こんな一文を読んだら、どんな感想を持つだろう?
「解剖台の上でのミシンとこうもり傘の不意の出会いのように美しい」
ちょっと何言ってるか分からないと、戸惑う人が続出と思われる。
「ミシンとコウモリ傘」の組み合わせが謎で、なんでその出会いが美しいのか?
文学や絵画でこんな意外な組み合わせによって、見る人に強いインパクトを与えるやり方を「デペイズマン」という。
ちなみに上の言葉はフランスの詩人のもので、デペイズマンの説明でよく使われる。
さて「ヒトラーと禁煙キャンペーン」、「ナチスと有機農業」というのもなかなかのデペイズマンでは?
ユダヤ民族の絶滅を目的として、600万人ものユダヤ人を虐殺したのがナチス=ドイツで、そのトップにいたのがヒトラーだ。
この「ホロコースト」の責任者であるヒトラーは健康に害を与えるタバコが大キライで、身近な友人にはタバコを吸わないよう勧めていた。
こんな個人的な考え方もあってヒトラーが政権を握ると、全国的な禁煙活動を推し進める。
喫煙と肺ガンには関連性があると初めて確認したのはドイツ人の医者で、当時としては、世界中で最も効果的な禁煙運動を行なった国はナチス=ドイツだった。
国民の健康や命を守ろうとしたことはいい。
でも、その反タバコ運動の動機に、人種差別や優生思想があったというのはどうなのか。
ナチ党指導部は、喫煙は支配民族にとって不適切であり、タバコの消費は「民族の堕落」に等しいと考えた。ナチスはタバコを「遺伝子の毒」とみなした。人種改良主義者は喫煙に反対し、「ドイツ人生殖質」が汚染されることを恐れた。
タバコの害悪によって、支配民族である自分たちアーリア人種の“優秀性”を劣化させてしまう。
喫煙は「遺伝子の毒」ということで、ナチスは特に妊婦に対して禁煙を強く訴えた。
国民の健康を大事に考えて、禁煙キャンペーンが大成功したといっても、こんな優生思想や他の人種に対する差別意識が動機にあったとしたら、まったくホメられない。
それはこれも同じだ。
毎日新聞の記事(2023/01/30)
なぜナチスは有機農業を進めたのか 背景に選挙と「優生思想」
「ナチス・ドイツの有機農業」(柏書房)の著者で京都大の准教授・藤原辰史さんが毎日新聞のインタビューに答えている。
化学肥料や化学薬品を大量に使っていた近代農業は、当然のことながら人の健康に与える悪影響も大きい。
それに加え、化学肥料を使うと土壌がやせ衰えてしまうから、ナチス=ドイツの食糧・農業相が化学肥料を拒否した有機農法に注目した。
土壌にいる微生物の働きを生かそうとする発想はまさに有機農法。
ユダヤ人を収容し虐殺していたダッハウ強制収容所に、この農法を使った菜園を作って囚人に有機ハーブティーを生産させた。
それをナチス親衛隊(SS)が、こんな宣伝文句を使いながら販売していたという。
「毎日の食卓にどうぞ。健康によいうえに、お求めやすく、体に害を与えません。」
ヒトラーに忠誠を誓い、ユダヤ人を虫のように殺していた親衛隊が「体に害を与えません」と言うのもデペイズマンだ。
ダッハウ収容所が解放された後、アメリカ軍に銃殺されるナチス親衛隊員(1945年)
こんな活動の背景にあるのは、ナチスの「優生思想」だと藤原さんは指摘してこう話す。
集団の生存は遺伝的な質の向上によって実現するという考え方で、有害と決めつけた要素は排除します。ナチスの指導者たちは、人間を遺伝学の法則に従わせようとしました。
自分たちドイツ人は優秀なアーリア人種であるとし、その純粋さを保つためには、「劣等人種」であるユダヤ人やスラブ人と交わらないような環境を整えないといけない。
そんな人種差別的発想から、ユダヤ人やスラブ人は虐殺の対象となる。
優生思想からナチスは人間の「品種改良」を考えていて、その発想は有機農業に結びついていた。
これは、支配民族であるアーリア人種の“優秀性”を保つために、禁煙キャンペーンを始めたことと重なる。
政府が国民を大事にして、健康長寿のために取り組むのは良いことのはずなのに、ナチスやヒトラーがするとやっぱり闇落ちしてしまう。
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