日本には、妖怪や化け物などヒトではないモノと出会う時間帯がある。
光と闇が逆転する時間帯、夕方の薄暗くなるころ、昔の日本人は怪異が現れると考えて「逢魔時(おうまがとき)」、または大きな不幸に見舞われることから「大禍時(おおまがとき)」と呼んでいた。
江戸時代中期の画家で、多くの妖怪を描いたことで有名な鳥山 石燕(とりやま せきえん)の作品に、逢魔時に現れる魑魅魍魎を描いたものがある。
逢魔時
日本人はヒトではない不思議な生き物の存在を信じて妖怪、化け物、幽霊、魑魅魍魎などいろいろな言葉でそれを呼んだ。
それらすべてをひっくるめて、ひと言でいうなら「怪異」になる。
和歌山と奈良にある果無山脈では「果ての二十日」である12月20日に、「一本だたら」という一本足の妖怪が現れて、出会った旅人を喰い殺すという話があるから、この日に山に入る人はなくなったという。
このまえそんな記事を書いたのですよ。
一本足の妖怪「一本足だたら」についての話は広島にもあるし、和歌山県の西牟婁郡(にしむろぐん)では、山に入ったカッパが「カシャンボ」という妖怪になるといわれ、このカシャンボのことを「一本だたら」と呼ぶ。
2004年の春には和歌山県の富田で、田んぼに人間や四足歩行をする動物のものとは違って、15㎝ほどの大きさの足跡のようなものが、ほぼ一直線に続いている不思議な痕跡が見つかった。
1本足の生き物が歩いた跡のようだったことから、「カシャンボが出た!」と地域で話題になって、それから東スポが記事で取り上げたことで全国区のニュースとなる。(2014年11月14日)
昔話の妖怪が現れた!? 和歌山県富田の「かしゃんぼ」
こんなふうに現代の日本でも、人間には理解困難な現象は起こるのだ。
何かが歩いた跡は雪上に残りやすいから、雪の降った次の日に、一本足の妖怪が現れたという話は日本各地にある。
愛媛県には雪の時期になると、雪婆(ゆきんば)という一本足の老婆の姿をしている妖怪が出没して、子供をさらうという話が伝わっている。
雪婆
わが浜松市の北部にも、むかしむかし、誤って自分の片足を切断して死んだ木こりがいて、その怨みが一本足の妖怪になったという話がある。
雪の降った翌日に山に入ると、雪上にその妖怪が片足で歩いた跡を見ることができるとか。
その近くの愛知県北設楽郡にも同じような話があって、大雪が降る夜には外で「ドスン、ドスン」という音が聞こえて、次の日には60㎝ほどの片足だけの足跡が残っているという。
岐阜の飛騨地方には妖怪「雪入道」、和歌山の妖怪「雪坊(ゆきんぼ)」など各地に一本足妖怪の伝承がある。
そんな一本足の妖怪は雪に関係していることが多いから、雪上にある不思議な痕跡を見たむかしの日本人は、理解不能な現象を「怪異のシワザ」と理解したに違いない。
科学が発達していなかった時代、教育レベルが低かった田舎の人にとっては、これが最も合理的な考え方だったはず。
謎を謎のままにしておくことができなかったから、何らかの解釈をして自分を納得させた。
日本の妖怪はそんな人間の恐怖や不思議の産物で、逢魔時や大禍時も同じ発想だろう。
でも、そんなオソロシイ妖怪を想像して、震えていた時代はもう終わり。
いまでは「一本だたら」の伝承をビジネスチャンスと考えて、「一本足だたらこけし」という民芸品をつくって土産物として売る店もある。
画像検索して見るとなかなかカワイイし、日本に興味のある外国人に人気が出そうだ。
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