「武奈伎(むなぎ)」という言葉は、奈良時代の『万葉集』に出てくる。
平安時代の末期ごろ、日本人はそれを「ウナギ」と呼ぶようになった。
語源はハッキリわかっていないが、「ム=身」と「ナギ=長い」が合体したという説が有力で、これだと「あなご」の「なご(ナギ)」にも通じる。
やっぱりあのクネクネした見た目から、名前が付けられたと思う。
大阪のあたりでは鰻丼のことを「まむし」と呼ぶのも、マムシが由来になっていると聞いたら信じてしまいそう。
これはヘビとは無関係で、ごはんにウナギやタレを「まぶした」ことが由来といわれる。
これなら「ひつまぶし」も納得だ。
さて、ウナギと言えばわが浜松ですよ。
浜松が日本有数のウナギどころになった理由はナニか?
明治時代に服部倉治郎が浜名湖をうなぎの養殖場として最適だと考えて、養殖を始めたところ、これがうまくいった。
それを村松啓次郎が発展させて浜名湖のウナギ養殖を確立させて、そのノウハウを全国へ伝える。
ウナギの養殖は浜名湖から始まって大量生産が可能になり、浜松は「うなぎ王国」の地位を手に入れた。
その敷居がこれからチョット高くなるらしい。
NHKニュース(4月3日)
飲食店でコロナ禍前の水準近くまで客戻り値上げに踏み切る店も
食材、炭、しょうゆの値段が上がって、ガス代まで高騰しても、客離れが不安でウナギの専門店はこれまで価格を維持していた。
でも、以前のようにお客さんが戻ってきたから、「トキはきた」と決断する店が出てきた。
ある店は、うな重を3570円から3850円にするらしい。
「最近は子どもの成績と父親の給料以外、何でも上がる」と知人の韓国人が言っていた物価上昇は日本も同じだから、このぐらいは仕方ない。
そう思うネット民も多かった。
・もはや上級国民以外食えないなw
・3000円台なんて安すぎやん
都内だと5~6千円いってる
・ウナギって値段がころころ変わるから
高いか安いか判断が難しいな
・うなぎは白焼でワサビと食べるのが美味しい。
・安いな、利根川沿いのほうが高い
うな重をよく食べるのは浜松でも上級市民で、一般市民はお祝いとかのハレの日に食べるものだから、300円ぐらいの値上げは実質関係ない。
上のニュースに出てくる専門店の店主は「徐々にお客さんも戻ってき今後はインバウンド需要の本格的な回復にも期待しています」と話している。
インバウンド需要に期待するウナギ専門店は全国津々浦々にあるのだろうけど、外国人はウナギ料理をどう思っているのか?
ちょんまげがウナギの家康くん
浜松にいると外国人と話をしていて、ウナギの話題になることがたまにある。
なかには、「うな丼やうな重がおいしい理由は、8割はタレ。肉は他のものでもいい」と身もフタもないことを言いやがったアメリカ人もいた。
このまえ花見へ行ったトルコ人の学生は興味津々。
「トルコでも食べたことがあるし、ボクは浜松のウナギを食べてみたい。でも、あの値段には驚いた。学生にはキツイね。先輩が卒業したとき、お祝いで教授がごちそうしてくれたという話を聞いたから、ボクもそれを期待してるよ。」
トルコではウナギをぶつ切りにして、串に刺して焼く「うなぎケバブ」があるらしい。
一緒に花見をしたメキシコ人はトルコ人と違うことを言う。
「悪いけど、ボクにとってあれはヘビなんだ。メキシコでもヘビを食べる人がいるから、食べられない食材じゃない。でも、子どものころ見たホラー映画で、海に沈んだ人間にたくさんのヘビが群がって食べるシーンを見てトラウマになったんだ。ボクの中ではウナギもヘビの一種だから、食べるのは無理」
無理って、アツアツのご飯にヘビをのっけた食べ物なんでこっちも無理だわ。
ヘビを食べたことがあって、ウナギも食べてみたいと言うナイジェリア人もやっぱり同一視してるようだ。
ただトルコ人と同じで、うな重の値段は彼にも異次元だからちょっと手が届かない。
おもしろいのは日系ペルー人。
小学生のころ、ペルーから浜松へやってきたその女性はウナギが大好物だけど、ペルーで生まれて大人になった母親はその食文化をガンとして受け付けない。
「ウナギなんてヘビと同じ。口に入れるなんて、考えただけで気持ち悪い!」と母親が毛嫌いするから、「ちっ、ちがうわっ」とめぐみんのように否定する娘。
そもそもウナギとヘビは同じニョロニョロ系でも、ウロコの有無が違う。と言いたいところなんだが、実はウナギにもウロコはある。
皮の中に埋まっているから、外側からは見えないだけ。
ある日、娘が家でウナギの弁当を食べていたら、「なにそれ、それ美味しそう」と母親が笑顔で声をかけてきた。
その直後、正体を知った母は血の気を失い、「そんなものを家で食べるな!見てしまったし、ニオイもかいでしまった…。しかも、美味しそうと思ってしまった!」と怒り出す。
「だったらアンタも食べればいい!」と言い返す娘がそこにいた。
ウナギはヨーロッパにもいる(ヨーロッパウナギ)。
ローマ教皇のマルティヌス4世(在位1281~85年)はワインに漬けたウナギを焼いて食べるのが好きで、その”罪”によって、ローマ教皇だったにもかかわらず、煉獄へ落とされたシーンがダンテの『神曲』に出てくる。
ウナギはロンドンを流れるテムズ川でもとれて、イギリス人に愛されているかは知らないが、食されてはいる。
知人のイギリス人が日本へ来て意外に感じたのは、ロンドンでは伝統的にウナギは貧しい人が食べる料理なのに、日本では高級食材になっていたこと。
イギリスとは価値が逆転している。
彼女がウナギを初めて口にしたのは日本(浜松)で、とても美味しかったから、高くてもそれに見合った価値があると感じた。
ロンドン東部、「イーストエンド」といわれる地区は歴史的に貧困層が多く住んでいて、かつては「切り裂きジャック」が出没したところ。
そこではウナギを豪快にぶつ切りにして、煮込んで冷やして作る「ウナギのゼリー寄せ」が名物料理になっている。
栄養価が高くて安いウナギは、ロンドンっ子にとって手軽に食べられる食材だったのだ。
Eels were historically a cheap, nutritious, and readily available food source for the people of London
20世紀後半になると、安くて栄養のある食材が他に増えたから、ウナギ料理を出す店はかなり減った。
ウナギのゼリー寄せ・パイ・マッシュポテトの組み合わせは、「ロンドンでもっとも古いファーストフード」といわれているらしい。
ただグーグルで「ウナギ イギリス」と検索すると、「検索してはいけない」との関連ワードが出てくる。
日本人からすると、ちょっとした”グロ映像”だ。
日本のウナギ料理は少々お高くても、日本へ旅行でやってくる外国人なら、またいで超えられる高さのハードルだから大した問題じゃない。
味もきっと外国人の舌を満足させられる。
あとはウナギとヘビの違いをどう説明するか、だ。
「飢え」が変えた食文化。日本と世界(ドイツ・カンボジア)の例
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