以前、日本に住んでいるスリランカ人の視点を通して、「卍」について紹介した。
スリランカ人が日本で「卍」を知った件 意味や由来、タブーなど
今回は、同じスリランカ人の「アシャン」とハイキングをした後で、妖怪について話した内容をお届けしよう。

天狗の鼻が長い理由は?
ーーさっきのハイキングはどうだった?
アシャン:富士山がきれいに見えて、すっごく良かったです! あれは…、なんて山でしたっけ? わたし、すぐに忘れてしまうんですよ。
ーー満観峰といって、静岡県ではわりと有名な山だよ。山の名前を忘れるのは問題ない。ハイキングしたこと自体を忘れたら、認知症の始まりかも。
日本人にとって山は特別な場所で、妖怪が住むという話は全国にあるんだ。天狗、やまんば、山彦(やまびこ)は有名だけど、アシャンは聞いたことある?
アシャン:テングは知っています! 山やお寺で見ました。あの長い鼻は、男性のシンボルを象徴していると聞いたんですけど、本当ですか?
ーーそれには諸説あって、はっきりしたことは分からないんだ。
山で修行した人が「俺は特別な存在だ!」と思い上がって、死後に天狗として生まれ変わったから、あの鼻の長さは「高慢さ」を象徴しているという説が有名。だから「鼻にかける」とか「天狗の鼻を折る」なんて言葉がある。
男根説もあって、女性が天狗の鼻をなでると、子宝に恵まれるという言い伝えが残る地域もある。
アシャン:あの鼻だけでも、いろいろな話があるんですね。
ーー天狗のイメージは時代や地域によって違うからね〜。

天狗の鼻には「西洋人」説もある。
戦国時代以降、日本にヨーロッパ人がやってきた。昔の日本人には、彼らの高い鼻が特徴的だったから、「異界のもの」に見えたという説。
各地のマイナー妖怪と山に伝わる不思議なルール
ーー「山の妖怪」として全国的にメジャーなのが天狗で、ほかにもマイナーな妖怪が各地にいる。たとえば、九州には「山童(やまわろ)」という妖怪がいて、これは河童(カッパ)が冬に山へ入った姿らしいよ。
アシャン:カッパは知っています。アニメだと川にいるイメージですけど、あれって山に登るんですか?
ーー九州のカッパはずいぶんアクティブだ。カッパが山頂でコーヒーを飲んでいる姿は何かのロゴになりそう。
まぁ、地域の言い伝えにツッコんだら、きりがないよ。
山には妖怪や悪霊を恐れて、それらを引き寄せないために「山に入ったら声を出すな」というルールがある場所もあったらしい。
※富山県には、山の中では「おおい、おおい」と大声をあげると山の神に連れ去られるから言わない、というルールがあった(今もあるかも)。
山梨県には、1月17日は山神が弓を弾くから、その日に山に入ってはいけないとされた。
(国際日本文化研究センター | 怪異・妖怪伝承データベース)

