「帰省中の寄生虫」
「出不精でデブ性」
「お食事券の汚職事件」
日本語には同音異義語が山盛りあるから、ネットをみるとこんな言葉遊びがよくある。
帰省ならうれしくても、寄生だとウンザリ。
言葉が日本人の心理に大きな影響をあたえるのは、言葉には霊力があって良いコトを言うと良い結果、不吉なコトを口にすると悪いことが起こるという、日本独自の「言霊」の思想があるからだろう。
言葉の霊力によって幸せが生まれるから、日本を「言霊の幸(さき)わう国」と表現することもある。
そんな日本人だから、最高の知恵と細心の注意でもって元号を選ぶのは必然。
ちなみにいまの令和は「人々が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つ」という意味で、英語にすると「Beautiful Harmony」だ。
飛鳥時代の「大化」が第一号で「令和」まで、約250もある日本の元号は基本的にはどれも縁起が良いものなんだが、現実には愛されるモノとそうではないモノがある。
江戸時代にあった「明和」は日本人に嫌われた元号のひとつ。
まず昔の日本では、「1人の天皇=1つの元号」という現代の一世一元のルールではなくて、良いこと/悪いことが起こると元号を変えていた。
明和のまえの元号は「宝暦(ほうれき)」で、期間は1751年から64年までの7年しかなかったから、うちの近所のラーメン屋より寿命が短い。
宝暦が変更された原因には、地震が起きて社会不安が広がったことがある。
気分一新で生まれた「明和」も、1764~72年の8年しかもたなかったから同じようなガッカリ元号だ。
この元ネタは中国の古典『書経』にある「百姓昭明、協和万邦」で、
「人々がそれぞれ仲良くして、身分や立場に見合った振る舞いを行い、徳を明らかにすれば、世界の共存繁栄がはかられ、国民は大いに栄え、また和合したのである。」
というスバラシイ意味がある。
ちなみに「昭和」も「百姓昭明、協和万邦」からつくられた。
ではここでクエスチョン。
江戸の三大大火といえば明暦の大火と文化の大火と、あともうひとつはナニ?
答えは「明和の大火」(目黒行人坂の大火事)。
明和9年(1772年)に、いまの東京目黒区で発生したこの火災によって約1万5000人が死んで、老中だった田沼意次の屋敷を含めて多くの家、寺、神社も焼けて江戸の町は大ダメージを受ける。
ほかにもこの年には、台風による洪水(辰の洪水)などの災害も発生して、不安になった人びとは「明和九年は迷惑年だ」とウマいことをいう。
江戸時代の日本人は、地震の原因を「地下にいるナマズが暴れたから」と考えていたレベルだったから、これだけの厄災が起こることの背景に、天の意思(天命)のようなモノを感じたかもしれぬ。
「徳を明らかにすれば、世界の共存繁栄がはかられ、国民は大いに栄え~」という明和は、もはや庶民に「迷惑年」といわれ、嫌われる元号になってしまった。
こんな縁起の悪い元号は早く変えやがれ、と人びとは思ったはずで、幕府や朝廷としてはそんな不満を消さないといけなくなる。
それで明和9年の11月に元号を「安永(あんえい)」にした。
火災や洪水で日本人の気持ちが暗くなっていたから、次の時代は安定し、永く続くことを願ったと思われる。
「言霊の幸(さき)わう国」の国では、やっぱりコトバの力は重要だ。
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