日本を旅行した外国人に感想を聞くと、
「時間厳守に感動した! 電車が1分単位で正確に走っているのは、世界でこの国だけだろうね。旅行がしやすくてすごく助かるよ。」
と笑顔で言って、日本の公共交通機関に拍手をおくる。
日本の交通システムの正確性は世界的にも有名だから、英語で検索すると、それに驚く海外メディアの記事が洪水のようにヒットする。
たとえばこれはインドメディア「The Logical Indian」の記事。(18 Apr 2022)
From Punctuality To Super Cleanliness, Things That Make Japanese Trains Among The Best In The World
時間厳守から清潔感まで、日本の電車が世界一のワケとは?
日本の正確な運行は伝説レベル(legendary)というこの記事は、東京・名古屋・大阪の3大都市圏の鉄道網は、おそらく世界でもっとも効率的だと指摘する。
日本を代表する高速鉄道の東海道新幹線は約50年の間、一度も脱線や衝突事故を起こしていない。
2007年には約515キロメートルの区間で、出発時間の遅れは平均わずか18秒だったと驚嘆し、そしてとても日本的な現象について書く。
自然災害などによる遅れも含めても、新幹線は平均して1分以内(54秒)の遅れで終着駅に到着する。もし5分以上遅れると、鉄道会社は乗客に証明書を発行するのだ。
In Japan, the average high-speed bullet train arrives at its final stop just 54 seconds behind schedule, including delays caused by uncontrollable factors like natural disasters. If a Japanese train is five minutes late or more, its commuters are issued with a certificate.
日本人は遅刻にメチャ厳しいから、時間を守れないと人間性を疑われる。
だから上司や先生に遅延証明書を見せて、自分の責任ではないことを証明しないといけないこともある。
上の記事はイギリスBBCの報道をもとにしているから、時間に正確な日本の鉄道の運行は世界的にも「legendary」ということなんだろうけど、モノには限度がある。
2日前の4月25日は、18年前にJR福知山線の脱線事故が起きた日だ。
2005年のこの日の朝、兵庫県尼崎市で快速電車がカーブを曲がりきれずに脱線し、マンションに激突して107人の死者と562人が負傷者がでた。
手足を切断した人も多かったから、これはもう地獄のような事故。
あのとき事故現場の映像を見て鉄道マニアがネットで、「あれ? この編成だと1両足りない…」と書き込んだのを見て背筋が震えた。
二度と繰り返してはいけないから、毎年4月25日には、現場近くにつくられた追悼施設「祈りの杜」で慰霊式が行われている。
21世紀の日本で起きたとは思えない事故の原因には、運転士のスピード出し過ぎやオーバーラン、日勤教育、ATS(自動列車停止装置)の不備とさまざまあるが、人間の限界を超えるような時間厳守の運行を求められたことも大きい。
そうでなかったら、運転士による異常な速度超過はなかったはず。
当時、尼崎駅で乗客がいろいろな電車に乗り継ぎができるように、この路線は超密なダイヤを組んでいたから、定時到着は運転士にとっては「マスト」になっていたという。
事故発生路線である福知山線は、阪急電鉄の宝塚線・神戸線・伊丹線と競合しており、他の競合する路線への対抗策と同様、秒単位での列車の定時運行を目標に掲げていたとされている。
電車の運行計画をつくる時には遅れなどを想定して、ほんの少しだけ「余裕時分」というすき間時間が設定される。
でも、秒単位での定時運行を実現するために、このときJR西日本は「余裕時分全廃」を掲げていた。
これは実質、失敗や間違いは許されないというようなものだから、運転士が感じるプレッシャーはハンパない。
こんな状況下で、当日の記録から電車の出発が宝塚駅では15秒、中山寺駅では25秒、北伊丹駅を通過した時には34秒ほど遅れたことが分かっている。
「今度ミスをしたら、運転士を辞めさせられる」と生前に語っていた運転士が超あせっていたのは簡単に想像できる。
すべてはお客様のためなんだろうけど、会社が秒単位での正確さを目指していたことが事故につながったのは間違いない。
不幸は友達を連れてやって来るという。
この事故では乗客の苦情が原因というか、その背景にある。
伊丹駅を出てすでに遅れが約1分20秒に達したころ、走行中に運転士が車内電話を使って、別の車両にいた車掌にオーバーランの会社への報告を短めにしてほしいと頼む。
つまり、不正報告のお願いをしたワケだ。
「だいぶ行ってる(オーバーした)」と車掌が答えた時、乗客がガラス窓をたたいて「なんでおわびの放送せーへんのや」と苦情を言う。
それに応対するため車掌は電話を切った。
オーバーランの報告がどうなるか、答えを聞けないまま電話を切られた運転士は不安で、動揺したに違いない。
車内には車掌によるこんなアナウンスが流れる。
「およそ『8メートル』行き過ぎ、運転士と打ち合わせのうえ後退で、1分半遅れで発車しております」
この後、電車は脱線した。
事故の起きた遠い遠い背景を考えると、時間厳守を追及する日本人の国民性や、数分の遅れで謝罪を要求する発想があっただろう。
100人以上の死者がでるというのは海外の大規模テロ事件のようだけど、この脱線事故の全体像は本当に日本らしくて、外国で起こるとは思えない。
515キロメートルの区間で出発時間の遅れが平均18秒なら、外国人にとってはミラクルだ。
それ以上の正確さを求めて怒り出すと、とんでもないブーメランが飛んでくる。
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