山童(やまわろ)
幸運を運ぶ?「座敷わらし」と「もっけの幸い」
アシャン:日本の妖怪は性格や行動がユニークで、種類もたくさんあるから興味深いです。わたしの推しは「座敷わらし」ですね。アニメで見て好きになりました。
ーーアシャン、お前もか。じつはトルコ人の女の子もアニメを見て「座敷わらし」のファンになったと言ってた。アニメって、本当に日本文化の入口なんだな。
アシャンは「もっけの幸い」って言葉を知ってる?
アシャン:いいえ、なんですかそれは?
ーー思わぬラッキーに遭遇することを「もっけの幸い」と言う。「もっけ」というのは「物の怪(妖怪)」のこと。物の怪は怖いだけじゃなくて、幸運を運んでくれることもあるから、こんな表現ができたらしい。
アシャン:日本人にとって、妖怪は本当に身近な存在ですね。
日本に妖怪が多い理由と「アニミズム」の信仰
ーーそういう空想上の生き物は世界中にいるけど、日本では特に多いと思うんだ。
アシャン:「日本ならでは」の理由があるんですか?
ーーいい食いつきだ。「アニミズム」ってあるじゃん? 動物や植物、川や風などの自然に霊魂(精霊)が宿っているという信仰のこと。
神道の考え方もそれで、日本人は石や木などの自然物に神が宿ると信じてきた。それが、妖怪が生まれやすい土壌になったわけよ(Yōkai)。
アシャン:なるほど〜。日本に来る前、日本はスリランカと同じで、仏教の国だと思っていたんです。でも、実際には神道もあって、仏教と同じくらい人や社会に大きな影響を与えていますね。これは意外でした。
ーーそやで。キリスト教やイスラム教はそういうアニミズム的な考え方を禁止して、徹底的に排除した。でも、日本では今でも神道として残っているんだ。
アシャン:スリランカには仏教、イスラム教、ヒンドゥー教、キリスト教などがありますけど、異なる2つの宗教を同時に信じることはないです。それは日本独特の信仰ですね。
ーー「神仏習合」って言う。スリランカでは、はるか昔に仏教が伝わると、それ一色になったの?
アシャン:紀元前3世紀に仏教が伝わると、それまであった信仰は消えるか仏教に吸収されたので、今ではよく分かりません(スリランカの仏教)。
ーー「世界史あるある」だ。影響力の強い宗教が伝わると、土着の信仰が姿を消すことは世界中であった。古代の信仰が残っている日本は、世界的にみてもめずらしい。
昔、用明天皇が「神道と仏教の両方を大切にしよう!」と言って、どっちも排除しなかったおかげだ。

マハーソーナのイメージ
スリランカ最恐の魔物「マハーソーナ」の正体
ーースリランカにも、森の中に妖怪みたいな生き物がいるっていうホラーな話はある?
アシャン:あります! スリランカには「マハーソーナ」という有名な妖怪がいるんですよ。
ーーマハーって「great(偉大な)」の意味だよね?
アシャン:そのシンハラ語を知っているんですか?
ーーたまたま。インドのサンスクリット語で「マハー」は、マハラジャ(大王)に使われているし、日本語では「摩訶」になっているから。
アシャン:そうです。マハーソーナは「悪魔の王」といった意味です。
ーーなんというラスボス感!
アシャン:マハーソーナは、もともとは優秀な戦士でした。でも、決闘に負けて首をはねられたあと、墓地に投げ込まれました。
それを見た神が生き返らせようと思ったんですけど、時間がなかったから、急いで熊の頭をくっつけて彼を蘇生させました。それがマハーソーナです。
スリランカでは最恐の妖怪ですね。
ーー「座敷わらし」とは格が違う。
アシャン:スリランカの妖怪って、人を殺したり病気にさせたりして苦しめるから、恐ろしいイメージがあるんです。座敷わらしみたいに、人間を幸せにするモンスターなんて聞いたことありません。
ーー「もっけの幸い」みたいに、マハーソーナも気まぐれに人に優しくしてくれるとか?
アシャン:ヤツは絶対にそんなことはしません。いつでも恐怖の存在です。外国人にとっては、そういう日本的な発想が妖怪の魅力なんでしょうね。
ーー日本の妖怪は人間に近くて、「友だち」みたいなところがあるから。
それにしても、無くなった首に別の生物の頭をくっつける話は、象の神様「ガネーシャ」と似ているな。
【象の神様】ガネーシャとは?ご利益や驚きの誕生秘話をわかりやすく解説
ーーその最強の「歩く不幸フラグ」と出会ってしまったら、人間には「死」しか残されていない?
アシャン:そういうときは「スートラ(お経、呪文)」を唱えると、マハーソーナに襲われないと言われています。
ーースリランカでは仏が最上位にいるから、その「マハーな力」に頼るのか。
アシャン:ヒンドゥー教徒、キリスト教徒、イスラム教徒もそれぞれの宗教で効果的とされる呪文を唱えると思います。
ーーさすが多様性の国・スリランカ。
アシャン:日本にも、マハーソーラみたいな「妖怪の王」はいますか?
ーー日本最強の妖怪は何だろうな? 「三大妖怪」は有名だけど、定説はないんだ。
アシャン:それだけ数や種類が多いとってことですね。
ーーだね。これからも妖怪を知って、アシャンだけの「最強」を見つけてほしい。
アシャン:クソゲーのキャッチコピーみたいなセリフですね。

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