タイで『一休さん』が大人気! 愛される5つの理由と意外なホンネ

日本の有名アニメが、タイでは超有名アニメだったりする。
タイの人たちが『一休さん』に夢中になる理由を知って、見えてきたのはタイの価値観や文化、社会事情だ。

目次

タイで人気爆発の『一休さん』

「あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ」

このセリフを聞いて、世界で2番目に何のアニメか分かる人が多いのは、きっとタイだ。
日本では1970年代に放送され、国民的アニメになった『一休さん』は、タイでも高い人気と知名度を誇っている。

前に日本のテレビ番組で、「タイの人たちは、みんな『一休さん』の歌を歌える」という内容を放送していた。
街で聞いてみると、子どもやおばあさんが一休さんのオープニング曲を歌うことができた。
あれは「ヤラセ」ではないと信じている。

 

タイでは1900年代に放送されていたから、「レトロアニメ」になりつつある。
しかし、今でもタイ国民に「あなたが好きな日本のアニメは?」とアンケート調査をしたら、『ドラえもん』や『鬼滅の刃』と並んで、『一休さん』が上位に入り込むと思う。

2019年には『一休さん』をテーマにしたイベントが開催され、アニメに登場した金閣寺や安国寺などの建物、『新右衛門さん』や『さよちゃん』といったキャラのレプリカが展示されたのも記憶に新しい。

なぜ、日本の古いアニメがタイでこれほどまでに愛されているのか。
これからその理由を挙げていって、最後にタイ人から聞いた「リアルな本音」を紹介しよう。
タイの文化や価値観が分かるはずだ。

【人気の理由1】安心して見られる「家族向け」アニメ

タイを旅行中、ホテルの部屋でテレビをつけたら、たまたま日本のドラマを放送していた。
しかし、日本と違って、タバコを吸うシーンには「モザイク」がかけられ、視聴者には見えないような配慮がされていた。

海外では、その国の価値観や文化から表現規制がかけられることがよくある。
日本のアニメやマンガは世界的にも「表現の自由度」が高いため、海外ではそのまま放送できず、激しい暴力シーンや性的なシーンがカットされたり、隠されたりすることが多い。

 

その点、『一休さん』の世界観は「優しさ」にあふれている。だから、タイでも大人が安心して子どもに見せることができる。
この「安心感」は大きな魅力だ。

それに『一休さん』は、トラブルを「とんち」を使って解決する。
現代のアニメや映画にありがちな激しい戦闘をせず、「頭脳」と「対話」によって争いごとを収めているのは、タイの社会ではポイントが高い。

誰も傷つけることなく平和的にピンチを乗り越えるストーリーは道徳的で、今の価値観からみてもオススメできる。

 

一休さんといえば、離れて暮らす母(母上様)を想って、てるてる坊主に語りかける切ないシーンがある。
タイの文化では、家族の絆や両親(特に母親)への感謝がとても大切にされているため、あの印象的なシーンに心を撃ち抜かれ、共感した人も多かった。

ちなみに『一休さん』はイランでも大人気になった。母親に対する子どもの想いが、イスラム教の価値観に合っていたのかもしれない。

タイの子どもからお年寄りまで、家族全員が安心して見ることができる「家族向け」の優秀なコンテンツ、それが『一休さん』だ。
タイの価値観に合っていて、「安心&安全」の要素があったから、国民的アニメになったわけだ。

【人気の理由2】仏教という生活文化の「共通点」

タイの人たちが『一休さん』を受け入れた背景には、日本とタイに共通する「宗教」の存在がある。
バンコクの街を歩いていると、遠くのお寺に向かって歩きながら手を合わせ、頭を下げるタイ人を何度も見かけた。

タイの社会では古くから仏教が根付いていて、短期間の出家をする人も多い。

そのため、『一休さん』で描かれる日常に共感する人が続出した。
お寺には「和尚さん(お師匠様)」がいて、一休さんはお経を唱えて修行をしている。それはタイの日常風景だし、実際に経験した人も多いから、アニメを見て視聴者はシンパシーを感じたのだ。
一休さんは、タイの仏教の教科書の表紙に描かれたこともあるほどだ。

しかし、舞台は室町時代の日本だから、タイとはまったく違う。
タイの視聴者にとっては「自分たちの文化と似ている」という親近感と、日本ならではの「異国感」があり、それが人気を押し上げた。

【人気の理由3】子ども時代の思い出(ノスタルジー)

知人のタイ人は子どものころ、学校から帰ったあと、家族といっしょに夕食を食べながら『一休さん』を見ることが大好きだったそうだ。
タイで『一休さん』は何度も再放送されているから、それを見て育った人は多い。

大人にとっては「ノスタルジー(思い出)」を感じる作品で、内容も素晴らしい。だから自分が親になると、今度は自分の子どもに『一休さん』を見せることもある。
こうしてこのアニメは「過去のブーム」では終わらず、世代を超えて「国民的アニメ」として定着していった。

