ジャヤワルダナ:日本の“恩人”も、スリランカ国民には“敵”

 

「インド洋の真珠」といわれる美しい島国スリランカが、いまミゾーユウの、いや未曾有の大ピンチだ。
国のお金がスッカラカンになって大統領が正式に”国家破産”を宣言し、その直撃を受けた国民は怒りと混乱のうずにある。

・パンや卵の価格が1年前の約3倍になった。
・外貨がなくなって燃料を輸入することができず、薪(まき)で調理したり、移動手段を車から自転車に換えた。
・発電用の燃料がなくなり、1日に数時間停電になる。

21世紀にふさわしい市民生活を送れなくなった国民が続出し、その怒りの矛先となったラジャパクサ大統領は辞任を発表。
ただ、こんな苦しい生活は庶民のすることで、政府のお偉いさんの家には優先的に電気が供給されているという。
そんなフザケタ状態は国民がよく知っているから、上級国民の頂点に立つ大統領の公邸に民衆が押し寄せてパニック状態になる。
まあ占拠した国民は楽しそうだけど。

 

 

スリランカが大混乱になっていると聞いて、いま日本で働いている知人のスリランカ人と話をした。
そのとき話題に出たのがスリランカの第2代大統領・ジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ。
*シンハラ語だと「ජුනියස් රිචඩ්ජයවර්ධන ஜூனியஸ்」。

ネットでジャヤワルダナを検索すると、よく「日本を救った」なんて言葉とセットになっている。
第二次世界大戦後の1951年、当時はまだイギリスの植民地だったセイロン(スリランカ)の代表として、ジャヤワルダナはサンフランシスコ講和会議に出席した。
*スリランカの完全独立は72年。

このとき彼は日本と連合国51カ国の代表の前でこんな演説を行う。

アジアの諸国民はなぜ、日本が自由になることを切望しているのか。それは、アジア諸国民と日本との長きにわたる結びつきのゆえであり、また、植民地として従属的地位にあったアジア諸国民が、日本に対して抱いている深い尊敬のゆえである。往時、アジア諸民族の中で、日本のみが強力かつ自由であって、アジア諸民族は日本を守護者かつ友邦として、仰ぎ見た。私は前大戦中のいろいろな出来事を思い出せるが、当時、アジア共栄のスローガンは、従属諸民族に強く訴えるものがあり、ビルマ、インド、インドネシアの指導者たちの中には、最愛の祖国が解放されることを希望して、日本に協力した者がいたのである。

ジュニウス・リチャード・ジャヤワルダナ

 

そして、「憎悪は憎悪によって消え去らない、慈愛によって消える」と仏教の言葉を引用して、セイロンは日本への賠償請求権を放棄すると明言。
この言葉を日本は忘れない。
1989年に昭和天皇の大喪の礼に参加したジャヤワルダナが、「前大統領」という肩書きだったにもかかわらず、現役の元首・大統領と同じレベルの国賓として遇されたのだ。
「右目はスリランカ人に、左目は日本人に」という遺言によって、ジャヤワルダナの左目の角膜は長野県の女性に移植される。

知人のスリランカ人はもちろんジャヤワルダナを知っていた。
当時は第二次世界大戦が終わったすぐ後で、世界中が怒っていたから、スリランカが冷静な態度を示す必要があったと話す。
怒には怒りが返ってくるから、慈愛で返すことが大事というのは仏教的で、スリランカらしい考え方。
それと同時に「目には目を歯には歯を」では、収集がつかなくなるという合理的な理由もあったらしい。

ジャヤワルダナは素晴らしい理念や人格の持ち主で、日本にとっては恩人だ。
とはいえ、「日本を救った」と言えるほどの影響があったのかは分からない。
でも、日本人としては感謝感謝ですわ。

 

ජුනියස් රිචඩ්ජයවර්ධන ஜூனியஸ்(1906年 – 1996年)

 

話をスリランカの「国家破産」に戻す。
この原因として、よくこんなことが指摘される。

・親中のスリランカ政府が中国から借金をして、空港などインフラ整備を進めたが、利息が膨れあがって返せなくなった。
・観光大国だったスリランカがコロナ禍でホテル、旅行、飲食業などいろんな分野で壊滅的なダメージを受けた。

いまの混乱について知人はこんな話をする。

自分は日本にいるから、衣食住で不便はない。でも仕事先の上司はムカつく。
スリランカにいる家族は、プロパンガスはなくなるし、車にガソリンを入れるために6時間も並ばないといけないしかなり悲惨だ。
ここまで国がメチャクチャになった最大の原因は、大統領や政府要人がワイロを受け取りまくっていた政治腐敗にある。
そしてその原因をつくったのは、第2代大統領のジャヤワルダナだ。
彼が議院内閣制から大統領制にして、大統領の権限を強大にしたことが腐敗を招いた。
大統領は警察に捕まらないし、裁判所に行かなくてもいいという特権をつくったのもジャヤワルダナだった。

サンフランシスコ講和会議での彼の発言は知ってるし、日本人から「日本を救ってくれた人」と言われたこともあるから、日本人にとって彼はイイ人というのは分かる。
でも、スリランカ人の自分にとって、ジャヤワルダナは現在の政治腐敗の原因をつくって、結果的に国を崩壊させた人物という負のイメージが大きい。だから大嫌いだし、国民にとっては「敵」と言っていい人物だ。

ジャヤワルダナは日本の恩人で、しかもカックイイことを言ったから”聖人”のように見る人もいる。
でも国内では、大統領(つまり自分)の権限を強大にして、国を腐らせる原因をつくったらしい。
スリランカ国民と日本人では、ジャヤワルダナを評価するポイントがまったく違うから、悪魔にもブッダにも見える。

 

おまけ

スリランカにある「ゾウの孤児院」

 

 

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今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。 また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。