日本で増加中のスリランカ人 背景にある“経済危機”の原因は?

 

いま野球の国際大会・WBCで日本が決勝進出をかけて、メキシコと対戦しているところ。
ここはぜひ連続ヒットで進塁した後に、大谷選手の豪快なスリーランで日本を勝利に導いてほしい。
(こんなことを書いたら、メキシコにそれをやられた)
ということで今回の話はスリランカだ。

インドの南に浮かぶ島国・スリランカってこんな国。

面積:6万5,610平方キロメートル(北海道の約0.8倍)
人口:約2,216万人
首都:スリ・ジャヤワルダナプラ・コッテ
民族:シンハラ人(74.9%)、タミル人(15.3%)、スリランカ・ムーア人(9.3%)
言語:公用語(シンハラ語、タミル語)、連結語(英語)
宗教:仏教徒(70.1%)、ヒンドゥ教徒(12.6%)、イスラム教徒(9.7%)、キリスト教徒(7.6%)

スリランカ民主社会主義共和国 基礎データ

 

ここ最近、この国から千葉へ移り住む人が増加中。

読売新聞の記事(2023/03/20)

千葉・山武市にスリランカ人が急増、10年で13倍に…児童生徒の1割超える学校も

2013年には57人だったスリランカ人がいまでは750人に増えた。
それで日本語のできない子どもへの支援が課題になっているから、市は日本語教室を開いたり、地元の大学生がボランティアで日本語を教えているらしい。
ちなみに「山武市」の読み方は「さんむし」だから、「やま…」とか言わないように。

13倍という伸び率の山武市は別格としても、日本に住むスリランカ人は全体的に増加傾向にある。
知人のスリランカ人も数年前に日本語学校を卒業した後、悩んだ末に母国には戻らないで、日本企業で働くことにした。
ま大学で学んでいる留学生の知り合いも、卒業後は日本で働きたいと言っている。

なんでこのところ、日本に住むスリランカ人が増えているのか?
その理由はなんといっても、母国の超深刻な経済危機だ。
きょねん2022年、1948年にイギリスから独立して以来、初めてデフォルト(債務不履行)におちいったスリランカでは物価が昇竜拳のように上がって、国民生活は大混乱になった。

隣国インドと比較しても豊かな生活水準を誇ったが、2020年には3%以上縮小、2021年末の時点で対外債務残高は507億ドル(約7兆円)となり、スリランカは独立以来の最悪の経済状況となった。

2022年スリランカ反政府運動

 

怒り狂った一般国民に、仏教僧も加わって大規模な反政府デモがはじまると、恐怖を感じたラージャパクサ大統領は家族を連れて国外に逃げだした。

 

 

スリランカが“崩壊”した原因にはこんなことがある。

・新型コロナの世界的な流行のせいで、スリランカの稼ぎ場だった観光業が大打撃を受けた。
・2022年にロシアがウクライナへ侵攻しやがって、食料や石油価格が急上昇した。

十分なガス供給もできなくなって国民は薪(まき)で火を起こすとか、日本でいえば江戸時代みたいな生活を強いられた。
コロナ禍やウクライナ戦争とは別に、スリランカの経済破たんの原因にはコレがある。

読売新聞の記事(2023/01/26)

中国の多額の融資で債務返済に苦しみ、権益の譲渡に追い込まれる「債務のわな」に陥っているとして、国際社会から懸念の声が上がっていた。

中国、スリランカの債務返済を2年猶予…IMFによる金融支援も支持

 

以前は、日本がスリランカを支援する国のナンバーワンだった。
それが2010年ごろから、経済大国となった中国に代わる。
以下は、日本に住むスリランカ人から聞いた話だ。

中国はスリランカにお金をドンドン貸して、政府はそれをもとに、港や空港や道路などをバンバンつくっていく。
でも、返済能力を超えた借金をしてしまったから、とてもじゃないが返せなくなる。
借金漬けになったスリランカは中国の言うことを聞くしかなくなり、たとえば港を中国に99年間も貸し出すという国民としては屈辱的な状態となった。
これ19世紀後半、中国(清)が戦争に負けて、イギリスに香港の一部を99年間貸し与えたことと重なる。
そんなことから、スリランカは中国の「債務の罠(わな)」にハマったとよく言われる。

でも、スリランカ人の見方では、最悪の経済危機になった最大の原因はそれじゃなくて、ラージャパクサ前大統領による国の私物化だ。

彼は自分の兄を首相に任命したり親戚4人を内閣に入閣させたりして、日本の田舎の同族企業よりも露骨に、一族で政治権力を握ってやりたい放題をする。
ラージャパクサ大統領は中国からお金を借りると、選挙対策として、身内の選挙区に「ハコモノ」をつくって、とりあえず仕事を与えて国民の人気とりをした。
それと同時に、中国から受け取った金の多くを自分たちの銀行口座に移動させる。
このへん実際のところは不明だが、「額が分からないだけで、彼らが汚職で大もうけしていたことは国民の誰もが知っている」と知人は確信を持っている。
あのデモはその証拠映像だろう。
国民の生活水準を数百年前に戻して、中国から得たお金で自分たち一族は笑いが止まらないほどリッチになり、借金の返済は国に負わせて、スリランカ経済を破たんに追い込んだ。

ただ知人のスリランカ人も、国が債務の「トラップ」に引っかかったと考えてはいたけど、中国が最初からどこまで考えて、金を好きに貸していたのかは分からないと言う。
でも、経済危機の一番の原因はお金を貸した側よりも、金や地位のために国を私物化し、スリランカの国と国民を売り飛ばした大統領一族にある。
でも、一般国民の多くは前政権と中国との深い関係には気づいてなくて、大統領を追い出したことで満足しているらしい。

 

スリランカは一度、落ちるところまで落ちたから、いまは新しく国を建て直しているところ。
疲弊したいまのスリランカでは、海外で学んでいる彼らエリート層の能力を存分に発揮することは難しいし、給料も期待できない。
だから日本やアメリカ、イギリスなどで働いて、家族に生活資金を送ることを考える人が多いらしい。
高度な教育を受けて英語ができて、専門的な知識や技術を身につけた人ほど母国から出て行きたい傾向がある。
これはスリランカにとって大きな損失と不幸だけど、どうしようもない。
「千葉・山武市にスリランカ人が急増」の背景にもこんな事情があるかも。

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。