今でもタイの人たちに愛されていることは、『一休さん』をテーマにしたイベントがおこなわれていることからも分かる。

【人気の理由4】大人を「アッ」と言わせる痛快さ

タイで一休さんが爆発的に支持された大きな理由に、「立場の弱い子どもが知恵を使って、偉い大人を“やっつける”から」ということがある。

この爽快感は日本の『水戸黄門』にも通じるものがある。

ただのおじいさんだと思っていた人物が、実は先の副将軍。家来が印籠を見せると、悪者たちがあわてて地面に平伏する。
『一休さん』のとんちで大人を「アッ」と言わせる物語には、そんな逆転劇の要素があって、これがタイ人に喜ばれたのだ。

とくに将軍の足利義満は日本の最高権力者だから、ただの小僧がそんな大物を出し抜くのは、見ていてとっても気持ちがいい。

【人気の理由5】“下剋上”のカタルシス

ここまで挙げてきた理由はさまざまなサイトに書いてあって、正直言って「新発見」ではない。
しかし、前にタイ人から思ってもみなかった理由を聞いたから、これからそれを書いていこう。
先ほどの逆転劇には、タイの社会事情からすると、実は「カタルシス効果」があるのだという。

 

数年前、3人のタイ人と食事をしていたとき、タイで『一休さん』が人気ということを知ったので、その理由を聞いてみた。

タイは「微笑みの国」と呼ばれ、社会には明るくおだやかな雰囲気があるが、実際には日本をはるかに超える格差社会だ。
上級層は庶民を見下し、庶民は自分よりも貧しい人を見下す雰囲気がある。当然、「下」の人間には、「上」に対する嫉妬や怒りを感じる人が多い。

また、出身地に対する偏見も強い。
タイの東北部にイサーンという地方がある。知り合いがそこで生まれ育ったタイ人で、彼女がバンコクの大学に通っていたとき、バンコクの市民から「イサーン人のくせに!」といった侮辱的なことを言われた経験が何度かあると話していた。

タイの社会では、一般国民は王室や僧侶に最大級の尊敬をはらい、軍や政治家にも頭が上がらない。
タイ語で敬語(特に丁寧語)が発達した主な理由には、タイ社会の根底にある年齢や社会的地位などに基づく厳格な上下関係がある。その社会秩序を維持するため、敬語が使われているのだ。

 

タイは年齢や身分、職業といった「上下関係(ヒエラルキー)」が強い社会で、目上の人や権力を持つ人には逆らってはいけないという「暗黙のルール」が存在する。

一般の人たちは日常生活でさまざまな抑圧感を感じ、ストレスを抱えやすい。だから民衆の不満や怒りが蓄積され、ある一点で爆発し、激しいデモ活動が何度も起こる。

そのような背景があるから、小さな修行僧が知恵を使って権力者や金持ちを驚かせ、黙らせる展開は、最高にスカッとする。
『一休さん』を見ると、心の中にたまっていた怒りや悲しみなどのネガティブな感情が吐き出されるのだ。
タイの庶民にとって一休さんは「ヒーロー」であり、カタルシス効果(心の浄化)を得られたからこそ、このアニメは熱狂的に支持されたという。

 

3人の意見をまとめると、子どもの修行僧が将軍に説教をしたり、金持ちの商人をくやしがらせたりするのは、タイ人にとっては理想的な「痛快エンターテインメント」になる。

しかし、タイでは政府や役人の力が強く、メディアではあまり「反権力」や「反政府」を強調できない。
だから、そうした「下剋上」の要素が表立って語られることは少ないという。

本日のまとめ:『一休さん』人気から見えてくる「タイの価値観」

ここで、タイで『一休さん』が長年愛され続けている理由を振り返ってみよう。

・仏教文化に共通する、お坊さんへの敬意がある。

・暴力やエロの要素がなく、道徳的で優しい世界観につつまれている。

・家族を大切にする価値観はタイ人にピッタリ。

・何十年も放送され、親から子へ受け継がれる「懐かしさ」がある。

・子どもがとんちで上下関係の壁を超え、日々のストレスを吹き飛ばす「痛快さ(カタルシス)」を感じる。

 

タイの人たちと付き合うと実感すると思うが、彼らは自分の気持ちをとても大切にする。
そのときの自分の都合を優先するから、(日本人から見れば)平気で遅刻するし、仕事が遅れると全力で言い訳をはじめたりもする。

精神は自由でも権威には従わなければならないため、ストレスを感じやすい。そんな事情から、こうした理由が出てくるのだろう。

日本で日本人向けに作られたアニメが、タイの人々の心に深く刺さった背景には、タイ社会の価値観や構造、庶民のリアルなホンネが隠されていたのだ。

 

 

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この記事を書いた人

今まで、東南アジア・中東・西アフリカなど約30の国と地域に旅をしてきました。それと歴史を教えていた経験をいかして、読者のみなさんに役立つ情報をお届けしたいと思っています。
また外国人の友人が多いので、彼らの視点から見た日本も紹介します。

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