日本と中国のメデタイ漢字文化・「鏡餅にミカン」の理由

 

知人の台湾人(20代・女性)が日本へ旅行にやってきて、伊豆にまで足を運んでくれたから、浜松から車を飛ばして修善寺を案内したった。
彼女と一緒にいて「さすが漢字の民!」と感心したのは、お寺にあったこういう漢字を見てすぐに意味が分かったこと。

 

インド人やアメリカ人に「なんて書いてあるんだ?意味を教えてほしい」と言われると、死んだフリをするしかない。

 

修善寺を見て回っていた台湾人が「これは何ですか?」と、不思議そうな顔をしてフクロウのお守りを指さす。
フクロウは縁起の良い生き物だからと言っても、なんでこの鳥がラッキーなのか彼女には分からない。
スマホの画面で「不苦労」という漢字を見せると、「なるほど、そういうことですか!」と瞬時に理解して笑顔を見せる。
(この台湾人は日本語ができる。)
台湾人、中国人、香港人はもちろんとして、中国系のマレーシア人やシンガポール人など中華圏で生まれ育った外国人だと、漢字を見せるとすぐに理解してくれるからとってもラク。
でも、これがインド人やアメリカ人相手だと英語で伝えないといけないから、原因不明の腹痛を訴えて誤魔化すしかない。
それに「フクロウ≒不苦労」のニュアンスは、漢字を理解しない人にはきっと正確に伝わらない。

 

さて今日は1月4日だから、次の正月はあと361日後だ。ワクワク。
日本人にとってお正月で一番大事なことは、一年の幸運を運んでくれる年神さまをむかえること。
玄関にしめ飾りをしておけば、「そこか了解!」と年神さまが家に来てくれるけど、家の中に居場所がないときっと神さまは困って、下手したら幸運を授けることなく家から出ていってしまう。
そこで、年神さまの「依り代」である鏡餅が必要になるワケだ。

【日本の正月文化】お餅が神聖であるワケ・鏡開きの目的

 

 

紅で縁取った色紙の「四方紅」(しほうべに)は鏡餅をのせるためのもので、これで災いを払い、一年の繁栄を願うという意味がある。
ほかにも「昆布」(喜ぶの語呂合わせ)や、海老(腰が曲がるまでの長寿を願う)などがあって、鏡餅は日本のメデタイものの集合体となっているのだ。
いまでは昆布や海老の無いシンプルな鏡餅もあって、一般家庭の主流はこれだろうけど、それでもテッペンにのってる「みかん」は絶対に欠かせない。
でもこれは、本来はミカンと同じ柑橘類に属する「ダイダイ(橙)」という果物で、とても酸っぱいから食用ではなくて、鏡餅にのせる正月飾りとして使われることが多かった。

で、なぜダイダイなのか?
それは「代々」だからさ。
橙の実は地面に落ちないし、同じ木に新しい実をドンドンつけていくことから、「家系が代々、繁栄しますように」という願いが込められている。
つまり、橙(ダイダイ)を代々に引っかけたダジャレ的な発想で、昆布や海老は無くても、これだけは無くてはならない鏡餅のマストアイテムとなっている。
家族が代々栄えるというのは、日本人にとって最も切実な願いだったらしい。

 

「でもね、鏡餅の起源は中国にあるんですよ。日本文化のルーツをたどると、ぜ~んぶ中国文化にいきつきます」

むかし中国を旅行したとき、こう豪語する日本語ガイドがいやがりました。
といってもその中国人に悪意はゼロで、心に思ったことをそのまま言葉にしたのだろうけど、金を払ってこんなことを言われた日には正直イラっとくるわ。
確かにひな祭りや月見のように中国に由来する日本文化もあるが、相撲や神道など日本で生まれた文化もあるからこの説は間違っている。
この中国人の主張によると、中国にも昔から、正月にミカンやオレンジなどを食べる習慣があるから、鏡餅の起源は中国にある。

その理由について、中国旅行(Arachina)のホームページにこう書いてある。

中国語でみかん・オレンジは「橙 (chéng)」や「桔(jú)」と書き、その発音が「成(chéng)」と「吉(jí)」という文字と似ている

春節の食べ物:中国の旧正月に欠かせない幸運な食べ物7選

 

成功や幸運につながって縁起が良いから、中国人は正月にみかんやオレンジを食べたり、飾ったりするという。
こうした果物は丸くて”金色”をしているから、豊かさや成功を意味するという指摘もアリ。
このことと、昔の中国人は正月に餅を食べていたことを挙げて、「日本の鏡餅は中国が起源」説をガイドは唱えていた

でも実際のところ、この真偽は分からない。
『源氏物語』に鏡餅が登場するから、平安時代にはすでにあったことは分かっているけど、日本で鏡餅がどのようにして誕生したかはナゾ。
中国の影響があった可能性はあるとしても、根拠が無いのに「鏡餅の起源は中国にあるんです」と断定するのはNGだ。
「日本文化のルーツをたどると、ぜ~んぶ中国文化にいきつきます」なんて自分優位の偏見があると、こういうことを信じやすいし、この残念な傾向は韓国人にもある。

でも、「橙≒成」「桔≒吉」と発音が似ていることから、ミカンやオレンジがラッキーアイテムになるという発想は、日本の「フクロウ≒不苦労」「(鏡餅の)橙≒代々」と同じで、これは漢字文化圏で共通している。

 

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。