【義挙<罪悪】韓国より、日本に近い認識だった安重根の母親

 

日本人と外国人では価値観や考え方が違うから、同じコトでも、まったく別の対応をすることは多々ある。
いま行われている野球のWBCで、チェコの打者にデッドボールを与えた佐々木朗希投手は帽子をとって頭を下げたけど、アメリカ野球ではそういう時、投手は謝罪なんてしない。
日本人の感覚からすると「失礼なっ!」と腹は立つけど、アメリカではそれが常識だから投手は何も悪くない。

こういう見方の違いは「海外あるある」で、相手を変えることはできないから、文化の違いと理解するしかない。
でも歴史認識については、そう簡単にはいかない。
知人のモロッコ人はフランス人の友人と基本的には仲良しだけど、植民地支配についての話になると、おたがい一歩も引けなくなるからいつもヒートアップすると言う。
それは日本と韓国も同じだ。
日韓の歴史認識のギャップはマリアナ海溝より深く、“自尊心”にもかかわることだから、この地雷にふれたらヒートアップは避けられない。

日韓で見方がひっくり返る歴史的人物に、1909年に伊藤博文を暗殺した安重根がいる。
初代韓国統監の伊藤博文は韓国では「朝鮮侵略の元凶」とされているから、伊藤を射殺した安は英雄になり、その行為は“義挙”と称賛されている。
でも、日本の見方はその正反対。
2014年に当時の菅義偉官房長官はこう言った。

「安重根に対する日本の見解はわが国の初代総理である伊藤博文を殺害し死刑判決を受けたテロリストというもの」

この発言に韓国側は怒ったが、日本の立場としては当然でこれ以外の答えはない。
それは実はあちらも十分承知しているから、もし日本の官房長官が安重根の行為を“義挙”と呼んで、彼を“英雄”と称賛したら、韓国側も理解不能になったはずだ。

 

安重根

 

そんな安重根をテーマにした映画『英雄』が昨年末、韓国で公開されて大きな話題をよんだ。
安重根の映画なら以前にもあった。
でも、これは創作ミュージカルとして制作された初めての映画で、韓国ミュージカル史にとって画期的な「事件」だと全国紙の中央日報は強調する。(2022.12.22)

【コラム】映画『英雄』は韓国ミュージカル界の「事件」

この映画のクライマックスは、母親である趙瑪利亜(チョ・マリア)が刑務所にいる安に手紙を送り、「命乞いをせず大義のために死ぬべき」と激励するシーンらしい。
この場面を見たら愛国心が揺さぶられて、韓国人の涙腺崩壊は避けられない。
そのことについて、まだ映画は絶賛公開中にもかかわらず、朝鮮日報が映画関係者に営業妨害だ! と怒られそうな報道をした。(2023/03/17)

【独自】「趙瑪利亜が息子・安重根に送った『手紙』は日本人僧侶の作り物だった」

母は息子に「おまえは大義に従い、立派なことをやったのだから命乞いをせずに堂々と死ぬべき」という内容の手紙を書いて、「現在、大多数の韓国人は、安重根の母親が死刑目前の息子にこういう感動的な文章を送ったと信じて疑いません」という状態だ。
でも、これは歴史でも事実でもない。
朝鮮日報の記者が取材を進めていくと、リアル世界では、瑪利亜は安重根にこう叱っていたことが判明。

「おまえは今後、神妙に刑に服して速やかに現世の罪悪を償った後、次の世では必ず、善良な天父の息子となり、この世に再びいでよ。」
「おまえは現世で殺人という罪を犯したのだから神父さまがおまえに代わってざんげをする。(中略)死後に罪を償い、生まれ変わるべき」

母は息子に「立派なこと」ではなく、おまえは殺人という罪を犯したのだから、それをちゃんと償(つぐな)って、次は善良な人間となって生まれ変わりなさいと諭していた。
くわしいことは上の朝鮮日報の記事を見てもらうとして、いま韓国人が信じていることは「日本人僧侶の作り物」で、元新聞記者だったというその日本人僧侶は「自分が操作したことを認めた」とある。
しかも、そもそも「手紙」なんて存在していなかった。
この日本人は、(おそらく経営難だった)自分のお寺に韓国人を訪問させるために、こんなフィクションを混ぜた安重根の本を書いて出版したらしい。
それによって、「寺は安重根と韓日交流の象徴へと浮上しました」というから罪深い。

 

それにしても、安重根の行為に対する瑪利亜の認識は「罪悪」、「殺人という罪を犯した」というものだから、これは現在の日本政府の見方に近い。
でも、韓国では「おまえは大義に従い、立派なことをやった」と、母も息子のしたことを“義挙”と考えていたとされている。
「罪悪」では国民感情とまったく合わない。
だから、瑪利亜には“事実陳列罪”が適用されて、現代の韓国人からは「安重根義士の名誉を汚すな!」、「歴史をわい曲するな!」と怒られるかもしれない。
といっても安の母親はたたきにくいから、「あのとき瑪利亜はそう言うしかなかった。でも実は、息子のしたことを立派なことだと信じていた」という想像で整合性をとるかも。
批判を覚悟で朝鮮日報がこんな記事を載せたのも、間違った情報から、愛国心がどんどん刺激されている韓国社会の現状を見て、「これではいけない」と思ったからでは?
ある意味、これこそ義挙。

でも、その根本的な原因は想像で、歴史を創造した日本人にある。
自分勝手な「韓日友好」から歴史を作った日本人は他にもいるから、こんなことはもう二度とおこらないようにしないといけない。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。