で過ごすことになる。
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